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第2話:男の娘と朝食を食べる
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午前四時半頃に目が覚める。
早期覚醒ってやつだな。
本当はもっと眠っていたいんだが、起きてしまう。
そして、いつもベッドの中で、仕事に行きたくない、行きたくない、行きたくないと思いながら、一時間くらいうつらうつらとしているのが俺の毎日なのだが。ぼんやりとしていて、三十分くらい過ぎた。
隣を見る。
あれ、昨夜の男の娘がいないなあ。
そして、俺はハッとして、素早く起きる。
昨日は頭がボーッとしてたけど、もしかして、俺のサイフとか盗んで出て行ったんじゃないのか、あの男の娘。慌てて、仕事用のカバンの中を探るがサイフが入ってない。
そして、部屋の中にある小さいテーブルの上に置いてあるサイフを見つけた。開いている。やられたと思って、慌てて中身を確認する。
しかし、意外にも万札は残ってるし、カード類もそのままだ。そして、テーブルの上にメモが置いてあるのを見つけた。
『朝食を作ろうと冷蔵庫を見たら、水くらいしか入ってなかったので、コンビニで食材を買ってきます。お金が無いので、少しお財布から持って行きました。すみません。 あゆむ』
ふーん、あの男の娘はあゆむと言うのか。
でも、朝食なんて作らんでもいいのに。
だいたい、朝は食欲が無いんだ、俺は。
朝食抜きの時もある。
なんてことを考えていたら、家のドアが開いた。黒髪のショートボブヘアーで黒いTシャツに灰色のズボンを履いた男の子、いや、男の娘か。とにかく、昨夜の子が入ってきた。
目の前にいる男性のあゆむ君。でも、ボーイッシュな女の子って感じがするなあ。それに、やはりきれいな顔立ちだな。男にしておくのは、もったいないほどだなあと俺は思った。
「おはようございます。山本さん」
あれ、なんで、俺の名前を知ってるのって思ったんだけど。
ああ、表札に『山本正夫』って書いてあるもんな。
それを見たのか。
「あの、僕は一条寺歩と言います。昨日は本当にすみませんでした。お詫びに朝食を作りますので」
「いやあ、別に気にすることじゃないのに」
「いえ、ご面倒かけて申し訳ないので。じゃあ、さっそく朝食を作りますので、しばらく待っていて下さい」
台所で料理を作っている男の娘。俺もここに引っ越してきた時は自炊をしようといろいろと料理道具やらを買ったもんだがなあ。学生時代はそれなり自分で作った事もある。
今はそんな事をする気も起こらない。炊飯器も台所に置いたまま使ってない。台所のシンクは乾きっぱなしだ。掃除する必要がないのは楽だがな。最近はいつもコンビニ弁当で済ましている。
すると、一乗寺君が料理をしながら、台所の上を指さした。
「あの、角っこの細い扉はなんですか。何となく変な感じがするんですけど」
「ああ、単なる物入れだけどさあ」
俺は縦に細長い扉を開ける。しかし、中は空っぽ。
入口は狭いのにやたら奥行きが深いし広い。
「ここに、何か入れないんですか」
「そりゃ、こんな上の方に小さい扉を付けてもらってもなあ。やたら奥行きがあって広いけど、こんな空間に物を入れても取り出すのに大変だからさ。もしかしたら、欠陥工事じゃないかって思ったこともあるなあ」
この安アパートは学生時代に入居した。その後、就職したら引っ越すつもりだったのだが、入社した途端に激務の連続。仕事が忙しくて、結局、そのまま住んでいる。
そして、男の娘の一乗寺君が作った朝食を前にする俺。
朝食に米のご飯なんて久々だなあ。
他にほうれん草、煮干し、おまけに味噌汁付き。
実家にいた時を思い出してしまった。
ご飯にもいろいろとなんだか入っている。
「これなんて料理なの」
「梅干しとしらすのおかかご飯です」
ふーん、でも、朝は俺はパンの方がいいんだよなあ。
でも、せっかく作ってくれたし、食べるしかないか。
そして、食べてみるとこれがけっこう美味しいではないか。
「あの、どうですか」
一乗寺君が俺の方を心配そうに見ている。
「いや、美味しいよ。朝食にご飯なんて久々だしね」
褒められてなんとなく嬉しそうにしている一乗寺君。ちょっとかわいいなとも思ってしまう。おっと、男の娘に興味を持ったわけではない。単純にかわいいと思っただけだ。
あれ、じゃあ、男の娘がかわいいと俺は思ってしまったのか。俺は男の娘に興味があるのか。まあ、いいや。どうせ、俺はEDだしな。
