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#094 『トーッピ!』
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富岡さんという男性が熊本の大学に通っていた3年前の話である。
時節は、うららかを絵に描いたような春。その、日曜日。
あまりの気候の良さにアパートの自室で何も考えずに寝転んでいると、不意に眠気が差してきたという。
(ン・・・たまには昼寝ってのもいいか、な)
まどろみに身を任せて、目を閉じた。
今日はとくに予定も無いし。予想以上に寝過ごしてしまっても、酒を飲めばまた直ぐ眠れるだろう。そう高をくくった。
と。
――さらさらさらさら・・・
外で、さやかに雨が降るような音が聞こえてきた。
(おや・・・? にわか雨が降るような天気には思えなかったけどな・・・)
まぁいいや。洗濯物とか干してるわけじゃねぇし。
さして気にもせず、再び心地よい眠りに身を任せようとしたその時、
〝かみを もやしてください〟
ギョッとして飛び起きた。
・・・今、小さな女の子みたいな声が聞こえたけれど・・・?!
部屋の中を見回すが、当然、そんな幼女の姿など何処にも居ない。居たらいろいろ、大変である。
空耳か・・・と思いつつ、何気に窓の外に目をやってみた。
「あれ?!」
快晴である。
雨が降った気配など何処にもない。何処も、濡れていない。
・・・さっきの「さらさらさら・・・」という音は何だったんだ?あれも空耳?
「――気持ち悪っ」
何だか部屋に一人でいるのが怖くなって、とりあえず外へ出た。
近所のファミレスに入って3、4人ほど仲間を呼んで、夜遅くまでダラダラ時間を潰した挙げ句、飲んで帰って寝たという。
※ ※ ※ ※
問題はそれからだった。
――さらさらさらさら・・・
(・・・・・・まただよ、おい・・・・・・)
それから頻繁に、富岡さんが一人で居る時を見計らって、不意に外から小雨が降るような音が聞こえるようになった。
(来るぞ。また来るぞ)
〝かみを もやしてください〟
(ほら、来たよ!!)
幼女の声も、必ずセットであった。
声がすれば、雨の音は止む。その後 外を確かめても、降水の形跡はまったく無い。
昼日中に起きることもあるし、夜中寝ている時にさらさらと聞こえだすこともある。
外泊した日に限って、何もない。
部屋の中に問題があるのは明白だ、と思った。
とにかく調べられるところは全て探索し、畳までひっぺ返して原因を探った。
――何処かに〝紙〟がある筈だ。
――おフダか、絵か、何かの写真か。
――とにかく、少女の霊(?)がそれを「燃やせ」と訴えてる。
――燃やさなかったら。
――燃やさなかったら、俺、どうなっちゃうの・・・?!
最初は小さな不安感から起こした行動だったが、だんだん必死になっていった、という。
しかし、そんな彼の努力も虚しく、一向に〝紙〟らしきものは現れない。
――さらさらさらさら・・・
〝かみを もやしてください〟
一生懸命〝紙〟を探していた深夜0時頃、その声が聞こえた時は泣きそうになったという。
※ ※ ※ ※
それから二週間ほど経ったある日。
「先輩。あの、俺、ちょっと何かが、おかしいみたいなんですけど・・・」
探し疲れて、精神的にも追い詰められて。
遂に富岡さんは人を頼ることに決めた。
同じサークルの信頼できる先輩を部屋に呼び、今までの経緯をすべて説明し、
「霊なんでしょうか幻聴なんでしょうか。坊主か神主か精神科か、俺、何処に行くべきでしょうかねぇ・・・」自分でも驚くくらい悲痛な声で訴えたという。
フーム、と先輩は頬杖を突きながらしばらく考え込んでいたというが、
「なぁ富岡。その女の子の声は、確かに〝紙を燃やせ〟と言ってるんだよな」
「え?あ、ハイ。そうという意味にしか取れないでしょ、どう聞いても・・・」
じゃあ、燃やしてみれば。
へ?と裏声がかった声を漏らしている間に、先輩は自分の財布の中から何枚かのレシートを取り出し、富岡さんの部屋のお膳の上に乗った灰皿へとそれを置いた。
「それっぽい紙が無かったんだろ?なら、もうこの際、何でもいいから、紙 燃やしてみれば?霊も気が晴れるかも知れないぜ」
そんなアホな・・・とは思ったが、考えてみればなるほど。その発想はなかった。
そうスね、ものは試しですよね・・・と苦笑しながら、半信半疑のままライターでレシートへ火をつけた。
――ザァァァァァァァァァァァ!!!
