人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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18章 王位剥奪

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伝言を聞いて、オレはすぐに立ち上がった。
「王子!」
すぐにフレッドに咎められる。
「肝心の王子が居なくなってどうすんの? ひとまず、モーリスさん、伝言の中身を全部教えてよ」

モーリス殿が体をずらすと、うちの騎士団の1人が後ろから顔を出した。

「コンラッド隊長が帝国行きの船に乗船しようとしたところ、乗り合わせた帝国軍の兵と言い争いになり、コンラッド隊長と帝国兵は港警備員に取り押さえられています」

ディリオンは額に手をあてる。
「何をやっているのだ。あいつは!」

怒るディリオンに、騎士が言う。
「ですが、何か様子がおかしかったです。まるで、足止めをするために帝国兵が突っ掛かってきたような、そんな感じがしました」

オレたちは、ハッと顔を見合わせる。
「船はっ、船は出航したのか!?」
騎士はその勢いに怯えながら答える。
「はっ。まだ出航はしていませんが、このままだと我々が乗船できないまま、出航するものと思われます」

またボナールから情報が漏れていたのか?
港で奴隷売買の証拠が押収されたのは、他のものの目に触れていただろう。
そこにランバラルドから突然の訪問の申し入れがあれば、なんらかの足止めを計画してもおかしくはない。
オレたちが調べたところによると、次の帝国への連絡船は一週間後だ。
その間に、捌けるだけ捌いてしまおうという腹か。

「王子、オレ、コンラッドのところへ行ってくるよ」
フレッドが飛び出そうとする。
「待て、フレッド。オレが行く」
「でも、王子が交渉の場からいなくなっちゃダメじゃん」
「書類記載の文言は全て決まった。あとは調印だけだ。モーリス殿、もうこの後はオレはいなくても問題ないな?」

突然振られてモーリス殿は狼狽えながらも答える。
「国王が同意したのはわたくしが見ております。王太子殿下がいなくても、あとは大丈夫かと」

逆に、きちんとした引受人がいなければ、コンラッドの方は開放されない。

「そういうことだ。ジェイミー、外に居るんだろ? お前の馬を借りるぞ」

言いながらオレは飛び出した。

王家の紋章を所持していることを確認して、すぐにジェイミーの馬に飛び乗った。
そのまま馬を走らせる。
馬車で行けばかなり時間がかかるが、単騎で急げばまだ出航までには間に合う。

オレは一心不乱に馬を走らせた。

港に着き、警備棟に駆け込む。
入口のドアを開けると、コンラッドの大きな声が響いていた。
「だから、手は出していないと、何度言ったらわかるんだ!」
「いや、オレはこのランバラルド人に殴られた」

ここから見た限りでは、警備員の態度は帝国兵寄りだ。
賄賂を掴ませているのかもしれない。

「失礼。ランバラルド王太子、ライリー・ランバラルドだ。部下が何か失礼でも?」
警備員とコンラッドの間に割って入る。
「お、王太子? あ、いえ、あの、こちらのランバラルド人がですね、こちらの帝国兵を殴ったという話がありまして」

オレは帝国兵を見る。
「殴った? どこを?」
「え? えーと、腹を」
「へぇ。じゃ、見せてみろよ」
「は?」
「殴ったというなら、殴られた証拠を見せろ。あ、オレが王太子だという証拠はこれね」
外套の下からチラリと紋章を見せる。
「ひっ」

怯えたような顔をする帝国兵。
「今すぐ撤回するなら罪は問わん。さあ、腹を見せるか撤回するか、はっきりしろ!!」
「も、申し訳ありませんっっ」

オレは警備員に詰め寄った。
「おい。無実が証明された。開放でいいな?」
「は……」
「いいなっ!」
「はいっ!」

オレはコンラッドの腕を掴み、立ち上がらせた。
「王子、オレ」
「わかってる。罠にはめられたんだ。気にするな。それより、船が出ちまう。乗れるか?」
「もちろんだとも」
「船にはあいつの仲間の帝国兵がいる。なるべく船室から出るな。また諍いをふっかけてくる可能性がある」
「わかった」

2人で走ると、船の前に騎士団の面々が待っていた。
「早く全員乗れっ。出航するぞ」
慌てて船に乗り込んでいく。

「コンラッド、後は頼んだ」
コンラッドは船に乗る前に一度だけ振り向いた。
「船で喧嘩の汚名返上はしてくる。そっちも頼んだぞ」
「おうっ!」

コンラッドが船に乗り込んだと同時に、出航準備に取り掛かり、間もなく帝国へと船は出発した。

「ふぅ。危なかった……」
奴隷と言えど人間だ。
野菜のようにすぐに売れたりはしないが、一週間早いか遅いかでは、助けられる人数が変わってくるだろう。
乗れて良かった。

もう調印は始まっている頃だ。
あとはゆっくり帰ろう。

海を横目にゆっくりと馬に乗って帰り道を辿る。

海の水がキラキラと反射する。
キラキラと……。

オレの中で何かが引っかかる。
国王が示した地図には、火山からの川が流れていた。
オレも見たことのある、そう小さくはない川だ。
川の水がキラキラと太陽を反射するところを思い出す。
川の水。


『ランバラルドとの国境から、ずっと流れている川があるんですが、何故かそこの近くの作物は雨が降らなくてもしおれないんです。うちも近くとは言い難いですが、なんとか川の恩恵を受けられたようで、葡萄も実ったままです。そんな奇跡がいつまで続くか』


川だ……!
あの地図の中にはランバラルドとの国境付近からボナールに流れる川が入っていた。

オレが契約している葡萄園で聞いた話だと、雨が降らなくても川の水があれば作物が枯れない奇跡の川だ。


国王の狙いは、おそらくそれだ……!


オレはまた、全速力で馬をボナール城まで走らせた。
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