真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#037 『カトウ様 ~その後~』

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 一昨日(2018年1月15日)の昼過ぎのことである。

 仕事が一段落し、久しぶりに昼休みがとれてホッと一息していた私のもとに、スマホのコール音が響いた。電話だ。
 誰からだと見てみれば、何と♯035『カトウ様』の話を提供してくれた柴本さんだ。

 え、何だろう。
 もしや、投稿した怪談に不首尾でもあったのか?

 おそるおそる出てみると、
「ああ、松岡さん、よかった出てくれた・・・」
 もしもし、とも言わず、何だかひどく思い詰めた様子の柴本さんの声。
 どうしたのだと訊いてみると、「実は昨日、俺が北海道で勤めてた例のコンビニの店長から電話がかかってきたんですよ」とのこと。

「ええっ。まさか・・・」
「そのまさかなんです。こっちもまさかって感じでしたが・・・」
「へぇ、それで何と?」
「はい、それがですね――」

  ※   ※   ※   ※

 取ろうかどうか、柴本さんもしばらく考えたのだそうだ。
 14日のお昼1時過ぎ頃、突然掛かってきた電話。
 スマホに表示された相手の名前は『店長』。
 もう会うこともないだろうと思って、松岡真事という怪しい怪談作家にあのコンビニの話を提供し、それが投稿サイトにアップされてから直ぐの音信。

 何か言われるな、と思った。『カトウ様』のことを他言した件を咎められるか――

 コールは、意外と長く続いた。
 意を決して出てみた。
『もしもーし!いょーぅ、柴本くん!』
 案外ライトな店長の第一声。

 どうしましたか、お久しぶりですね・・・と出方を伺うような柴本さんに、店長は「ほんと久しぶりだねぇ」「元気だった?」などとひとしきり挨拶代わりのような話題を振った後、

『キミ、カトウ様の話、ネットに流したっしょ?』

 ズバリ言われた。ドキリとした。
 いえ、あれはアマチュアの怪談作家さんが俺の話を聞いて書いたもので―― 詳しい経緯を説明すると、店長は「はぁはぁ、なるほどなるほど」 わりあいフランクな相槌で、柴本さんの言い分を聞いていたという。

『実はねぇ、僕、まだあの店で店長やってんだよ。それで今朝、うちで遣ってる若いバイトの子が、「店長。アルファポリスって小説のサイトで、ここの店の話が出てますよ」って言うもんだからさ・・・読んでみてビックリ。バイトくんが「この怪談の作者、長崎県の人みたいです」って言うもんで、あれぇ長崎出身って言ったら、これ柴本くんじゃん?って思い当たったの。アルファなんとかってのがどういうサイトかよく理解出来なかったこともあって、てっきり柴本くん自身が書いたもんだとばかり思ってたんだな』

 確かに『カトウ様』を投稿した時、閲覧数の伸びは週末であったことも味方して そこそこ良かった。
 だが皮肉なことに。それが故か、怪談の舞台となった北海道のコンビニの店員さんにまで、読まれてしまったわけである。
 松岡真事はメジャーさんじゃないから、『カトウ様』の話を書いて貰ったところで別にいっか・・・と考えていた柴本さん。自分の軽率さを悔いたという。

『あ、誤解しないで。怒ったりなんかしないよ、確認したかっただけ。もうこっちも最後だから。元店員である君と こうして話しておくのも想い出になるかな、と思って』
「・・・? 最後?想い出?」
『ウチの店、閉めるんだよ。今月いっぱい』

 え、閉めるんですか! 柴本さんの声は、思わず大きくなる。
 俺も12年、勤めたよ。 店長の声は 本当に感慨深げだ。

『〝こっちを辞める前にカトウ様の電話についていろいろ店長に聞けばよかった〟・・・とか何とか書いてあったからね。そうかそうだったのか、それも一理あるなぁと思ったんだ。あの電話を怖れるあまり、店員にある種の秘密主義を強いていたからねぇ』

 店長が打ち明けることによると、「一字一句間違えないように応対せよ」と教えてはいたが、実際のところ、『カトウ様の電話』に対して言うべきことというのは、

(1) 電話相手が『カトウ』だと確認すること
(2) ヤマモトヒロタダという人はいないと断言すること
(3) 「掛け直し」を進言すること

 この三つで、じゅうぶんだったのだそうだ。
 だが、気の緩みは応対の緩みにつながり兼ねない。敢えて几帳面な敬語をつかい、絶対に間違えないようにと念を押すことで、店員に緊張感を与えていたのだという。

「そうだったんですか」
「そうだったんだよ。ハハハ」
 では、もし「言うべきこと」を言わなかったらどうなるんです?

 ――柴本さんの問いに、「そのことなんだけど」と店長は声を改める。

『年末シーズンに入るちょっと前だったかねぇ。ある店員が、カトウ様の電話の応対にトチった』
「えっ・・・」
『怖がりの子でさ・・・受話器の向こうの獣みたいな声を聞いた瞬間、対処の台詞が頭の中から吹っ飛んでしまったそうだ』
「そ、それで どうなったんです?」


『だから、店を閉めることになったんじゃないか』


 その言葉を聞いた瞬間、血の気が引いたという。
 どういうことです?と訊くが、
『そういうことさ』
 鼻で笑うように、店長は答えた。
 ――秘密主義。

『その子も、その後バイク事故起こして。可哀想に、二度と歩けないそうだよ』

 ああ、ウチの店は関係ないよ。カトウ様の電話もね。
 、ね。

  ※   ※   ※   ※

 その後、何でもない思い出話を一つ二つ続けて、店長は電話を切った。
 ちょうど、柴本さんの仕事の休み時間が終わる時間帯だったのだが、通話を終えると同時にのし掛かるような疲労感が湧いてきて、あまりの気分の悪さに早退を申し出た。
 仕事場でもインフルエンザが流行していたので、先輩からは怒られるどころか心配までして貰ったという。


 家に帰ると立っていられないほど身体が重かったので、直ぐに布団の中に潜り込んだ。
 そのまま泥のように眠り、ハッと気付くと翌日 1月15日の早朝だった。
 窓からうっすら差し込む陽光を眺めながら、柴本さんは改めて、思った。


 あのコンビニ、ほんとうに辞めてよかった――と。
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