5 / 74
リヒト
救世主として城に呼ばれる
しおりを挟む
「でも僕、ちょっと薬の勉強をしてるだけの、普通の学生だよ?」
特別な能力を持っている訳でもないし、特別天才な訳でもない。
まだ学生だから、知識だって、専門家に比べればたいしたことないし。
根拠もなく自惚れられるほど、自信家でもない。
『あの人は、召喚魔法の腕とかはいまいちだけど、占いだけは外したことがないから。貴方は間違いなく、我が国の救世主になる人だ。一緒に城に来て欲しい。貴方の助けが必要だ』
パーシヴァルはきっぱり言い切った。
魔法使いの名前はデュラン、というそうだ。
ずいぶん信頼してるんだな。
『まあ、もし国が滅びても、それはそれでこの国の運命だったってことで。誰も貴方を責めたりはしないから、気楽にしてよ』
へにゃっと笑った。
なんなのその潔さ。
半分、動物だからかな?
だからって、真に受けてお気楽になんてできないけど。
†‡†‡†
もし僕が、力になれるっていうなら。
微力ながらも、どうしかしてあげたいと思う。
「わかりました。まずはお城に行って、王様の話を聞けばいい?」
『ありがとう』
握手をしようと、手を出されたところで。
『待て。俺の大切なツガイに危険な真似はさせられん』
ジャンが、僕を守るように立ちはだかった。
『なら、お前が命がけで守ればいい。強くなったんだろ?』
パーシヴァルがジャンを焚きつけるように言って。
『ああ、クロエは俺が守る』
ジャンは頷いてみせた。
『じゃあ、一緒に城に来て、陛下に挨拶しろよな』
『わかった。行こう』
なんか納得してる。
パーシヴァルにうまく丸め込まれちゃった感じだ。僕もかな?
僕はまだ、ジャンのツガイにされたってことには、納得してないんだけどな。
これから王様の城に行くため。
ジャンは正装をさせられているようだ。
この家にはカミソリがないからって小刀でヒゲを剃ってあげるなんて、パーシヴァルは親切な人だな。
でも、僕もちょっと剃ってみたいかも。
僕の産毛みたいなのと違って、剃りがいがありそうだ……。
†‡†‡†
僕は召喚されたそのままの姿がいいというので。
ここに来た時のままのトレッキングシューズに撥水防風仕様のパーカー、ジャージの上下という散策スタイルだ。
ジャンが回収してくれていた荷物も一緒に持っていく。
着替えとかだいたいの荷物はホテルのクロークに預けちゃったし。
リュックサックには大したものは入ってないけど。
こちらの文明がどの程度かわからないし。
何が役に立つかもわからない。防風ライターとかね。
そういえば、チェックインして荷物だけ預けて出てきたし、ホテルの人に行き先は告げてなかったけど。
調べれば、降りた駅とかはわかるだろう。
僕は、日本アルプスで遭難したことになるんだろうか……。
捜索願いとか出されるだろうな。
山を捜索したら、すごい捜索費用が掛かるんじゃなかったっけ?
お金の問題もそうだけど。
両親や兄たちに、心配をかけるだろうな。
どれくらいの期間で、元の世界に戻れるんだろう?
先に、連絡だけでも出来たらいいんだけど。
せめて、無事な事だけでも伝えたい。
†‡†‡†
『息苦しい……』
ひらひらしたスカーフを首に巻いて。
服が窮屈だとか言いながら。
しかめ面をして、中世の貴族っぽい服を着て出てきた青年は。
……嘘。
まさかこれ、ジャンなの!?
「クマが人間になった……」
『あはは、確かに』
あんなにヒゲモジャじゃ、どっちがクマの姿だかわからないよね、とパーシヴァルが笑って言った。
ヒゲを剃った顔を見たら、やっぱり若かった。
20から24歳くらいかな? しかも、けっこう男前で驚いた。
ガタイが良すぎて、恋愛モノにはちょっと向かないかもしれないけど。
アクションとか、ワイルド系俳優ならいけそう。筋骨逞しいし。
ファンタジー映画の俳優みたいなのが二人並んでいるわけで。
その間にいる僕は浮きまくりだ。
パーシヴァルが繰る馬車に乗って、お城に向かった。
ジャンの家に馬車を置かせてもらって、馬で森を探索しようと思ってたんだ、と言われた。
探し人がすぐに見つかって良かったね……。
そういえば、パーシヴァルは何の獣人なのかと訊いてみたけど。
ウインクしながら秘密、って言われてしまった……。
獣人のルールか何かで、簡単に正体を明かしてはいけないのだろうか。
ジャンは見たまんま、クマだったけど。
†‡†‡†
城へ向かう道は、静かなもので。
行けども行けども森が続いている。針葉樹林が多い。
気候的に涼しい地方に生える植物が多い感じだ。
植物の生え方が地球と同じだと仮定するなら、の話だけど。
村とか民家とかは見当たらなかった。
しばらくして、森を抜けて。
城が見えてきた。
かなり立派な、西洋風のお城だ。
全体的に石造りっぽい。
ジャンやパーシヴァルの服装からして、中世ヨーロッパみたいな雰囲気だ。
異世界でも、環境が似てれば文明も似るのかもしれない。
城壁、新しく修繕したっぽいところと古いところが見てわかるくらいだ。
あれも、戦争で壊れたのかな?