「さて、俺は職場へ行くんで、悪いけど君もこの家から出て行ってほしいんだけど」
「あの、すみません。友人と連絡がつくまでここに居たいんですけど、だめですか……」
ちょっと、またおどおどして、聞いてくる一乗寺あゆむ君。
困ったなあ。全然、見知らぬ他人を家に置いておくのはまずいよなあ。鍵も一つしか持ってないし。合鍵は実家に預けてあるんだ。
でも、よく考えるとこの部屋、盗まれるものは全然無いんだよな。お金やらスマホやら通帳やらクレジットカードやらマイナンバーカードとかはいつもサイフやカバンの中だし。
この部屋で、一番値段が高かったのはパソコンか、いや冷蔵庫だな。どっちも、もう古くて価値は無いな。後は大したものは置いてない。ああ、もう出勤の時間だぞ、面倒だ。今の俺は仕事と精神病のことで精一杯だ。
「じゃあ、鍵を渡しておくから、そのお友達と連絡ついて家を出るときは、ドアを閉めてこの鍵は郵便箱に入れておいてくれないか」
「ありがとうございます」
男の娘がパッと明るい顔をした。
こりゃ、本当に美人だね。
男だけど。
けどまあ、何度も言うが俺には、一乗寺君が男だろうが女だろうが関係ないけど。
EDなんでな。
俺は玄関まで行って、廊下に付けてあるかなり大きな鏡を見る。実家が送ってきた鏡だ。全身が映る鏡。母親が俺の身だしなみチェックのために送ったとか言ってたが、実際のところ、邪魔になったから押し付けられたって感じだな。
その鏡で自分の顔を見る。
一応、整っている顔ではあるのだが、なんだか、暗いオーラを感じるんだよなあ、自分で見ても。若白髪もかなり目立つ。
精神薬のせいかだいぶ痩せたな。太る人もいるみたいだが、俺は痩せちまったよ。大学生の頃、付き合っている彼女に振られたんだが、その最後の言葉が「あんた、暗いよ!」だったなあ。いまだに、トラウマだぞ。
さて、嫌な仕事に行くとしますか。
男の娘の一乗寺君に声をかける。
「それじゃあ、出ていく時は戸締りをしっかりしておいてくれよ」
「はい、いってらっしゃいませ、ご主人様」
「おいおい、なんだよ、ご主人様って」
「あ、すみません、仕事の癖で、つい……」
ちょっと、顔を赤くする一乗寺君。
なんの仕事だろう。
まあ、どうでもいいや。
俺はドアを開けて会社に出勤した。
早期覚醒ってやつだな。
本当はもっと眠っていたいんだが、起きてしまう。
そして、いつもベッドの中で、仕事に行きたくない、行きたくない、行きたくないと思いながら、一時間くらいうつらうつらとしているのが俺の毎日なのだが。ぼんやりとしていて、三十分くらい過ぎた。
隣を見る。
あれ、昨夜の男の娘がいないなあ。
そして、俺はハッとして、素早く起きる。
昨日は頭がボーッとしてたけど、もしかして、俺のサイフとか盗んで出て行ったんじゃないのか、あの男の娘。慌てて、仕事用のカバンの中を探るがサイフが入ってない。
そして、部屋の中にある小さいテーブルの上に置いてあるサイフを見つけた。開いている。やられたと思って、慌てて中身を確認する。
しかし、意外にも万札は残ってるし、カード類もそのままだ。そして、テーブルの上にメモが置いてあるのを見つけた。
『朝食を作ろうと冷蔵庫を見たら、水くらいしか入ってなかったので、コンビニで食材を買ってきます。お金が無いので、少しお財布から持って行きました。すみません。 あゆむ』
ふーん、あの男の娘はあゆむと言うのか。
でも、朝食なんて作らんでもいいのに。
だいたい、朝は食欲が無いんだ、俺は。
朝食抜きの時もある。
なんてことを考えていたら、家のドアが開いた。黒髪のショートボブヘアーで黒いTシャツに灰色のズボンを履いた男の子、いや、男の娘か。とにかく、昨夜の子が入ってきた。
目の前にいる男性のあゆむ君。でも、ボーイッシュな女の子って感じがするなあ。それに、やはりきれいな顔立ちだな。男にしておくのは、もったいないほどだなあと俺は思った。
「おはようございます。山本さん」
あれ、なんで、俺の名前を知ってるのって思ったんだけど。
ああ、表札に『山本正夫』って書いてあるもんな。
それを見たのか。
「あの、僕は一条寺歩と言います。昨日は本当にすみませんでした。お詫びに朝食を作りますので」
「いやあ、別に気にすることじゃないのに」
「いえ、ご面倒かけて申し訳ないので。じゃあ、さっそく朝食を作りますので、しばらく待っていて下さい」