「「?!!」」
突如、ものすごい雨音が部屋を満たした。
外でゲリラ豪雨――なんて生やさしいものではない。それこそ、部屋の中に土砂降りの雨が問答無用で襲いかかってきたかのような、凄まじい音の嵐だった。
〝あはっ、あはっ、あはっ、あはっ、あぁぁ~っは〟
少女の声も聞こえだした。
笑っている。
だが、それは何処かひどく品が無く、子供とは思えないほど下卑た感じで、人として大切な心の何かを失ってしまったかのような、厭な厭な笑い声であったという。
おちょくられているような気がした。
――やがて、それは止んだ。
雨音も止んだ。
レシートが、完全に灰になっている。
富岡さんと先輩は、気づけば唖然とした表情で互いに見つめ合っていた。
「・・・・・・雨、降った?」
先輩が、ようやく そう口にした。
富岡さんは窓の外を確かめ、「降ってないっす」と掌を振った。
「そうか」
「そうですね」
「あの、何だ。あれだ」
「何ですか?」
「・・・怖くなったから、帰る」
「え、あ、あの・・・ お、お供させてください・・・」
これは完全にヤバイことになったぞ、と二人とも思ったという。
※ ※ ※ ※
だが、そんな二人の懸念に反し、それからまったく怪現象はナリを潜めてしまった。
結果的に先輩の判断は正しかったのだろう。大学を卒業してくだんのアパートを出るまで、以後一度もおかしなことは起きなかったという。
「あの後、リアルに恐ろしかった出来事はやっぱ震災でしたね。すげぇ揺れて、このまま建物ごと潰れて死ぬかと思った。まぁウチのアパートの周辺は被害が少なかったんで、取り越し苦労だったんですけど・・・」
あれを経験すれば、たいていのお化けなんてへっちゃらですよ、と富岡さんは快活に笑う。
ただし。
少し気になることが、今年のはじめ頃、あったという。
「いや、仕事に行こうと思って家を出た直後にですね。いきなり誰かから腰のあたりをギュッと抱きしめられる感覚が起こって、直後に〝トーッピ!〟・・・とか聞こえたんです」
振り返っても、誰も居ないんですけど。
何だかそれが、あの時の女の子の声にそっくりな気がしたんですけど。
まぁ、気のせいですよね。あれから何も無いし。〝トーッピ!〟って、意味不明だし。
疲れてるのかな、俺。ははははは・・・
――筆者注。
富岡さんに一言忠告させて貰えるならば。
〝トーッピ!〟は〝取~っぴ!〟のことではないだろうか。
私が小学生くらいの頃、同級生の女の子たちがよく使っていた言葉で、
〝これ取った!〟〝いっただき~!〟ほどの意味を持っていたと記憶している。
時節は、うららかを絵に描いたような春。その、日曜日。
あまりの気候の良さにアパートの自室で何も考えずに寝転んでいると、不意に眠気が差してきたという。
(ン・・・たまには昼寝ってのもいいか、な)
まどろみに身を任せて、目を閉じた。
今日はとくに予定も無いし。予想以上に寝過ごしてしまっても、酒を飲めばまた直ぐ眠れるだろう。そう高をくくった。
と。
――さらさらさらさら・・・
外で、さやかに雨が降るような音が聞こえてきた。
(おや・・・? にわか雨が降るような天気には思えなかったけどな・・・)
まぁいいや。洗濯物とか干してるわけじゃねぇし。
さして気にもせず、再び心地よい眠りに身を任せようとしたその時、
〝かみを もやしてください〟
ギョッとして飛び起きた。
・・・今、小さな女の子みたいな声が聞こえたけれど・・・?!
部屋の中を見回すが、当然、そんな幼女の姿など何処にも居ない。居たらいろいろ、大変である。
空耳か・・・と思いつつ、何気に窓の外に目をやってみた。
「あれ?!」
快晴である。
雨が降った気配など何処にもない。何処も、濡れていない。
・・・さっきの「さらさらさら・・・」という音は何だったんだ?あれも空耳?
「――気持ち悪っ」
何だか部屋に一人でいるのが怖くなって、とりあえず外へ出た。
近所のファミレスに入って3、4人ほど仲間を呼んで、夜遅くまでダラダラ時間を潰した挙げ句、飲んで帰って寝たという。
※ ※ ※ ※
問題はそれからだった。
――さらさらさらさら・・・
(・・・・・・まただよ、おい・・・・・・)
それから頻繁に、富岡さんが一人で居る時を見計らって、不意に外から小雨が降るような音が聞こえるようになった。
(来るぞ。また来るぞ)
〝かみを もやしてください〟
(ほら、来たよ!!)
