7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】

しんの(C.Clarté)

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第六章〈王太子の受難〉編

6.5 イブ前夜、王太子は眠れない

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 12月23日、クリスマスイブの前夜。
 急使から一報を知らされた重臣たちが宮廷へ戻ってきた。
 中には、故郷へ向かっている途中で引き返した者もいる。
 大法官アンリ・ド・マルルは、いまの宮廷は人手が足りないだろうと見越して息子を連れてきた。

「領地ではそれなりに学ばせてきましたが、実際に宮廷でお仕えするのは訳が違う。それでも、猫の手を借りるよりマシでしょう」
「不肖の息子です。小姓代わりに書記や使者としてお使いください」

 重臣たちがそろうまで待つ余裕はなく、日暮れ前に宮廷を開いた。
 途中から参加する者もいたが、最後まで空席だった者もいて、さまざまな憶測を呼んだ。

パリ大学ソルボンヌの総長は王都住まいだろう。来ないのか……」
「皇帝主催の公会議に出席するとかで……」
「皇帝に媚を売って、宮廷を無視するとは……」
「来なくて結構。あの男はブルゴーニュ派と目されて……」

 賢明な読者諸氏はお気づきだろうか。
 パリ大学総長ピエール・コーションは、のちにジャンヌ・ダルクの異端審問を主導する人物である。

 神聖ローマ皇帝ジギスムントは、教会大分裂シスマを終息させるためにコンスタンツで公会議を開催した。
 野心的な聖職者からすれば、一国の宮廷よりもキリスト教国全体を統べる公会議のほうがはるかに重要だった。



***



「キリスト降誕祭を間近に控えて、急な呼び出しに応じてくれた重臣がたに感謝を申し上げる」

 宰相アルマニャック伯は、大広間を見渡すと静かに語り始めた。

「明日24日から年明けまで、われわれは身分に関係なく、誰もが心静かに祝福の祈りを捧げる期間である。戦いの最中であっても、剣を収めるのが古来からの習わし……」

 煖炉には火がくべられ、はじめはひんやりしていた広間も次第に暖かくなり、重臣が集まるにつれて熱くなっていった。

「この大切な時期に、畏れ多くも王太子殿下を非難する声明を発し、あまつさえ対立政府を樹立するなど、信心の欠如と不敬の極みと言えよう。真に非難されるべきは、不貞の淫乱王妃イザボーと無怖公ブルゴーニュ公である!」

 アルマニャック伯は熱弁を振るい、私は宰相を支持すると表明した。
 私の顔は煖炉の熱気に当てられて熱くなっていたが、指先と爪先はいつまでも冷たく緊張していた。

(私はアルマニャック伯を信じると決めた。そうするしかない)

 宮廷を開く前に、私たちは打ち合わせをした。
 アルマニャック伯は、不安がる私をなだめて「心配はいらない」と言った。

「我が国は、王を戴く王国です。このたびの対立政府は、王と王太子どころか王子すら擁立していない。無意味です。ばかばかしいにも程がある」

 恐るるに足りずと、楽観的だった。

「本当に?」
「正直に申し上げましょう。ひとつ懸念があるとすれば、イングランドが対立政府を支持していることでしょうか。ですが、イングランドの動きは想定通りですから、過剰に怖れる必要はありません」

 宮廷ではさまざまな憶測と懸念が飛び交ったが、私はアルマニャック伯に「心配はいらない」と言い含められていたため、つねに落ち着いていられた。
 私は澄ました顔で、「大儀である」とか「良きに計らえ」とかいつもの台詞を繰り返した。

(近ごろ、表情を取り繕うことに慣れてきたな)

 だが、まだ完璧ではない。私はこぶしを握って、震える指先を覆い隠した。
 最後に、護衛隊長のシャステルが、「クリスマス期間が終わったら馬上槍試合トーナメントを開きたい」と進言した。
 不測の事態に備えて、護衛官を補充したいのだという。

「王太子殿下にご臨席いただいて試合をおこない、腕の立つ若者を何名か選抜いたしたく……」

 クリスマスイブから年明けまで、大きな行動を控えるのが習わしだ。
 年が明けたら試合開催の「触れ」を出し、四旬節の前、二月半ばにおこなうことが決まった。

「ちょうど王太子殿下の誕生日も近い。盛大に執り行いましょう」

 重臣たちはみな高ぶっていたが、誕生日の話題でいくぶん和やかになった。
 2月22日は、王太子となり宮廷へ連れ戻されてから初めての誕生日だ。私はもうすぐ15歳になる。
 この夜の臨時宮廷は、明るい話で締めくくられた。
 とっくに日付けは変わり、クリスマスイブの未明になっていた。
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