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#061 『金魚腕』
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今から3年前。
希美子さんという女性が、都会で一人暮らしをされていた時の話である。
ある日の夕方、仕事を終えてマンションに帰ってきた彼女は、靴を脱いで部屋に上がろうとした直後 思わず固まってしまったという。
玄関を入って直ぐの棚の上。そこに乗せていた、金魚鉢。
――の 中の金魚が、1匹もいなくなっている。
(え・・・ うそ・・・ どうして・・・?!)
確かに、赤いのが2匹と黒い出目金が1匹。大きめの金魚鉢の中に泳いでいた筈。
大きいペットが不可のマンションだったので、ささやかな同居人として毎日愛でていた。今朝だってきちんと餌をやって家を出たのだから、それまで中に居たことは間違いない。
ゾッとなる。
誰かがその後 部屋に侵入し、金魚を取り去り、姿を消した。
――ストーカー。異常者。変質者。
そうとしか考えられない。
・・・いや、むしろ。今も、部屋の中に潜んでいるのかも――
慌てて靴を履き直し、管理人室へ飛び込んだ。
自室に誰かが忍び込んでいるかも知れない、と言うと、高齢の管理人さんは「そりゃ大変」と直ぐに110番しそうになったので、逆にギョッとした。
何とか押し止めて 一緒に部屋へ上がって中を確かめて貰った。
誰も 居なかった。
念の為、廊下に設置してある防犯カメラの映像を確かめても貰ったのだが、
「ふーん。朝から今まで、あんたの部屋に別の人が入った形跡はないねぇ」
希美子さんが管理人室に向かった後も、誰かが部屋から逃げて行った様子は撮影されていなかった。
謎は深まるだけとなった。
※ ※ ※ ※
それからしばらく、友人のところに泊めて貰っていた。
自分の部屋が何だか怖くなってしまったのだ。
5日経った。
このまま部屋に戻らないわけにもいかないし、友人にも悪い。責任のある仕事をしているので、そちらの方にも差し支えが出てくるだろう。
それに、触るのも気味が悪かったので金魚鉢はそのまんまにしてきている。
帰らなくては。片付けなくては。
6日目、意を決して 久しぶりの自室のドアを開けた。
自らの部屋の匂いが、何だか妙に懐かしい。
少しホッとした気分になったので金魚鉢の方を見ると、腕があった。
――腕っ。
肘のあたりからチョン切れた男のものらしき腕が、金魚鉢の上に浮いていた。
腕は最初 ダランと脱力したようにそこにあったが、やがて希美子さんに気付いたように水平に姿勢を直し、『パチン、パチン』と指を2回鳴らした。
そして、金魚鉢に手を差し伸べるような形で再び ダランと脱力する。
ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん
手品のように、手の先から何かが金魚鉢の中に落ちた。
そしてフッと、腕は消えた。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
怖いという感覚すら麻痺していたのだろうという。
希美子さんは、「あの腕は何だったのだろう?」というより「何が金魚鉢の中に落ちたのだろう?」という疑問の方を強く感じた為、ゆっくりとその中を覗き込んでみた。
金魚だった。
戻ってきた。
3匹とも。
「みんな、脱色されたみたいに真っ白になって、茹で上がるように死んでましたけどね」
※ ※ ※ ※
マンションは解約した。
どうして出て行かれることになったのですか?と尋ねられた大家さんに、希美子さんは「あの部屋、人が死んでますね。男でしょ」とカマをかけてみた。
大家さんの顔色が変わった。
「腕・・・」と更に言いかけると、「すいません、すいません」 今度は露骨に態度が変わった。「このことはご内密に。ご内密に・・・」
敷金は全額戻ってきた。
それに、ふつうは返金されない筈の礼金も「引っ越し祝いに」とキャッシュバックされた。
何が『祝い』だ、と思った。
半年ほど前、知り合いがあのマンションに住み始めたというのでいろいろ聞いてみたら、〝ペットは小鳥・魚類であっても不可〟と なっていたという。
希美子さんという女性が、都会で一人暮らしをされていた時の話である。
ある日の夕方、仕事を終えてマンションに帰ってきた彼女は、靴を脱いで部屋に上がろうとした直後 思わず固まってしまったという。
玄関を入って直ぐの棚の上。そこに乗せていた、金魚鉢。
――の 中の金魚が、1匹もいなくなっている。
(え・・・ うそ・・・ どうして・・・?!)
