真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#031 『金縛りと妹』

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 德田さんは私とほぼ同年代の方であるが、学生時代、「悪魔と会話したり合体させたり召喚したりする某ゲーム」に激ハマりしてしまい、それが元で神話や伝承にひじょうな興味を持ってしまった正に『目が点』なマニアである。

 当時は神戸の小学生児童殺害事件の爪痕も深く、ちょっとオカルトめいたことを言ったりやったりしていれば「アイツも第二のサカキバラなんじゃないか」と陰口を叩かれた寒い時代であった。

 だが、徳田さんは「好きなものは好きだからしょうがない!」というスタンスを貫き、堂々とオタク少年っぷりを発揮しながら毎日を過ごしていた。
 私や、♯023で紹介した三木原さんと めっぽう話の合う人物である。

 そんな彼の同級生に、石岡くんという快男児が居た。

 力士もかくやと言わんばかりの堂々たる体格で、性格は竹を割ったようなサバサバした江戸っ子気質。
 太っているが女の子にとてもモテていて、言動は明るく楽しく、その実 曲がったことが大嫌いという、特徴的な人物だったという。
 德田さんとは、真逆の個性を持つ人物。

 しかしこの石岡くん、他人には言えない悩みがあった。

「俺、よく金縛りに逢うんだ」

 ある日の昼休み、図書室で妖怪図鑑を読んでいた德田さんに、石岡くんはいきなり、深刻そうな顔で話しかけてきたのである。

「德田は、よくそういう本を読んでるんだってな。相談乗ってくれないか。初めて他人に言うことだけど、俺、金縛り体質なんだ。一週間に少なくとも三回は、金縛りなんだよ・・・」

 何とも困った様子なので詳しく話を聞いてみると、何でも寝入り端に突然 身体が動かなくなり、脂汗が出てきて、気持ちの悪いものの気配をハッキリ感じる――という典型的な〝金縛り体験〟を、石岡くんは新学期に入ったくらいから しょっちゅう経験しているのだ・・・とのこと。

 どうもヘンな病気でもなさそうなのだが、そんなら やはり霊の仕業ということになる。毎日モヤモヤしていた最中、德田さんがオカルトに詳しいという噂を聞いたので、話しかけてみたのだ、と。

「へー、そりゃ深刻だな。でも、何でヘンな病気じゃないってわかるの?」
「・・・実は妹がさ」
「妹?」
「うん。俺の妹、金縛りを起こすヤツの正体を当てちゃうんだよ」
「何だって?!」
「だからきっと、霊的なモノなんだよな」

 事の経緯を尋ねると、「ちょっとややこしいけど」と石岡くんは説明をはじめた。

  ※   ※   ※   ※

 石岡くんが金縛りに逢う際、いつも目を閉じた状態で身体が動かなくなるという。つまり、視覚が完全に遮断された状態での金縛りである。
 その時、〝何かの気配〟だけは強烈に感じる。時には息づかいも聞こえるし、長い毛のようなものが頬や足の裏に触れる感覚すらおぼえるらしい。でも、それが何者なのかはわからない。目に見えていないから当然である。

 そして、その翌日。
 必ず、一つ年下の彼の妹が、不意に話しかけてくるのだ。

「お兄ちゃん、昨日、また金縛り逢ったね」
「えっ。あ、ああ・・・」
「そいつ、毛むくじゃらのでっかいワニだよ。脚が八本ある」
「はぁっ?!」

 ある時は『片目の潰れた老婆』だと言われたこともあるし、ある時は『血のように真っ赤な大蛇』が巻き付いていたとも言われた。とにかく一回一回、その正体は変わっていくのだが、妹は何故かそれを全部 知っていて、わざわざ石岡くんに教えてくれるのである。
 その説明には、すこぶる説得力がある。
 妹から「あれは○○○だよ」と言われると、金縛りの時に感じた気配と完璧にシンクロするものを感じるので、「なるほど納得」と思うのだそうだ。

 だが、問題は何故、とっかえひっかえいろんな化け物に自分は金縛り状態にされるのか、そして何故妹は一々それを知り取って、金縛りを引き起こしたモノの姿まで言い当ててしまうか、なのである。

  ※   ※   ※   ※

「そういう話、本とかに載ってねぇかな。真相が知りたいんだけど」

 そんな特殊な金縛り事例、見たことも聞いたこともない。
 残念ながらわからない・・・德田さんは、自らの不勉強を石岡くんに謝った。
 石岡くんは「そうか・・・」と小さく呟いたが、直ぐに「ま、何かわかったら教えてくれよな!」 ニッカリした笑顔を見せたという。

「ところで、本当に心当たりとかないの?そんなにひどい霊障だったら、思い当たることの一つや二つ、ありそうな気がするんだけど」
「ウン・・・ それがさ、心当たりってわけじゃないんだけど・・・」

 くだんの妹が関係しているんではないか、と言う。
 どうして?と聞き返した德田さんに、「金縛りの正体を明かす時、決まって妹は 何だか申し訳なさそうな顔をしているんだ」とのこと。

「あいつが何かやっちまったから、俺がワリ食ってんのかも知れない」

 それは面白くないな、妹を詰問してみたら? 德田さんは提案した。
 だが、石岡くんは黙って首を横に振った。

「あいつが話したくなったら話してくれるさ」
「え。お前でも、そんな悠長な・・・」
「・・・少なくとも罪悪感みたいなのを感じてるから、金縛りの正体を毎度毎度 俺に教えてくれてるんだろう。あいつなりの罪滅ぼしなんだ」
「うん、まぁ、そういう考え方も出来るかな」
「そんな可哀想な妹を問い詰めるような真似は、俺には出来ない」
「――――」

 何ていいヤツなんだ、と 德田さんは本気で感動した。
 その時、「こいつは自分が困っているから金縛りの原因を知りたかったんじゃなくて、困ってる妹を助けたかったから、俺なんかまで頼って来たんだ」と直感した。
 力になれない自分が情けないと言うと、石岡くんは「気にすんなよ、俺こそ情けねぇよ」と笑って肩を叩いてくれたという。



 それから、約二週間後。

「よっ!德田っ!」

 いつになく明るい調子で、石岡くんは声をかけてきた。
 ――ぜんぶ解決したよ。心配かけて悪かったな! とだけ、彼は言った。

「俺、もう金縛りならないんだぜ。良かった良かった、せいせいした」
「へぇ、そりゃ良かったなぁ!で、結局 何が発端だったんだい?」
「え、ん-、そりゃ、ちょっと・・・言えない。妹のプライバシーに関わることだった」
「ん。そっか。そんならいいよ。聞いて悪かった」
「ごめんな。いつか、言える日が来れば教えてやるからな・・・」


 だが結局、現在に至るまで石岡くんは怪異の原因を語ってくれてはいない。
 しかしそれでも、この一件のおかげで 彼とはいまだに親友と呼べる間柄だから、そんな些細なことはどうでもいい と德田さんは笑った。
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