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番外編・短編など
暗愚か名君か、ジャンヌ・ダルクではなく勝利王シャルル七世を主役にした理由
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◆前書き
勝利王シャルル七世といえば「ジャンヌ・ダルクのおかげで王になった」と「恩人を見捨てた非情な暗愚」という印象がつきまとう、地味なフランス王です。
ですが、その生い立ちは「設定盛りすぎ」としか言いようがない。
これほど波乱の多い生涯を送った実在の人物はめったにいないのでは……と思うほど、魅力的なキャラクターでした。
百年戦争はジャンヌだけじゃない。
知られざるキャラクターとエピソードを掘り起こしたくて、自分で小説を書き始めました。
※連載を始めて2カ月目(2018年11月)に書いた同名コラムを転載しています:https://ncode.syosetu.com/n1609fd/
◆暗愚か名君か、ジャンヌ・ダルクではなく勝利王シャルル七世を主人公にした理由(設定盛りすぎ? これでも実在の人物です)
現在連載中の長編小説「7番目のシャルル」は、フランス王シャルル七世が主人公だ。一般的には、ジャンヌ・ダルクの物語に出てくる王として記憶にあるかどうか。世界史に詳しい人には、百年戦争を終結させた勝利王として知られている。
ジャンヌの物語では、このような性格付けをされていることが多い。
・ジャンヌのおかげで王になった。
・恩人を見捨てた非情な王。
勝利王は、暗愚か名君か。
意見が分かれるが、メジャーな歴史に登場するわりに「地味」なキャラクターであることは否めない。だが、勝利王のバックボーンを追いかけると、地味どころか史上まれに見る波瀾万丈な生涯を送っている。
浮き沈みがあるのが人生の常とはいえ、どん底と頂点の差が極端に激しい。
世界にはさまざまな君主や英雄がいるが、勝利王ほど激動の生涯を送った王の話は聞いたことがない。かなりのレアケースだ。
***
父王は、精神異常で統治能力がない。
母妃は、王国史上最悪の悪女と呼ばれるビッチな王妃。
主人公は、狂人王と淫乱王妃と呼ばれる国王夫妻の間に生まれた10番目の子で第五王子だ。
生まれたとき、王国内は戦乱が絶えなかった。王侯貴族はヤクザの抗争のごとく殺し合い、ペストと自然災害と長い戦争の影響で、身分に関係なく国中が無法地帯と化している。対外的には、イングランド王ヘンリー五世が「王位と領土をよこせ」と休戦協定を破ってガンガン攻めてくる。
焦土作戦と略奪の横行で、フランス王国は崩壊寸前。
この非常時に、兄たちの相次ぐ不審死で、唯一の王位継承者になったのが帝王学も知らない14歳の少年である。どう考えても詰んでる。
新世紀エヴァンゲリオンの第一話、主人公・碇シンジくん(同じく14歳)に課せられた重責よりひどいのではないだろうか。
使徒……じゃなかったイングランドの襲撃? 決断しろ?
この子が置かれている状況をよく見ようよ! できるわけない!!
でも、逃げちゃダメだ!(王位からは逃げられない!)
老いた父は精神異常+認知症、実母と愛人に命を狙われ、王都パリを追われ、王位と王国をイングランドに乗っ取られ(ストーリーのネタバレになるため、詳細は省略)、まだ若いのにすっかり厭世的になった頃。
かのジャンヌ・ダルク登場。
通称、救国の英雄。救国の乙女。
ジャンヌは戦うヒロインである。むしろシャルル七世の方が、昔ながらの守られ系ヒロインポジションに当てはまりそうだ。
ふたりが出会ったとき、王太子シャルルは25歳。農民の娘ジャンヌは16歳。身分違いの恋愛フラグが立ちそうな「設定」だが、たとえ淡い思いがあったとしてもふたりの関係は悲劇で終わる。
無学の少女ジャンヌは奇跡的な勝利を収め、ついに王太子は戴冠式を挙行。名実ともに王位に就いたのもつかの間、運命の歯車は反転し、戦うヒロイン・ジャンヌは敵にとらわれて処刑されてしまう。
ジャンヌダルクの物語は、火刑でエンディングを迎える。
最後に、取って付けたように「ジャンヌの死後、フランスが勝って百年戦争は終わった」と締めくくられる。
まるでジャンヌの火刑後、すぐに戦争が終わったかのように聞こえるが、じつは火刑から終戦まで22年もかかっている。
この月日を日本史の戦国時代に例えると、ちょうど「関ヶ原の戦い→豊臣家滅亡」までの期間に当てはまる。
東軍勝利によって徳川優勢の機運は高まったが、西軍敗北で豊臣家が即滅亡したわけではない。
関ヶ原の勝敗はターニングポイントだったかもしれないが、滅亡フラグは関ヶ原以後(22年間)にもいくつかある。
話を戻そう。
つまり、よく知られた「ジャンヌの火刑後、百年戦争が終結した」という説明は、「関ヶ原の戦いで東軍(徳川家)が勝利し、西軍(豊臣家)が滅亡した」で済ませてしまうくらい、歴史22年分をまるごと省略していることになる。
シャルル七世の物語として歴史を——百年戦争末期を俯瞰して眺めてみよう。
ジャンヌの火刑は、頼りない王太子が劣勢を覆して勝利王になるターニングポイントだったと推測できる。
「あの子の名誉を回復するためにも、私は王にならなければいけない」
ヒロインの死を乗り越えて、ついに主人公覚醒!!
