悪役令嬢の居場所。

葉叶

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いつから歪んだのか。

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「久しぶり…ではないか。」

ハハッと笑うこの顔を私はよく知ってる
だけど、私が知ってる彼ではない。
彼とは全く違う瞳の色。

「な、何で…?」

だけど、わからない。
どうして彼と真斗が親しげなのか、わからない
何で、何でこんなにも彼に似てるのかわからない

「瑠璃、覚えてる?
あの日俺と瑠璃が交わった日の事。
お腹が大きくなったときの事。
…そして赤子を産んだ事。覚えてる?」

覚えてる。
産まれて間もない子供を抱きしめる事は叶わなかった
真斗に取り上げられ私はあの世界に帰された。
例え強姦の末にできた子でも自分のお腹でスクスク育つ子を憎めなかった
お腹を蹴られれば痛いのに愛おしさが溢れた。
産まれる時痛くて痛くて堪らなかった。
もうやめたいと何度も願った。
だけど、そんな事産まれた子を見れば…全部吹き飛んだ。
もっと抱いていたいと、何度も私は願った。

だけど…それは許されなかった。

「…っもしてかして…で、でもこんなに大きい訳…ない」

彼が私との子供なら真斗と親しげなのも
ここに居るのも納得がいく。
だけど、おかしいではないか
彼は私が小さな頃からあの姿で居たのだ。
私が産む前よりも前に生まれている。
矛盾がおきる。
でも瞳の色が違うのは?
どう見ても瓜ふたつな目の前にいる彼と私が知る彼の違いは瞳の色だけ

「ふふ、瑠璃の考えてる通りだよ。
彼は僕らの息子だよ。前回の、ね。
俺はね、瑠璃と俺との間の子供を育て瑠璃の元に送ってたんだ。
瑠璃が寂しくないように。
本来なら、俺の力が強く出ているのなら一定の年齢で成長が止まるし死ぬ事はないんだけど
俺の血が色濃く出たのは今回の子だけだった。」

「な、何を言って…」

理解したくない。

「ハッキリ言ってほしいの?
骸は瑠璃が作り出した存在じゃない。
俺が骸を此処から送ったんだよ。
勿論瑠璃が母親という事はわからない様に記憶は封じさせてもらったけどね。
此処に来たら自動的に骸の記憶の鎖も解けるよ。」

「な、何でそんな事…っ!?」

仮にも彼の子供でもある。
子供には幸せに育って欲しかった
望んで子を身籠った訳ではない。
だけど、それでも幸せに生きてもらいたかった。
出来れば自分の手で育てたかった
私が母や父から愛され育ったように育てたかった。

「何で?どうしてそんな事を聞くの?
骸が居たから瑠璃は寂しくなかったでしょう?
元々俺にとっては瑠璃だけが特別なんだよ。
確かに瑠璃の血を半分受け継いでいるけど
彼等は決して瑠璃じゃない。
まぁ、それでも瑠璃に似た顔立ちをしてるから愛情はあるよ?
だから、記憶を封じてあげたんじゃないか。
だって母親は自分を覚えてないばかりか
自分が母親を育てるなんて可愛そうだろ?」

「っそういう事じゃないっ!
私はっ!こんな事をしてもらいたくはなかった!
子供から引き離される事も!子供に育てられることも!誰かを不幸にしてまで記憶だって取り戻したくはなかった!!
真斗はさっきから私の為私の為だって言うけど
全部私の為なんかじゃないじゃない…っ!
貴方が!貴方の為に!やったんじゃないっ!!」

キッと真斗を睨むとポカンと間抜けな顔をしていた。
その顔を見てたら更に腹が立つ

「私と子供を引き離したのも、貴方が子供に私を取られるのが嫌だからじゃない。
いつもいつも昔から貴方はそうやって私と周りを遮断してきたの忘れてると思った?
妹と私を引き剥がさなかったのは、妹を排除したら私との関わりがなくなるのがわかってたからでしょ?
私が家族を大事にしてるの知ってたもんね
それなら、何で自分がお腹を痛めて産んだ子供なら大丈夫だと思った?
貴方は私の記憶が戻るのを待ってたと言ったけど
記憶が戻った私が…こんな事をした貴方を簡単に受け入れると思ったの?」

受け入れたいと思えない
許したいと思えない
私が好き故にやった事だとわかっている。
彼が独りを恐れていたのをわかっている。
だけど、それでもやっていい事とやっちゃいけない事がある。
此処で、そこまで私を愛してたのね、私も愛してるわ、なんて受け入れてしまえば彼は今後同じ事が起きた時また同じ事をする
もしかしたら今回よりも酷くなるかもしれない
被害が私だけならまだ良かった
でも、今回は違うじゃないか
発端は女神とはいえ、世界そのものを巻き込んだ。
規模が大き過ぎるんだ。

「私は…貴方を許せない。受け入れたいと…昔の様に思えない。
貴方は私が好きだった真斗じゃない。
私の事が大好き過ぎて馬鹿な事ばっかやって私に怒られてはションボリしてた真斗じゃない。
だって、私が好きだった真斗はこんな事しなかった。
私が本当に嫌がる事は決してしなかった…っ」

鬱陶しいと思う事もあった。
1日の殆どを共に過ごし365日一緒に居た。
小さい頃から隣には真斗が居た。
私が真斗を好きになったのは、顔が良いからでも勉強が出来るからでも、運動神経が良いからでもなかった。
正直言って毎日大好きだよと他の女には目もくれずに私に囁き盲目的に私を愛してた真斗の束縛は異常だったと思う。
GPSや盗聴器は当たり前だったし
抜き打ちで興信所を使い私の周りを調べては私に近づきそうな人を事前に跳ね除けていた。
真斗の部屋には空白な壁が無いくらいに私の写真で埋め尽くされ
クローゼットに隠された箱には私が何月何日に使った箸だとかストローだとかが隠されてた。
私の携帯を毎日勝手に見てたし気が付けば待ち受けが満面の笑みの真斗とかき氷を食べてる私の画像に変わってたりした。
付き合う前からこんなんだったのだ。
鬱陶しいと思わない方がおかしい。

そんなんでも私は真斗に恋心を抱いた
私が真斗に恋心を抱きはじめたのはいつからだったかハッキリとは覚えてない
ただ、気が付けば好きだった。
誰も気づかない私の不調を気付いてさり気なく飲み会から助けてくれたり
私が嫌いな食べ物と半泣きで格闘してると
何故か真斗も嫌いな食べ物と一緒に格闘してくれる所が好きだった。
頑張って真斗の気持ちに追いつこうとする私の為に
私の所まで戻って一緒に歩もうとしてくれた真斗が好きだった。

私が知ってる真斗は、自己中で束縛魔で泣き虫ですぐ自殺未遂するような奴だったけど
こんな事をしでかす人ではなかった。
…何でこうなっちゃったんだろ
どうして幸せは長く続かないんだろう。

私はどうすれば良かったんだろ
どうしたらこんな事にはならなかった?
どうしたら…真斗は、自分が泣いてるのに気づかない人にならなかったんだろう。


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