真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#083 『土の下』

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 『テレビでウ〇トラセ〇ンをやってた頃』の話だというから、もう50年近く前のことであろう。

 当時小学三年生だった大増おおますさんは、「自分で言うのも何だが、ネクラな子供」だったという。

 虚弱体質の為 あまり身体を動かすことを好まず、かといって勉強が出来たり 何か一つ他人より秀でた特技や 趣味があるわけでもない。別に友達から仲間はずれにされているわけではないが、気付いたら一人で遊んでいる。

 たまに家の外へ出てみると、河原や野原で適当な大きさの石をひっくり返し、その下に蠢いていたダンゴムシなどを捕まえて名前をつけ、「ねぇダン吉、遊びましょ?」「やぁダン子、今 宿題してるから、後でな!」などと お人形遊びのように弄んでいたという。

「気持ちの悪い子供でしょ」

 笑顔でご本人から尋ねられたので、「孤独を愛する少年だったのですね」と答えた。

 その〝虫ごっこ〟は、屋外の遊びの中で最も楽しいものであったという。

  ※   ※   ※   ※

 ある日曜日の昼下がりのこと。
 あまりに良い天気だったので、「よし、今日はまたダンゴムシで遊ぼう」と 大増さんは思い立った。
 いつもは近くの河原や野原で虫を探していたが、その日は家からちょっと離れた場所にある雑木林まで行ってみることにした。はじめて行く場所だから、もしかして大物のダンゴムシでも居るのではないかと考えたのだ。

 わくわくしながら行ってみると、林の中は意外に薄暗く、足下もギュ、ギュ、と軽く沈み込むようで、あまり気持ちの良いところではなかった。
 こわいな、ダンゴムシだけ捕まえて 明るいところに持って行って遊ぶか――と思ったが、そもそも林の中には石が少ない。いつも『石をひっくり返して虫を捕まえる』方法をとっていた大増少年は、大いに悩んだ。

 だが、ここで思いつく。
 そうだ、捕獲方法を変えればいい。

 足下は、幾重にも積み重なった わくら葉の層だ。これを取り去ってみれば、土と落葉の間のところに ダンゴムシがいっぱい居るのではなかろうか?
 ひらめいた瞬間、実行していた。両手でわさわさと、色の変色した葉っぱを掻き分け、ムカデやワラジムシ(当時、ダンゴムシと違ってワラジムシは毒虫だと大増さんは思い込んでいた)に注意しながら 一心に虫を探した。

 顔が出た。


「え?!!」


 眉の無い、透き通るような色白の、女の人の顔。
 それが、わくら葉の下から いきなり現れた。
 死体?―― いや、唇がぴくぴくと動いている。
 両目は、これでもかというほどカッ開かれて充血している。

『おまえの、』

 口をきいた。


『おまえの、父と母の寿命は――』


 いけない、と瞬時に思った。
 そこで大増さんは何と、持ってきていたズダ袋型のバッグを、その白い女の顔の上に ボフッ!と被せたのだ。

「わぁー、わぁー、わぁー!!」

 あとは、脱兎であった。
 叫びに叫びながら、家まで息を切らせて走り帰った。


「たいへん、おばけ、おんなのひと・・・」

 泣きながら とにかく居間の方へ行ってみると、ビックリした顔のお祖母ちゃんと目が合った。
 どうしたね、苛められでもしたかね、と尋ねてくるお祖母ちゃんに、「違う違う、お化け、お化けの顔」と パニック状態のまま状況を説明した。
 あまりに恐慌を来たしすぎていた為、お祖母ちゃんが大増さんの言うことを理解するのにはかなりの時間を要したようであるが、

「ふんふん、そりゃ面白いネ」

 お祖母ちゃんは、目を輝かせてニッコリ笑った。
 よし、行くぞ という。

「行く?あそこに行くの?!」
「当たり前だよ。ズダ(バッグ)を忘れて来とるだろ」
「いらない!もうあんなのいらない!!」
「そんな勿体ないこと言うもんじゃないよ。お祖母ちゃんにもお化けを見せな!」

