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#009 『アラクノフォビア』
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今から7年前の秋口のこと。
諸星さんは、夢を見た。
詳しい内容は忘れてしまったそうだが、何だかとても偉い人から、頭ごなしに叱られ続ける、という理不尽な夢だった。
〝お前は二十五にもなって、定職にも就かないでのらくらしているとは何事だ!!〟
偉い人は、何度も何度も、そう怒鳴った――ような気がする、という。
だが実際のところ、当時の諸星さんは二十五歳ではなく三十一歳で、無職などころか企画関係の会社で重要なプランの一翼を任っている身分だった。理不尽も甚だしいと言える。
〝そんな生き方をしておるから、これから厭なものを見るはめになるんだぞ。いいか、自分のせいなんだぞ、忘れるな ばかたれ!!〟
強烈に一喝されたところだけ、はっきり覚えているという。
そこで、目が覚めた。
朝だった。
むろん、最悪の寝起きである。
はぁ、と溜め息をつき、寝床から起き上がる。
と。 不意に部屋の白壁に、変な模様が浮き出ているのに気付く。
近づいてよくよく見れば、模様ではない。松の葉を少し長く太くして節をつけたようなものが八本、放射線状に 壁へ へばりついているのだ。
何だこれは。眼鏡をかけなくちゃ良う見えん。
枕元に置いていた眼鏡を装着し、もう一度よく確認しようとした時、例のモノがくっついた壁の直ぐ下に、ピクピクと動くものを見つけた。
そちらに視線が行った。
(何だろう・・・)
知らない虫だった。
頭部と腹部に体のパーツが分かれていて、牙か触覚のようなものが生えており、脚はない。そのくせイモムシのように這うことも出来ないらしく、ただ びゅくん、びゅくん、もがき苦しんでいる。
子供の頃は昆虫少年だったのに。まったく記憶にない虫だぞこれは――
更に注意しながら見ると、虫の背にあたる部分に人の顔のような柄が見えた。
アッ、と思った。
顔を上げ、例の八本のモノを凝視する。間違いない。
壁のこれは、アシダカグモの脚だ。
そして床のこれは、頭と胴体。
あー、なるほど!と諸星さんは心の底から納得した。
そして、一気に胸くそが悪くなり 両手で口を押さえたまま、その場にうずくまってしまった。異常な悪寒が込み上げてきて、そのまま少し、戻してしまった。
正体のわからない不安と後悔の念がドロドロと心の奥から湧き出してきて、結局、休んではいけない仕事を休んでしまったという。
※ ※ ※ ※
アシダカグモとは、成長すれば大人のてのひらほどの大きさになる、巣を張らないタイプの大型な南国原産の蜘蛛の一種。
背にハッキリと人面に見える模様があり、知らない人が間近で見れば恐慌状態に陥るほど禍々しい見た目の生き物である。
もがき苦しむその人面は、まるで慟哭し泣き喚いている自分自身のようだった、と諸星さんは語る。
「何だかねぇ、何処かの誰かに降りかかる筈だったお叱りと報いを、何かの手違いで俺が引っ被っちまったように思うんですよ・・・」
※ ※ ※ ※
翌日、出勤して「昨日はすみません」と職場のみんなに頭を下げると、自分が任せられていた仕事のポストに後輩の一人が当てられたことを知らされた。代わりに用意されていた仕事は、その後輩の補佐だった。
言うまでもないかも知れないが、
その日以来、諸星さんは蜘蛛恐怖症である。
諸星さんは、夢を見た。
詳しい内容は忘れてしまったそうだが、何だかとても偉い人から、頭ごなしに叱られ続ける、という理不尽な夢だった。
〝お前は二十五にもなって、定職にも就かないでのらくらしているとは何事だ!!〟
偉い人は、何度も何度も、そう怒鳴った――ような気がする、という。
だが実際のところ、当時の諸星さんは二十五歳ではなく三十一歳で、無職などころか企画関係の会社で重要なプランの一翼を任っている身分だった。理不尽も甚だしいと言える。
〝そんな生き方をしておるから、これから厭なものを見るはめになるんだぞ。いいか、自分のせいなんだぞ、忘れるな ばかたれ!!〟
強烈に一喝されたところだけ、はっきり覚えているという。
そこで、目が覚めた。
朝だった。
むろん、最悪の寝起きである。
はぁ、と溜め息をつき、寝床から起き上がる。
と。 不意に部屋の白壁に、変な模様が浮き出ているのに気付く。
近づいてよくよく見れば、模様ではない。松の葉を少し長く太くして節をつけたようなものが八本、放射線状に 壁へ へばりついているのだ。
何だこれは。眼鏡をかけなくちゃ良う見えん。
枕元に置いていた眼鏡を装着し、もう一度よく確認しようとした時、例のモノがくっついた壁の直ぐ下に、ピクピクと動くものを見つけた。
そちらに視線が行った。
(何だろう・・・)
知らない虫だった。
頭部と腹部に体のパーツが分かれていて、牙か触覚のようなものが生えており、脚はない。そのくせイモムシのように這うことも出来ないらしく、ただ びゅくん、びゅくん、もがき苦しんでいる。
子供の頃は昆虫少年だったのに。まったく記憶にない虫だぞこれは――
更に注意しながら見ると、虫の背にあたる部分に人の顔のような柄が見えた。
アッ、と思った。
顔を上げ、例の八本のモノを凝視する。間違いない。
壁のこれは、アシダカグモの脚だ。
そして床のこれは、頭と胴体。
あー、なるほど!と諸星さんは心の底から納得した。
そして、一気に胸くそが悪くなり 両手で口を押さえたまま、その場にうずくまってしまった。異常な悪寒が込み上げてきて、そのまま少し、戻してしまった。
正体のわからない不安と後悔の念がドロドロと心の奥から湧き出してきて、結局、休んではいけない仕事を休んでしまったという。
※ ※ ※ ※
アシダカグモとは、成長すれば大人のてのひらほどの大きさになる、巣を張らないタイプの大型な南国原産の蜘蛛の一種。
背にハッキリと人面に見える模様があり、知らない人が間近で見れば恐慌状態に陥るほど禍々しい見た目の生き物である。
もがき苦しむその人面は、まるで慟哭し泣き喚いている自分自身のようだった、と諸星さんは語る。
「何だかねぇ、何処かの誰かに降りかかる筈だったお叱りと報いを、何かの手違いで俺が引っ被っちまったように思うんですよ・・・」
※ ※ ※ ※
翌日、出勤して「昨日はすみません」と職場のみんなに頭を下げると、自分が任せられていた仕事のポストに後輩の一人が当てられたことを知らされた。代わりに用意されていた仕事は、その後輩の補佐だった。
言うまでもないかも知れないが、
その日以来、諸星さんは蜘蛛恐怖症である。
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