真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#020 『画伯の写メ』

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 磯貝いそかいさんが以前勤めていたコンビニには、名物客と言える 一風変わったおじさんが通っていたという。

「いや、実のところ おじさんなのかもわからないんです。年齢不詳っていうか。福々しく太っていて、いっつも何かを満杯にしたリュックサックを背負っていて。頭はクリクリの坊主頭にしてたものだから・・・」

 いつの間にやら、店員の間では『画伯』のニックネームが定着していたという。

「流石にランニング姿ではなかったですけれどね」

 画伯は、二日に一度、お昼の時間帯に来店して、決まっておにぎりを二個、ミネラルウォーターを一本買っていった。
 画伯はやはり おにぎりが好きですか、と磯貝さんに尋ねたところ、「それもニックネームの由来の一つです」と答えられた。昆布とエビマヨネーズがお好みだったらしい。
 しかし、コンビニに入った画伯は、真っ直ぐにおにぎりコーナーへは行かない。いつも店の隅、トイレの入り口付近で5分間くらい携帯電話をいじり、それからおにぎりの物色に取りかかるのが日課のようなものだった。

 携帯に向かっている間、とても一生懸命な表情で何かをぶつぶつ呟いている。
 興味を持ったとある同僚が、商品整理を装って画伯に近寄り 様子を伺ったところ、
「『送信・・・』って言ってるのが聞こえた。メールやってるみたい」
 ・・・とのことだった。

 変わった人ではあったが、何処となく愛嬌があって、彼が来店するとみんな心が和んだ。「こんにちは!」と大声で必ず挨拶をしてくれたおかげかも知れない、と当時を振り返りながら磯貝さんは懐かしそうな顔をされていた。

 愛すべき奇人、『画伯』。

「お別れは、突然だったんですけれどね」

  ※   ※   ※   ※

 うだるように暑い、真夏の最中だったという。

「こんにちは!!」

 自動ドアが開くと同時に、コンビニの中に いつもの大声が響いた。
 あ、画伯だ。「いらっしゃいませ!」と 磯貝さんも満面の笑顔で挨拶する。
 さてさて。また携帯をしばらくいじって おにぎりを買って行かれるんだな・・・と微笑ましく考えていた矢先、

「あのねぇ、ちょっと、お話し出来る??」

 えっ、と思わず面食らってしまった。
 画伯が、真っ直ぐレジの方に来て 困った顔で話しかけてきたのである。

「あのねぇ、今朝ねぇ、あのねぇ、エドガワのお兄さんから、メールが来たんだけどねぇ」
「はぁ、」
「おかしな、ねぇ。あのねぇ、写真がねぇ、一緒に入ってたの」
「写真?」
「ウン。見てくれない?」

 そう言って、画伯は携帯の画面をこちらへ向けてくる。
 何なんだろう。磯貝さんは好奇心も手伝い、その画面を覗き込んでみたのだが――

(う、うっわ・・・)

 見てしまって、後悔したという。
 そこには、ガリガリに痩せた細身の青年が、必死な形相で目を閉じたまま絶叫している、といった様のバストアップの写メが映し出されていた。 
 更に、全体が感光したように不自然な色合いになっているばかりか、枝分かれした白い光の筋や、真っ赤な光の玉などが 混沌とした具合にその周囲を彩っていて、一種異様な心霊写真の趣を醸していたのである。

 何、これ。怖い・・・合成?と磯貝さんが思わず顔をしかめた瞬間、

「・・・やっぱり、よくない写真なんだ・・・」

 画伯は、悲しそうな声で 小さく、そう言った。
 そして、「ごめんね」と一言、そのまま何も買わず自動ドアの方へと向かって行った。

「あ、あの!お客様、お客様――」

 引き止めてどうするつもりだったのか、今でもよくわからない、と磯貝さんは言う。
 しかしその時は、思わず大声で画伯を呼んでいた。あるいは、「気になさらないで下さい。きっとCGですよ」とでも言って、安心させてやりたかったのかも知れない。

 しかし、画伯は振り向かなかった。
 そのままコンビニの外に出て、陽炎の立つような夏空の下へ消えていった。

  ※   ※   ※   ※

「・・・・・・それきり、でしたね。何故かもう、二度とお店へいらっしゃいませんでした」

 沈んだ様子で、磯貝さんは語った。
 従業員一同 心から心配したし、画伯のいない日常を 本当に寂しがったという。

 そして。
 今になって、ふと、思うところもある という。
 あの写メに写っていた人物。あれは何処となく、画伯に似ていたような気がする――

「彼が 頬のこけるくらい げっそり痩せて、髪が少し伸びれば、あるいはあんな顔になったのかな、という具合で・・・」

 ――厭な 想像ですけれど――


 最後に、磯貝さんは強い口調で言った。
 画伯が現在、何らかの理由で、あのような恐ろしい絶叫を絞り出すような目に遭っていないことを切に祈る、と。
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