城門が開いて、馬車が中に入る。
中は石畳だ。庭は整えられていて、緑がいっぱいだ。
噴水のある広場を抜け、お城の前で止まった。
パーシヴァルが、扉の前にいた兵士に声を掛けて。
大きな扉が開いていく。
さっきまでとは違って、パーシヴァルはビシッとしている。
ジャンの家では普通の兄ちゃんっぽかったけど、仕事中はちゃんとした騎士に見える。
騎士長官だっけ? 偉い人なんだ。
若いのに、凄いなあ。
おお、と見ていたら。
ジャンに目を覆われた。
え、妬いたの? 別に惚れたりしないよ?
だって、パーシヴァルは男じゃないか。
惚れるわけないじゃないか。
あ、そうか。
ジャンは男の僕に一目惚れして、ツガイにしたんだったっけ?
自分が一目惚れされるなんて、いまいち信じられないけど。
特別な能力を持っている訳でもないし、特別天才な訳でもない。
まだ学生だから、知識だって、専門家に比べればたいしたことないし。
根拠もなく自惚れられるほど、自信家でもない。
『あの人は、召喚魔法の腕とかはいまいちだけど、占いだけは外したことがないから。貴方は間違いなく、我が国の救世主になる人だ。一緒に城に来て欲しい。貴方の助けが必要だ』
パーシヴァルはきっぱり言い切った。
魔法使いの名前はデュラン、というそうだ。
ずいぶん信頼してるんだな。
『まあ、もし国が滅びても、それはそれでこの国の運命だったってことで。誰も貴方を責めたりはしないから、気楽にしてよ』
へにゃっと笑った。
なんなのその潔さ。
半分、動物だからかな?
だからって、真に受けてお気楽になんてできないけど。
†‡†‡†
もし僕が、力になれるっていうなら。
微力ながらも、どうしかしてあげたいと思う。
「わかりました。まずはお城に行って、王様の話を聞けばいい?」
『ありがとう』
握手をしようと、手を出されたところで。
『待て。俺の大切なツガイに危険な真似はさせられん』
ジャンが、僕を守るように立ちはだかった。
『なら、お前が命がけで守ればいい。強くなったんだろ?』
パーシヴァルがジャンを焚きつけるように言って。
『ああ、クロエは俺が守る』
ジャンは頷いてみせた。
『じゃあ、一緒に城に来て、陛下に挨拶しろよな』
『わかった。行こう』
なんか納得してる。
パーシヴァルにうまく丸め込まれちゃった感じだ。僕もかな?
僕はまだ、ジャンのツガイにされたってことには、納得してないんだけどな。
これから王様の城に行くため。
ジャンは正装をさせられているようだ。
この家にはカミソリがないからって小刀でヒゲを剃ってあげるなんて、パーシヴァルは親切な人だな。
でも、僕もちょっと剃ってみたいかも。
僕の産毛みたいなのと違って、剃りがいがありそうだ……。
†‡†‡†
僕は召喚されたそのままの姿がいいというので。
ここに来た時のままのトレッキングシューズに撥水防風仕様のパーカー、ジャージの上下という散策スタイルだ。
ジャンが回収してくれていた荷物も一緒に持っていく。
着替えとかだいたいの荷物はホテルのクロークに預けちゃったし。
リュックサックには大したものは入ってないけど。
こちらの文明がどの程度かわからないし。
何が役に立つかもわからない。防風ライターとかね。
そういえば、チェックインして荷物だけ預けて出てきたし、ホテルの人に行き先は告げてなかったけど。
調べれば、降りた駅とかはわかるだろう。
僕は、日本アルプスで遭難したことになるんだろうか……。
捜索願いとか出されるだろうな。
山を捜索したら、すごい捜索費用が掛かるんじゃなかったっけ?
お金の問題もそうだけど。
両親や兄たちに、心配をかけるだろうな。
どれくらいの期間で、元の世界に戻れるんだろう?
先に、連絡だけでも出来たらいいんだけど。
せめて、無事な事だけでも伝えたい。
†‡†‡†
『息苦しい……』
ひらひらしたスカーフを首に巻いて。
服が窮屈だとか言いながら。
しかめ面をして、中世の貴族っぽい服を着て出てきた青年は。
……嘘。
まさかこれ、ジャンなの!?