台所で料理を作っている男の娘。俺もここに引っ越してきた時は自炊をしようといろいろと料理道具やらを買ったもんだがなあ。学生時代はそれなり自分で作った事もある。
今はそんな事をする気も起こらない。炊飯器も台所に置いたまま使ってない。台所のシンクは乾きっぱなしだ。掃除する必要がないのは楽だがな。最近はいつもコンビニ弁当で済ましている。
すると、一乗寺君が料理をしながら、台所の上を指さした。
「あの、角っこの細い扉はなんですか。何となく変な感じがするんですけど」
「ああ、単なる物入れだけどさあ」
俺は縦に細長い扉を開ける。しかし、中は空っぽ。
入口は狭いのにやたら奥行きが深いし広い。
「ここに、何か入れないんですか」
「そりゃ、こんな上の方に小さい扉を付けてもらってもなあ。やたら奥行きがあって広いけど、こんな空間に物を入れても取り出すのに大変だからさ。もしかしたら、欠陥工事じゃないかって思ったこともあるなあ」
この安アパートは学生時代に入居した。その後、就職したら引っ越すつもりだったのだが、入社した途端に激務の連続。仕事が忙しくて、結局、そのまま住んでいる。
そして、男の娘の一乗寺君が作った朝食を前にする俺。
朝食に米のご飯なんて久々だなあ。
他にほうれん草、煮干し、おまけに味噌汁付き。
実家にいた時を思い出してしまった。
ご飯にもいろいろとなんだか入っている。
「これなんて料理なの」
「梅干しとしらすのおかかご飯です」
ふーん、でも、朝は俺はパンの方がいいんだよなあ。
でも、せっかく作ってくれたし、食べるしかないか。
そして、食べてみるとこれがけっこう美味しいではないか。
「あの、どうですか」
一乗寺君が俺の方を心配そうに見ている。
「いや、美味しいよ。朝食にご飯なんて久々だしね」
褒められてなんとなく嬉しそうにしている一乗寺君。ちょっとかわいいなとも思ってしまう。おっと、男の娘に興味を持ったわけではない。単純にかわいいと思っただけだ。
あれ、じゃあ、男の娘がかわいいと俺は思ってしまったのか。俺は男の娘に興味があるのか。まあ、いいや。どうせ、俺はEDだしな。
「さて、俺は職場へ行くんで、悪いけど君もこの家から出て行ってほしいんだけど」
「あの、すみません。友人と連絡がつくまでここに居たいんですけど、だめですか……」
ちょっと、またおどおどして、聞いてくる一乗寺あゆむ君。
困ったなあ。全然、見知らぬ他人を家に置いておくのはまずいよなあ。鍵も一つしか持ってないし。合鍵は実家に預けてあるんだ。
でも、よく考えるとこの部屋、盗まれるものは全然無いんだよな。お金やらスマホやら通帳やらクレジットカードやらマイナンバーカードとかはいつもサイフやカバンの中だし。
この部屋で、一番値段が高かったのはパソコンか、いや冷蔵庫だな。どっちも、もう古くて価値は無いな。後は大したものは置いてない。ああ、もう出勤の時間だぞ、面倒だ。今の俺は仕事と精神病のことで精一杯だ。
「じゃあ、鍵を渡しておくから、そのお友達と連絡ついて家を出るときは、ドアを閉めてこの鍵は郵便箱に入れておいてくれないか」
「ありがとうございます」
男の娘がパッと明るい顔をした。
こりゃ、本当に美人だね。
男だけど。
けどまあ、何度も言うが俺には、一乗寺君が男だろうが女だろうが関係ないけど。
EDなんでな。
俺は玄関まで行って、廊下に付けてあるかなり大きな鏡を見る。実家が送ってきた鏡だ。全身が映る鏡。母親が俺の身だしなみチェックのために送ったとか言ってたが、実際のところ、邪魔になったから押し付けられたって感じだな。
その鏡で自分の顔を見る。
一応、整っている顔ではあるのだが、なんだか、暗いオーラを感じるんだよなあ、自分で見ても。若白髪もかなり目立つ。
精神薬のせいかだいぶ痩せたな。太る人もいるみたいだが、俺は痩せちまったよ。大学生の頃、付き合っている彼女に振られたんだが、その最後の言葉が「あんた、暗いよ!」だったなあ。いまだに、トラウマだぞ。
さて、嫌な仕事に行くとしますか。
男の娘の一乗寺君に声をかける。
「それじゃあ、出ていく時は戸締りをしっかりしておいてくれよ」
「はい、いってらっしゃいませ、ご主人様」
「おいおい、なんだよ、ご主人様って」
「あ、すみません、仕事の癖で、つい……」
ちょっと、顔を赤くする一乗寺君。
なんの仕事だろう。
まあ、どうでもいいや。
俺はドアを開けて会社に出勤した。
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