幼女の声も、必ずセットであった。
声がすれば、雨の音は止む。その後 外を確かめても、降水の形跡はまったく無い。
昼日中に起きることもあるし、夜中寝ている時にさらさらと聞こえだすこともある。
外泊した日に限って、何もない。
部屋の中に問題があるのは明白だ、と思った。
とにかく調べられるところは全て探索し、畳までひっぺ返して原因を探った。
――何処かに〝紙〟がある筈だ。
――おフダか、絵か、何かの写真か。
――とにかく、少女の霊(?)がそれを「燃やせ」と訴えてる。
――燃やさなかったら。
――燃やさなかったら、俺、どうなっちゃうの・・・?!
最初は小さな不安感から起こした行動だったが、だんだん必死になっていった、という。
しかし、そんな彼の努力も虚しく、一向に〝紙〟らしきものは現れない。
――さらさらさらさら・・・
〝かみを もやしてください〟
一生懸命〝紙〟を探していた深夜0時頃、その声が聞こえた時は泣きそうになったという。
※ ※ ※ ※
それから二週間ほど経ったある日。
「先輩。あの、俺、ちょっと何かが、おかしいみたいなんですけど・・・」
探し疲れて、精神的にも追い詰められて。
遂に富岡さんは人を頼ることに決めた。
同じサークルの信頼できる先輩を部屋に呼び、今までの経緯をすべて説明し、
「霊なんでしょうか幻聴なんでしょうか。坊主か神主か精神科か、俺、何処に行くべきでしょうかねぇ・・・」自分でも驚くくらい悲痛な声で訴えたという。
フーム、と先輩は頬杖を突きながらしばらく考え込んでいたというが、
「なぁ富岡。その女の子の声は、確かに〝紙を燃やせ〟と言ってるんだよな」
「え?あ、ハイ。そうという意味にしか取れないでしょ、どう聞いても・・・」
じゃあ、燃やしてみれば。
へ?と裏声がかった声を漏らしている間に、先輩は自分の財布の中から何枚かのレシートを取り出し、富岡さんの部屋のお膳の上に乗った灰皿へとそれを置いた。
「それっぽい紙が無かったんだろ?なら、もうこの際、何でもいいから、紙 燃やしてみれば?霊も気が晴れるかも知れないぜ」
そんなアホな・・・とは思ったが、考えてみればなるほど。その発想はなかった。
そうスね、ものは試しですよね・・・と苦笑しながら、半信半疑のままライターでレシートへ火をつけた。
――ザァァァァァァァァァァァ!!!
「「?!!」」
突如、ものすごい雨音が部屋を満たした。
外でゲリラ豪雨――なんて生やさしいものではない。それこそ、部屋の中に土砂降りの雨が問答無用で襲いかかってきたかのような、凄まじい音の嵐だった。
〝あはっ、あはっ、あはっ、あはっ、あぁぁ~っは〟
少女の声も聞こえだした。
笑っている。
だが、それは何処かひどく品が無く、子供とは思えないほど下卑た感じで、人として大切な心の何かを失ってしまったかのような、厭な厭な笑い声であったという。
おちょくられているような気がした。
――やがて、それは止んだ。
雨音も止んだ。
レシートが、完全に灰になっている。
富岡さんと先輩は、気づけば唖然とした表情で互いに見つめ合っていた。
「・・・・・・雨、降った?」
先輩が、ようやく そう口にした。
富岡さんは窓の外を確かめ、「降ってないっす」と掌を振った。
「そうか」
「そうですね」
「あの、何だ。あれだ」
「何ですか?」
「・・・怖くなったから、帰る」
「え、あ、あの・・・ お、お供させてください・・・」
これは完全にヤバイことになったぞ、と二人とも思ったという。
※ ※ ※ ※
だが、そんな二人の懸念に反し、それからまったく怪現象はナリを潜めてしまった。
結果的に先輩の判断は正しかったのだろう。大学を卒業してくだんのアパートを出るまで、以後一度もおかしなことは起きなかったという。
「あの後、リアルに恐ろしかった出来事はやっぱ震災でしたね。すげぇ揺れて、このまま建物ごと潰れて死ぬかと思った。まぁウチのアパートの周辺は被害が少なかったんで、取り越し苦労だったんですけど・・・」
あれを経験すれば、たいていのお化けなんてへっちゃらですよ、と富岡さんは快活に笑う。
ただし。
少し気になることが、今年のはじめ頃、あったという。
「いや、仕事に行こうと思って家を出た直後にですね。いきなり誰かから腰のあたりをギュッと抱きしめられる感覚が起こって、直後に〝トーッピ!〟・・・とか聞こえたんです」
振り返っても、誰も居ないんですけど。
何だかそれが、あの時の女の子の声にそっくりな気がしたんですけど。
まぁ、気のせいですよね。あれから何も無いし。〝トーッピ!〟って、意味不明だし。
疲れてるのかな、俺。ははははは・・・
――筆者注。
富岡さんに一言忠告させて貰えるならば。
〝トーッピ!〟は〝取~っぴ!〟のことではないだろうか。
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