「クマが人間になった……」
『あはは、確かに』
あんなにヒゲモジャじゃ、どっちがクマの姿だかわからないよね、とパーシヴァルが笑って言った。
ヒゲを剃った顔を見たら、やっぱり若かった。
20から24歳くらいかな? しかも、けっこう男前で驚いた。
ガタイが良すぎて、恋愛モノにはちょっと向かないかもしれないけど。
アクションとか、ワイルド系俳優ならいけそう。筋骨逞しいし。
ファンタジー映画の俳優みたいなのが二人並んでいるわけで。
その間にいる僕は浮きまくりだ。
パーシヴァルが繰る馬車に乗って、お城に向かった。
ジャンの家に馬車を置かせてもらって、馬で森を探索しようと思ってたんだ、と言われた。
探し人がすぐに見つかって良かったね……。
そういえば、パーシヴァルは何の獣人なのかと訊いてみたけど。
ウインクしながら秘密、って言われてしまった……。
獣人のルールか何かで、簡単に正体を明かしてはいけないのだろうか。
ジャンは見たまんま、クマだったけど。
†‡†‡†
城へ向かう道は、静かなもので。
行けども行けども森が続いている。針葉樹林が多い。
気候的に涼しい地方に生える植物が多い感じだ。
植物の生え方が地球と同じだと仮定するなら、の話だけど。
村とか民家とかは見当たらなかった。
しばらくして、森を抜けて。
城が見えてきた。
かなり立派な、西洋風のお城だ。
全体的に石造りっぽい。
ジャンやパーシヴァルの服装からして、中世ヨーロッパみたいな雰囲気だ。
異世界でも、環境が似てれば文明も似るのかもしれない。
城壁、新しく修繕したっぽいところと古いところが見てわかるくらいだ。
あれも、戦争で壊れたのかな?
城門が開いて、馬車が中に入る。
中は石畳だ。庭は整えられていて、緑がいっぱいだ。
噴水のある広場を抜け、お城の前で止まった。
パーシヴァルが、扉の前にいた兵士に声を掛けて。
大きな扉が開いていく。
さっきまでとは違って、パーシヴァルはビシッとしている。
ジャンの家では普通の兄ちゃんっぽかったけど、仕事中はちゃんとした騎士に見える。
騎士長官だっけ? 偉い人なんだ。
若いのに、凄いなあ。
おお、と見ていたら。
ジャンに目を覆われた。
え、妬いたの? 別に惚れたりしないよ?
だって、パーシヴァルは男じゃないか。
惚れるわけないじゃないか。
あ、そうか。
ジャンは男の僕に一目惚れして、ツガイにしたんだったっけ?
自分が一目惚れされるなんて、いまいち信じられないけど。
26
あなたにおすすめの小説
異世界のオークションで落札された俺は男娼となる
mamaマリナ
BL
親の借金により俺は、ヤクザから異世界へ売られた。異世界ブルーム王国のオークションにかけられ、男娼婦館の獣人クレイに買われた。
異世界ブルーム王国では、人間は、人気で貴重らしい。そして、特に日本人は人気があり、俺は、日本円にして500億で買われたみたいだった。
俺の異世界での男娼としてのお話。
※Rは18です
転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される
こたま
BL
北の大地で牧場主の次男として産まれた陽翔。生き物がいる日常が当たり前の環境で育ち動物好きだ。兄が牧場を継ぐため自分は獣医師になろう。学業が実り獣医になったばかりのある日、厩舎に突然光が差し嵐が訪れた。気付くとそこは獣人王国。普段美形人型で獣型に変身出来るライオン獣人王アルファ×異世界転移してオメガになった美人日本人獣医師のハッピーエンドオメガバースです。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行
海野ことり
BL
異世界に転移しちゃってこっちの世界は甘いものなんて全然ないしもう絶望的だ……と嘆いていた甘党男子大学生の柚木一哉(ゆのきいちや)は、自分の身体から甘い匂いがすることに気付いた。
(あれ? これは俺が大好きなみよしの豆大福の匂いでは!?)
なんと一哉は気分次第で食べたことのあるスイーツの味がする身体になっていた。
甘いものなんてろくにない世界で狙われる一哉と、甘いものが嫌いなのに一哉の護衛をする黒豹獣人のロク。
二人は一哉が狙われる理由を無くす為に甘味を探す旅に出るが……。
《人物紹介》
柚木一哉(愛称チヤ、大学生19才)甘党だけど肉も好き。一人暮らしをしていたので簡単な料理は出来る。自分で作れるお菓子はクレープだけ。
女性に「ツルツルなのはちょっと引くわね。男はやっぱりモサモサしてないと」と言われてこちらの女性が苦手になった。
ベルモント・ロクサーン侯爵(通称ロク)黒豹の獣人。甘いものが嫌い。なので一哉の護衛に抜擢される。真っ黒い毛並みに見事なプルシアン・ブルーの瞳。
顔は黒豹そのものだが身体は二足歩行で、全身が天鵞絨のような毛に覆われている。爪と牙が鋭い。
※)こちらはムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
※)Rが含まれる話はタイトルに記載されています。
魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます
トモモト ヨシユキ
BL
気がつくと、なぜか、魔王になっていた俺。
魔王の手下たちと、俺の本体に入っている魔王を取り戻すべく旅立つが・・
なんで、俺の体に入った魔王様が、俺の幼馴染みの勇者とできちゃってるの⁉️
エブリスタにも、掲載しています。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる