スコップは多分武器ではない……

モモん

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第二章

第25話 温水洗浄便座

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「次期国王、おめでとうございます。」
「いや、まだ早いし、私が王位についたら一刻も早く国民主導の政治を導入して隠居するつもりなんだ。」
「そこに持っていくのが大変ですけどね。」
「ああ、どうやって国民の代表を選出するか、具体的なイメージができないんだよ。」
「そうですね、各町から2名くらい選出してもらう。例えば千人以上が推薦署名した証拠を持ってこさせるとかですね。」
「そうすると、出てきそうなのは領主と教会長、ギルド長あたりが有力だな。」
「そういう人を集めて議会を作って、その中から代表を選んでもらえばいいじゃないですか。当面は貴族からも2名程度は参加してもらって。」
「そうしたいところなんだが、如何せん集合に時間がかかりすぎるだろ。辺境のガラムあたりになると、片道で2日以上。往復で5日も時間をとられてしまう。当然、その間は街に不在となってしまう。」
「移動手段の確保ですか……。そうだ、アリスさんに解決してもらいましょう。」
「いやいや、君の国に留学してまだ一週間。いくらなんでも、アリスがどうにかできる問題ではないよ。」
「アリスさんなら大丈夫ですよ。多少時間がかかると思いますけどね。」

 帰国した俺はアリスに会いに行った。

 アリス・スカイ・ブランドン。宰相の4女で今年31才になる。金髪碧眼のお嬢様で、髪は縦ロールしている。162cmでスレンダーな体系だが少し目つきが悪い。
 本人は結婚に興味がないらしく、王国でも事務の仕事をしていた。

「君のお父さんが次期国王に決まったよ。」
「あっ、そうなんですか。まあ、少しは住みやすくなるかもしれませんね。」
「これで君も王女様だ。好きな時に、国に戻ってもいいんだよ。」
「冗談をいわないでください。三十路の目つきの悪い4女がいきなり王女様だって、どう考えても悪役令嬢ポジじゃないですか。私はもっと平穏な一生を送りますから。」
「わかったよ。それでだ、王位につくにあたって、課題の一つである町への移動方法を改善したいというんだよ。」
「そうですね。辺境まで馬車で2日以上ですからね。前からよく何とかしたいとは言ってましたが。」
「その改善策を君に考えてほしいそうだ。」
「ちょっ……、何言ってるんですか。父がそんな無謀なことをいうはずないですよ。」
「別に、一人で全部やる必要はないよ。方向性を決めてやれば、サポートできる体制は整っているからね。」
「そんなことを言われても、やったことといえば自分用のキックボードを……あの技術を使えばいいってことですか?」
「キックボードは制限速度が時速40kmだけど、これを時速100kmにすれば10時間で移動できるよね。」
「乗れる人数と速度をあげるってことは、それだけ質のいい魔法石を使えば……。」
「そういう事だね。時速200kmならば、明るい間に往復することだって不可能じゃない。」
「でも、速度があがればそれだけリスクも……。」
「魔道具の本に飛行車の仕様と魔法式が書いてあるから、それを参考にすればいいよ。」
「本当に、私にやらせるつもりなんですか……。香水とか化粧品の研究がしたかったのに……。」
「そんなのいつでもできるでしょ。」

 その夜、俺はマジックバッグの劣化版を考えていた。
 容量は6畳間分くらい6メートルの立方体くらいでいいだろう。オークなら10体以上収容できる。
 形状はウエストポーチでジッパーで開閉。あとの機能はマジックバッグと同様で、破壊不能属性付き。
 カラーは10色で、薄くたためるから1万個入りの……ジュラルミンの箱だ。

 翌朝、俺は黒いスコップでジュラルミンの箱を掘り出し、中身を取り出してマジックバッグに収容した。
 ゆっくりと朝食をとり、共同作業場でアリスを探した。

「あれっ、なんでマツリが一緒なの?」
「イライザさんにいわれて、アリスさんのお手伝いをすることになりました。」
「マツリちゃんに言われて、トイレをつけようと思ってるんですよ。」
「ああ、長時間の移動だからトイレはあったほうがいいね。」
「完全に音を遮断して、発生した汚物は消毒・乾燥・粉砕して空中散布する予定です。もちろん、ここと同じ温水の洗浄便座にしますから快適ですよ。」
「そうね。ここのおトイレを使ったら、ほかのおトイレはもう駄目よね。実家なんて絶対に帰りたくないわ。」
「おいおい、俺も使ったことがあるけど、豪華できれいなトイレだったぞ。」
「そりゃあ、お金はかけていますからね。専門の魔法師が待機していて、使ったらすぐに汚物の処理とクリーンの魔法で綺麗にしていますし、消臭も完璧ですわ。」
「そんなに手間をかけていたなんて知らなかったよ。それでも、ここの方がいいんだ。」
「当然ですわ。ブランドンのおトイレを、全部改修したいくらいですもの。」
「あはは。国王就任のお祝いに、トイレをプレゼントしてあげようかな。」
「それは、すべての女性から感謝されますわ。ぜひ、実現してください。」

「ところで、これなんだけど……。」
「何ですの?ベルト?ポーチ?」
「ウエストポーチといって、腰につけるバッグなんだ。まあ、貴族が使うようなものじゃないけど、一応マジックバッグになっていて6メートル四方の収納が可能なんだ。」
「ま、まさか、首脳の皆さんが使っていらっしゃる……。」
「容量は全然少ないんだけど、それでも、身の回りのものを入れて置いたり、何かを運んだりするときには便利だと思うよ。ほら、マツリにも。」
「あっ、ありがとうございます。真豪具として解析できていないレアアイテムですね。うれしいです。」
「鬼人族の狩り用に作ったんだ。これならオークを10匹くらい入れられるし、傷薬や食料も入れておけるからね。」
「これを全ての国民に配布するんですか?」
「配布というか貸与なんだけどね。全員というわけにはいかないから、必要と思える人には貸出していくつもりだよ。」
「魔法とか、魔道具とかだけでも飛びぬけたレベルなのに、こんなレアアイテムまで広まったらもう別の世界みたいですよね。」
「ここがどういう国なのか広まったら、世界中から移住希望者が殺到しますわね。」
「まあ、まだ空いている土地はいっぱいあるから人は増やしたいんだけど、問題を起こしそうな人は遠慮して欲しいしね。あっ、そうだこれも使ってよ。」
「な、何ですの、この箱は……。」
「アルミの合金ですね。軽量で硬くて、錆びにくいんですね。」

 鑑定メガネを常備しているマツリには分かったようだ。

「軽くて強度があるってことは、空を飛ぶ乗り物に適している金属ということですわね。」
「ああ。ボディーは炭素繊維系がいいかもしれないけど、少なくともシャーシーには使えると思ってね。ああ、マツリにはこれも渡しておくよ。」

 俺は、何でも切れる折り畳みナイフをマツリに渡した。

「これもレアアイテムですね。もしかして、宝石のカットとかにも……。」
「ああ、何でも切れるんだ。」
「まったく、ススムさんのレアアイテムってどうなっているんですか?そもそも、みんな普通に受け入れていますけど、メイドさんなんて魔法式を表示しようとするとエラーって出ますからね。」
「あはは。そこは突っ込まないでよ。」

 笑ってごまかした。だけど、このコンビは面白いかもしれない。
 合理的な思考で、かつ政治的な配慮のできるアリスと、天才的な魔法の知識を持つマツリ。
 二人がどんな化学反応をみせてくれるのか、なんとなくワクワクしてきた。


【あとがき】
 トイレです。
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