 否応も無く、現場へ戻ることになった。


  ※   ※   ※   ※

 それから30分ほど後。
 林の中へお祖母ちゃんを案内すると、果たしてバッグはそのままの形で在った。
 お祖母ちゃん、気をつけて。バッグを取ったら 顔が睨むよ!と大増さんは震える声で注意を促したが、お祖母ちゃんは何の躊躇も無く バッグを取り上げた。

 顔は無かった。
 茶黒い土肌だけが、そこにはある。

「あれ、何で・・・?」
「ふふん、お祖母ちゃんの父ちゃんも母ちゃんも、とっくに亡くなっとるからだろ」

 そういう問題なのか、と感心していると、お祖母ちゃんは家から持ってきていた鍬を 露出した土に向かってガシッ、と打ち込んだ。
 若い頃は男に混じって野良仕事をしとったんじゃぁ、と嬉しそうに言いながら、むせ返るような臭いの土をどんどん 掘り返していく。

 大増さんは、お祖母ちゃんが狂ってしまったんじゃないかと本気で心配した。
 だが、「お化けの正体を見たくないか?」「きっとこの下に、何かがあるぞ」と まるで宝探しを楽しむようなお祖母ちゃんの言い分に、少しずつ大増さんも「何が出るんだろう」と 心をときめかせ始めていたという。

 20センチほど、たっぷり掘り起こしたくらいだろうか。
 何じゃこりゃ?とお祖母ちゃんが声をあげた。
 土の中から、微妙なカーブを描く 白茶けたものを取り上げる。

「何、何、それ何?」
「フーン・・・」

 しばらく考えた後、「こりゃ、あいたァ~」とお祖母ちゃんは困ったように漏らし、

「しっちょちょわしか(穢らわしい)。こりゃ人の顎の骨だわ」

 顔をしかめて言った。
 ――大増さんは、開いた口が塞がらなくなった。


  ※   ※   ※   ※

 仕方ないので、その骨は菩提寺の住職さんのところまで持って行った。

「こ、こりゃ・・・えらい方を連れて来たもんじゃな」

 住職さんは、下顎骨を手にとって一目見るや否や、渋い顔で漏らした。

「この女の人は、自分の目の前で両親を殺されとるよ。何百年も前にな。じっくり嬲って嬲って、殺したヤツらはその反応を見て面白がっとったようじゃ・・・最後はこの人自身も乱暴されて殺されたが、恨み辛みが強すぎたんじゃなぁ。この骨だけは土に還らず、近くを通る人間に怨念をぶちまけておる」

 何の説明もしていないのに、住職さんはすらすらとそう語る。
 青くなった大増さんが『おまえの、父と母の寿命は・・・』と言われたことを話すと、「その後の言葉を聞いたのか?!」とすごい剣幕で怒鳴られた。

「う、ううん。慌ててバッグを被せたから・・・」
「――そうか。そんならいい。良い対処法だったのぉ」

 住職さんはハァ、と一息して、「この方は儂が預かろう」 決心したように仰った。

「これも仏縁じゃ。毎朝ありがたいお経を聞かせて、早く仏と成って頂こう」

 これからは変なところで変な遊びをするんじゃない、と口を酸っぱくして怒られた。
 すいません、すいません。お祖母ちゃんと一緒に、何度も何度も謝った。


「・・・・・・結局、お化けは見られんかったな」

 お寺を出る時、お祖母ちゃんは残念そうに そう呟いた。


  ※   ※   ※   ※

 果たしてその後、大増さんが悪霊の害を被ることは無かった。
 一週間、一月経ったが お祖母ちゃんやご両親にもおかしな出来事は起きず、ほっと胸を撫で下ろしたという。


 ――それから更にしばらくして。

 おつとめをする為に自宅を訪ねられた住職さんに、大増さんは「あの骨、もう天国に行った?」と尋ねてみた。

 すると、住職さんの表情が曇った。

「・・・いいや、まだじゃ。あれは よっぽど悪い。本人に、まったく仏に成るつもりが無いようでな。隙あらば、周りの人間をメチャクチャにしようとしよる」

 儂が生きているうちには無理かも知れん―― そう言って、合掌された。


 改めて怖くなったので、その後 大増さんが骨の女について訊くことは無かったという。
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