勝利王のキャラクターは、歴史小説というよりむしろライトノベルの主人公にふさわしい。
***
物語の主役として、これほど魅力的なバックボーンを備えているにも関わらず、数百年ノーマークなのが筆者には信じられない。
そうだ。
誰も手をつけないなら、私が書いてしまおう!
◆あとがき
連載小説の冒頭、シャルル七世がジャンヌの訃報を聞いたシーンから始まるのは、ここが勝利王のターニングポイントだからです。
「設定盛りすぎ」なところは小説本編にて。
下記URLで公開しています。小説家になろうとアルファポリスは完結済み。
少年期編だけで46万文字超、文庫換算4冊分におよぶ濃厚な半生です(笑)
▼「【完結】7番目のシャルル、狂った王国にうまれて ~百年戦争に勝利したフランス王は少年時代を回顧する~」
・カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614
・アルファポリス:https://www.alphapolis.co.jp/novel/394554938/595255779
・小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/
以下、シリーズの原型となった短編小説です。
▼「追放された王太子のひとりごと ~7番目のシャルル étude~」
・https://kakuyomu.jp/works/16816700427708759899
▼英訳版「Musings of an Exiled Dauphin -7th Charles, Étude prologue-」
・https://kakuyomu.jp/works/16816927859416353761
▼日界线さん訳による中国語(中文)版「流离太子沉思录」
・pixiv:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16719947#1
勝利王シャルル七世といえば「ジャンヌ・ダルクのおかげで王になった」と「恩人を見捨てた非情な暗愚」という印象がつきまとう、地味なフランス王です。
ですが、その生い立ちは「設定盛りすぎ」としか言いようがない。
これほど波乱の多い生涯を送った実在の人物はめったにいないのでは……と思うほど、魅力的なキャラクターでした。
百年戦争はジャンヌだけじゃない。
知られざるキャラクターとエピソードを掘り起こしたくて、自分で小説を書き始めました。
※連載を始めて2カ月目(2018年11月)に書いた同名コラムを転載しています:https://ncode.syosetu.com/n1609fd/
◆暗愚か名君か、ジャンヌ・ダルクではなく勝利王シャルル七世を主人公にした理由(設定盛りすぎ? これでも実在の人物です)
現在連載中の長編小説「7番目のシャルル」は、フランス王シャルル七世が主人公だ。一般的には、ジャンヌ・ダルクの物語に出てくる王として記憶にあるかどうか。世界史に詳しい人には、百年戦争を終結させた勝利王として知られている。
ジャンヌの物語では、このような性格付けをされていることが多い。
・ジャンヌのおかげで王になった。
・恩人を見捨てた非情な王。
勝利王は、暗愚か名君か。
意見が分かれるが、メジャーな歴史に登場するわりに「地味」なキャラクターであることは否めない。だが、勝利王のバックボーンを追いかけると、地味どころか史上まれに見る波瀾万丈な生涯を送っている。
浮き沈みがあるのが人生の常とはいえ、どん底と頂点の差が極端に激しい。
世界にはさまざまな君主や英雄がいるが、勝利王ほど激動の生涯を送った王の話は聞いたことがない。かなりのレアケースだ。
***
父王は、精神異常で統治能力がない。
母妃は、王国史上最悪の悪女と呼ばれるビッチな王妃。
主人公は、狂人王と淫乱王妃と呼ばれる国王夫妻の間に生まれた10番目の子で第五王子だ。
生まれたとき、王国内は戦乱が絶えなかった。王侯貴族はヤクザの抗争のごとく殺し合い、ペストと自然災害と長い戦争の影響で、身分に関係なく国中が無法地帯と化している。対外的には、イングランド王ヘンリー五世が「王位と領土をよこせ」と休戦協定を破ってガンガン攻めてくる。
焦土作戦と略奪の横行で、フランス王国は崩壊寸前。
この非常時に、兄たちの相次ぐ不審死で、唯一の王位継承者になったのが帝王学も知らない14歳の少年である。どう考えても詰んでる。
新世紀エヴァンゲリオンの第一話、主人公・碇シンジくん(同じく14歳)に課せられた重責よりひどいのではないだろうか。
使徒……じゃなかったイングランドの襲撃? 決断しろ?
