真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#091 『四天王が見たモノ』

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 80年代の中頃だという。

 仁木にきさんは、通っていた中学校の中で『四天王』の一人として恐れられていた。
 つまり、この学校には 滅法ケンカの強いヤンキーが四人居て、その中の一人が仁木さんだったわけだ。
 四天王は皆 仲が良く、他の三人は3年生で、仁木さんだけが2年生だった。

「四天王、だなんて 今から考えればダッセェかも知れんですけどね・・・ まぁ当時は、本気でチョーシ乗ってましたから」

 自分たちは果てしなく強くてカッコイイと思っていたという。

 舎弟的な連中はたくさん居たが、〝行動〟を起こす時は必ず四人でやっていた。数に頼らない少数精鋭主義が彼らの美学であったし、実際 10対4のケンカで〝四天王〟は他校の不良どもに圧勝したこともあった。
 腕っ節が強かったのは事実かなぁ、と。清々しいほどのドヤ顔で、仁木さんは語られる。

「正直、武勇伝 多いですよ・・・ でもね、誰にも話していない、奇妙な思い出ってヤツが。ひとつだけ、あるんだなァ――」

 是非とも聞かせて下さい。頭を下げた。


  ※   ※   ※   ※

 折しも、稲刈りが終わった時節のこと。

 秋日の厳しい ある日曜日。四天王は、全員揃って〝遠征〟を挙行した。
 〝遠征〟とはつまり、他の校区まで遠出して他校の〝縄張りシマ〟の中をブラつき、それが気に入らずにケンカを売ってきたヤンキーどもを返り討ちにする、という彼らの『恒例行事』のことだ。

 ヤンキー文化華やかなりし当時、「日曜に学ラン着て眉にソリ入れて他校のシマを練り歩くようなヤツには 自由にケンカふっかけてOK」という暗黙の掟があったのだという。

「ケンカ売ってくるヤツを迎え撃つのがカッケーんです。自分からケンカ売るなんてイモい真似、したことない」

 他校のシマに思わせぶりな格好で侵入する行為自体ケンカを売っているように思えるが、「ソコは違うんだよなぁ」とのこと。

 とにかく、その日の朝。四人は溢れんばかりの闘志をウズウズさせつつ、移動手段としての電車の中へと乗り込んだ。
 目指すのは、6つも駅を経た市内某所。猛者ヤンキーが多いことで有名な一帯である。
 最初こそ「相手がこう来たらオレはこうやり返すな」などとケンカ談義に花を咲かせていた一同であるが、やがて無聊をもてあまして言葉少なになっていった。
 陣取った席の車窓からは、綺麗な丸坊主に刈り取られた田畑しか見えない。

 つまらない時間となった。

 今と違って携帯端末の類いが存在しない当時。さしもの四天王もやること無しに、それぞれが漫画を読んだり煙草をふかしたりと、各々の暇つぶしに精を出していた最中――

「う、おおおおおお?!!」

 心の底から絞り出したかのような絶叫を、仁木さんは自分の向かいの席から聞くことになる。

 びっくり仰天して 読んでいた漫画から目を離して前を見ると、四天王の中で一番ガタイの良い西川氏が、車窓に食い入るようにピッタリ張り付き、目をカッ開きながら外の風景を凝視しているではないか。
 よくよく見れば、彼の視線は、電車の後ろ 過ぎ去った田畑に注がれているように見受けられる。

「おい西川、どうしたァ?!」
「アホみてーな大声出してんじゃねェーよ!」

 四天王の残り二人は、呆れた顔で西川氏にツッコミを入れる。
 西川さん、まったく どうしたの?仁木さんも、半笑いでそう尋ねてみた。


 西川氏は、目がマジだった。
「今、そこのっ、そこにっ、」
 マジな口調で 3人に訴える。


「そこの畑で、農家のオッサンが、竹槍で大蛇と戦ってたんだッッ!!」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ――5秒間は、みんな固まっていただろう、という。
 その後、

「・・・プッ! ぎゃはははははははは!!」
「おめ、ぶふっ!本気で言ってんの?ぷふふ-!」
「はははは!何だ西川さん、シャブやってたんスか、知らんかった~!」

 三人は、滑稽なことを言い出した西川氏を思い切り笑った。西川氏がキレて怒り出すところまで、三人とも想定内のリアクションだった。
 が、予想に反して 西川氏は激昂しなかった。
 真剣な顔で、もう一度、

「今、農家のオッサンが、竹槍で小さな龍と戦ってたんだよッッ!!」

 大蛇じゃ無かったのかよ、と仁木さんは思った。たぶん、残りの2人も。

 ――いや、オレもおかしいとは思うよ。でも、ボーッと外の風景を眺めてると、見たんだ。麦わら帽子かぶった農家のオッサンが、竹槍みてーなので 何かを突いてたんだよ。よく見れば、それァ大蛇なんだ。ううん、小さな龍だな。恥ずかしいよ、オレ、ビビっちまったよ。何だよアレ。あんな生き物がこの世に居るのかよ?!――

 ・・・・・・大丈夫か?本当にシャブをやり始めて 頭がおかしくなってしまったのではないか。仁木さんは、心の底から西川氏の正気を心配した。

 そこを境に、四天王から 言葉が消えた。

 皆、外の景色だけに集中している。場の異様な雰囲気に呑まれてしまい、皆が皆、呆然と外を眺めるだけとなった西川氏に従うかたちになったのである。

 と。いくらも経たぬうち。

「え」
「あ、」
「あれっ?!」

 一同が見つめる窓の外、ずっと向こうの畑に、一人の農夫らしき人の姿が見えた。

 麦わら帽子をかぶって、何か長いものを振るって大きな何かに突き刺している。

 それは、バカでかい案山子だった。

 本当に、闇雲にでかい。2m――いや、3mくらいある、巨大な案山子。

 案山子――にしか見えなかったが、実際、何だったのか――

 農夫が武器を突き刺すと、左右に大きく揺れる。

 その揺れ方も、尋常ではない。暴風にしなる細木のような勢いだ。


 それは 電車の速さに追い抜かれ、直ぐに見えなくなった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 全員が沈黙する中、西川氏が呟いた。


「・・・何だ今の・・・」


 オレが見たのは、龍だったのに――


  ※   ※   ※   ※

 結局その後、予定通り〝遠征〟は挙行された。
 〝四天王〟の名は仁木さんらが思ったよりも遠方まで鳴り響いていたらしく、何度かヤンキーと思しき制服姿の少年らとすれ違ったが、誰もがドギマギした様子ですんなりと道を譲り、ケンカを売ってくることは無かった。

「・・・・・・正直、助かりました。実はあの時、オレら全員、頭 半パニック状態で・・・・・・誰かがガン付けでもしてきたら、ほぼ100%、マトモに反応しきれなかったと思います」

 じゃあ何故、そんな状態で遠征を・・・と私が言いかけると、「そりゃヤンキーの意地ですから」 間髪入れず、仁木さんは答えた。
 目が据わっている。

「男にゃ、どんな体調・精神状態でも、一度決めたらやり通さなきゃならないことがあるんだ。板前なんでしょ?松岡くんは。そこらへんの軟弱な男と違うでしょ。それくらい わかるでしょ?!」

 何かのスイッチが入ってしまったらしい。
 ・・・私は、何も言い返すことが出来なかった。



 ――ちなにみ言い添えておくと、
 その後、四天王の〝遠征〟の頻度はかなり低めになったという。

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