人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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20章 虹の国の後継者

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「待たせたな、シャーロット。いや女王陛下」
コルビー前国王は、疲れたような表情をしつつも、笑いながら席についた。

ディリオン様がコルビー前国王に言う。
「奥方も、一緒に話を聞いてもらえないだろうか」
コルビー前国王はピクリと左の眉を上げた。
「関係なかろう?」
「いえ、是非奥方様にもお聞きいただきたい」
ディリオン様の強い物言いに、コルビー前国王は不満を顕にしつつも、前王妃を呼び寄せた。

ドアを開けて入ってきた前王妃は、やはり眉を寄せて不快感を隠しもせずにコルビー前国王の隣に座った。
「一体、何の用なの? シャーロット。わたくしたちを追い出して、着いた王座はさぞ座り心地がいいようね」
前王妃はちらっとライリー殿下へと目線を送る。

2人が席に着いたところで、私は早速話を切り出した。
「コルビー前国王。この領地に流れている川を、元に戻して欲しいの」
コルビー前国王は、私が何を言いにきたのかわかっていたのだろう。
私の顔を見た後、そばに居たメイドに耳打ちをする。
メイドは一度奥へと引っ込むと、何やら資料を持って再度部屋に入ってきた。
「ご苦労。もう下がってよい。お前たちも下がれ」
コルビー前国王は資料を持ってきたメイドと、お茶を入れてくれたメイドを下がらせた。
これで、この応接間にいるのはコルビー前国王夫妻と私たちだけになった。

「シャーロット、これを見てくれ」
コルビー前国王は資料を開いた。
資料を手に取り中身を改めてみると、この領地の経営内容が書かれていた。
「この地は痩せた土地だ。川の水でも売っていかねば川の水の前に、我々が干上がってしまう」

私は資料を手に取り、内容を読んだ。
領地経営のことはよくわからないけれど、川の水を売ってやっと黒字になっている。
「で、でも、王室から年金を出していると聞いています。生活するには年金があれば充分なのではないでしょうか」
私の言葉に、前王妃が目を吊り上げる。
「まぁっ! なんて心無いことを言う娘なんでしょう。育ててもらった恩も忘れて」
それから、ライリー殿下に扇で口元を隠し、流し目を送る。
「ランバラルドの王太子殿下、こんな薄情な娘よりも、セリーヌの方が美しく、情も厚い王女です。この娘のせいで、王女の身分のまま、こんな僻地に追いやられた可哀想な娘を、殿下のお妃にしてはいただけませんこと?」

私はびっくりして前王妃を見つめた。
私を貶しつつ、セリーヌ様を売り込むなんて。
しかも、水を奪ってボナール国民を苦しめていることを咎められているこの時に。

「この際はっきり言うが、セリーヌ王女を妃として迎えることは絶対にない。今日はそんな話をしにきたのではない」
ライリー殿下は表情を変えずにきっぱりと断った。

残念そうにライリー殿下を見つめる前王妃の視線に、私は背筋が冷たくなった。

「そ、そんなことより、川の水を元に戻してください」
「まあっ! 姉の縁談をそんなことだなんて。あなたはいいわ。側妃という立場も手に入れ、王座も手にして。セリーヌを可哀想だと思わないの? あなたのせいで、即位も邪魔され、ランバラルドの妃の座も奪われて」

キンキン声で怒鳴られると、いつも私は小さくなって我慢するしかなかった。
十数年の習慣か、私は身を縮まらせてしまい、反論ができなくなってしまっていた。
「自業自得なんじゃない?」
私が震え出す前に、フレッド様が庇ってくれる。
「シャーロットちゃ、陛下は、きちんと国民をみているいい女王様だよ。褒められこそすれ、あなたにそんなことを言われる筋合いじゃない。それに、この帳簿、でたらめだね。オレが調べたところじゃ、もっと領地収入があったはず。どこに隠してるの?」

ぱんっと、フレッド様は帳簿を机に叩きつけた。
前王妃は一瞬ビクッと身を強張られたが、すぐにまた口元を扇で隠し、微笑んだ。
「知りませんわ。だいたい、自分の領地のものをどうしようと勝手でごさいましょう。ここは、きちんとした話し合いの元、いただいた領地ですのよ」

ライリー殿下は組んでいた腕をほどき、机に手をつき2人に迫った。
「その、契約書が無効なものだということがわかったんだ。領地譲渡の話は、白紙に戻させてもらう」
「なっ、何ですって! 王家の者が権力にモノを言わせて契約を白紙にするなんて! 裁判所に訴えてやるわ」


何故か、ライリー殿下の言葉に激昂したのは、前国王ではなく、前王妃の方だった。
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