この子が置かれている状況をよく見ようよ! できるわけない!!
でも、逃げちゃダメだ!(王位からは逃げられない!)
老いた父は精神異常+認知症、実母と愛人に命を狙われ、王都パリを追われ、王位と王国をイングランドに乗っ取られ(ストーリーのネタバレになるため、詳細は省略)、まだ若いのにすっかり厭世的になった頃。
かのジャンヌ・ダルク登場。
通称、救国の英雄。救国の乙女。
ジャンヌは戦うヒロインである。むしろシャルル七世の方が、昔ながらの守られ系ヒロインポジションに当てはまりそうだ。
ふたりが出会ったとき、王太子シャルルは25歳。農民の娘ジャンヌは16歳。身分違いの恋愛フラグが立ちそうな「設定」だが、たとえ淡い思いがあったとしてもふたりの関係は悲劇で終わる。
無学の少女ジャンヌは奇跡的な勝利を収め、ついに王太子は戴冠式を挙行。名実ともに王位に就いたのもつかの間、運命の歯車は反転し、戦うヒロイン・ジャンヌは敵にとらわれて処刑されてしまう。
ジャンヌダルクの物語は、火刑でエンディングを迎える。
最後に、取って付けたように「ジャンヌの死後、フランスが勝って百年戦争は終わった」と締めくくられる。
まるでジャンヌの火刑後、すぐに戦争が終わったかのように聞こえるが、じつは火刑から終戦まで22年もかかっている。
この月日を日本史の戦国時代に例えると、ちょうど「関ヶ原の戦い→豊臣家滅亡」までの期間に当てはまる。
東軍勝利によって徳川優勢の機運は高まったが、西軍敗北で豊臣家が即滅亡したわけではない。
関ヶ原の勝敗はターニングポイントだったかもしれないが、滅亡フラグは関ヶ原以後(22年間)にもいくつかある。
話を戻そう。
つまり、よく知られた「ジャンヌの火刑後、百年戦争が終結した」という説明は、「関ヶ原の戦いで東軍(徳川家)が勝利し、西軍(豊臣家)が滅亡した」で済ませてしまうくらい、歴史22年分をまるごと省略していることになる。
シャルル七世の物語として歴史を——百年戦争末期を俯瞰して眺めてみよう。
ジャンヌの火刑は、頼りない王太子が劣勢を覆して勝利王になるターニングポイントだったと推測できる。
「あの子の名誉を回復するためにも、私は王にならなければいけない」
ヒロインの死を乗り越えて、ついに主人公覚醒!!
勝利王のキャラクターは、歴史小説というよりむしろライトノベルの主人公にふさわしい。
***
物語の主役として、これほど魅力的なバックボーンを備えているにも関わらず、数百年ノーマークなのが筆者には信じられない。
そうだ。
誰も手をつけないなら、私が書いてしまおう!
◆あとがき
連載小説の冒頭、シャルル七世がジャンヌの訃報を聞いたシーンから始まるのは、ここが勝利王のターニングポイントだからです。
「設定盛りすぎ」なところは小説本編にて。
下記URLで公開しています。小説家になろうとアルファポリスは完結済み。
少年期編だけで46万文字超、文庫換算4冊分におよぶ濃厚な半生です(笑)
▼「【完結】7番目のシャルル、狂った王国にうまれて ~百年戦争に勝利したフランス王は少年時代を回顧する~」
・カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614
・アルファポリス:https://www.alphapolis.co.jp/novel/394554938/595255779
・小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/
以下、シリーズの原型となった短編小説です。
▼「追放された王太子のひとりごと ~7番目のシャルル étude~」
・https://kakuyomu.jp/works/16816700427708759899
▼英訳版「Musings of an Exiled Dauphin -7th Charles, Étude prologue-」
・https://kakuyomu.jp/works/16816927859416353761
▼日界线さん訳による中国語(中文)版「流离太子沉思录」
・pixiv:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16719947#1
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