確かに、赤いのが2匹と黒い出目金が1匹。大きめの金魚鉢の中に泳いでいた筈。
大きいペットが不可のマンションだったので、ささやかな同居人として毎日愛でていた。今朝だってきちんと餌をやって家を出たのだから、それまで中に居たことは間違いない。
ゾッとなる。
誰かがその後 部屋に侵入し、金魚を取り去り、姿を消した。
――ストーカー。異常者。変質者。
そうとしか考えられない。
・・・いや、むしろ。今も、部屋の中に潜んでいるのかも――
慌てて靴を履き直し、管理人室へ飛び込んだ。
自室に誰かが忍び込んでいるかも知れない、と言うと、高齢の管理人さんは「そりゃ大変」と直ぐに110番しそうになったので、逆にギョッとした。
何とか押し止めて 一緒に部屋へ上がって中を確かめて貰った。
誰も 居なかった。
念の為、廊下に設置してある防犯カメラの映像を確かめても貰ったのだが、
「ふーん。朝から今まで、あんたの部屋に別の人が入った形跡はないねぇ」
希美子さんが管理人室に向かった後も、誰かが部屋から逃げて行った様子は撮影されていなかった。
謎は深まるだけとなった。
※ ※ ※ ※
それからしばらく、友人のところに泊めて貰っていた。
自分の部屋が何だか怖くなってしまったのだ。
5日経った。
このまま部屋に戻らないわけにもいかないし、友人にも悪い。責任のある仕事をしているので、そちらの方にも差し支えが出てくるだろう。
それに、触るのも気味が悪かったので金魚鉢はそのまんまにしてきている。
帰らなくては。片付けなくては。
6日目、意を決して 久しぶりの自室のドアを開けた。
自らの部屋の匂いが、何だか妙に懐かしい。
少しホッとした気分になったので金魚鉢の方を見ると、腕があった。
――腕っ。
肘のあたりからチョン切れた男のものらしき腕が、金魚鉢の上に浮いていた。
腕は最初 ダランと脱力したようにそこにあったが、やがて希美子さんに気付いたように水平に姿勢を直し、『パチン、パチン』と指を2回鳴らした。
そして、金魚鉢に手を差し伸べるような形で再び ダランと脱力する。
ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん
手品のように、手の先から何かが金魚鉢の中に落ちた。
そしてフッと、腕は消えた。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
怖いという感覚すら麻痺していたのだろうという。
希美子さんは、「あの腕は何だったのだろう?」というより「何が金魚鉢の中に落ちたのだろう?」という疑問の方を強く感じた為、ゆっくりとその中を覗き込んでみた。
金魚だった。
戻ってきた。
3匹とも。
「みんな、脱色されたみたいに真っ白になって、茹で上がるように死んでましたけどね」
※ ※ ※ ※
マンションは解約した。
どうして出て行かれることになったのですか?と尋ねられた大家さんに、希美子さんは「あの部屋、人が死んでますね。男でしょ」とカマをかけてみた。
大家さんの顔色が変わった。
「腕・・・」と更に言いかけると、「すいません、すいません」 今度は露骨に態度が変わった。「このことはご内密に。ご内密に・・・」
敷金は全額戻ってきた。
それに、ふつうは返金されない筈の礼金も「引っ越し祝いに」とキャッシュバックされた。
何が『祝い』だ、と思った。
半年ほど前、知り合いがあのマンションに住み始めたというのでいろいろ聞いてみたら、〝ペットは小鳥・魚類であっても不可〟と なっていたという。
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