オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙

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リヒト

魔法の才能

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『驚いた。薬学を少々学んだだけなどと、ご謙遜を。専門でない話をここまでできるのは素晴らしい』
アンリは大喜びだった。


今日聞いたことを、早速あちこちに広めるという。
他の国にも?

情報を独占しないんだ。
パワーバランスが崩れると争いの元になるから?

異世界も、平和維持活動は大変だな。


『まだ子供だというのに、この知識量とは頼もしい。是非我が国の博士……いや賢者になっていただきたい。今からでも』

いや、子供じゃないし。
大学院生だし。

一応、博士号なら、論文出して認められれば取れる環境だったけども。


†‡†‡†


皆の年齢を聞いてみたら。

王様が22歳で。ジャンとは乳兄弟らしい。で、ジャンは23歳。なんと年下だった。
パーシヴァルも23歳。ジャンと同い年? 見えない。

当然、王様より年下なアンリは21歳だって?

嘘だろ……。若いとは思ってたけど。
みんな年下だったよ……。

でも、日本でぼーっと生きている同年齢の子たちよりは落ち着いてるし、知識もありそうなのは、成人になる年齢が16歳と早いのと、王族としての教育を受けてきたからかな?
などとぼーっと生きたまま院生になったダメ人間代表な僕が言ってみたり。

みんな、精神的にも、僕よりずっと大人だよな。


でも、まさか年下からあんな風に好き勝手されちゃってたとは……。
と、隣で話を聞いていたジャンを見上げたら。

『クロエがなりたいのなら、いいんじゃないか? 救世主としての任が終わったら、の話だが』
優しく微笑んで、理解のある夫みたいな発言するのやめろ。

賢者になりたいなんて、一言も言ってないから。


……あ。
「そういえば、救世主って具体的に何をするんですか? 何か覚えたりしなくてもいいんですか?」

剣とか魔法とか。
出来れば、の話だけど。


予言関係の話は、魔法使いのデュランに聞いたほうがいいだろう、と。
アンリがデュランを呼んでくれた。

まだ、どういった危機だかもわからない、って話だけど。


『救世主本人が目の前にいるのだ。もう少し詳しい占いも出来るのではないか?』

『ああ、そうかもね。じゃ、やってみようか』
軽いな。

みんなわくわくした様子で占いを見学しようとしてたけど。

気が散るから邪魔、と。
部屋からみんなを追い出した。


アンリは王族なのに……。
魔法使いって、立場は王佐より上なのかな?


†‡†‡†


『知っての通り、普通の魔法はあまり得意じゃないんだ。君が魔法を使えて覚えてくれるなら、正直助かるんだよね』
デュランは正直に言った。

王室付きの魔法使いっていうプライドは無いのか……。


占いと、一通りの攻撃魔法なら得意だという。
偏ってるなあ。

魔法使いになるには魔力だけでなく、魔法の才能が無いと使えないので、なり手が少なくて。
同僚を熱烈募集中なんだそうだ。


「可能なら是非、やってみたいです」
魔法とか、出来るなら使ってみたい。わくわくしてしまう。

『じゃ、手を出して、目を閉じて』

その通りにしたら、手を握られた。
冷たい手だ。

何だかピリッと、身体に軽い電流が流れたような感覚があった。


『……ん、才能はありそうだね。使えそうなのは、治癒系の魔法かな?』

おお。
魔法、使えそうなんだ。うれしいな。

後で使えるかどうか、一通りの魔法を試してみて、適性をみよう、という話になった。

「じゃあ、覚えた治療魔法で、この国の危機を救えるんですかね?」
『あ、そうだった。この国の未来のことを占うんだった……』


おいおい。
忘れちゃダメなやつだろそれは。


†‡†‡†


デュランは、被っていたローブを外した。

……ウサギ耳!?
それに、やたら若く見える。

クルミ色の肌に、こげ茶の髪と瞳。かわいらしい顔立ちだ。

見た目は、12歳から14歳くらいの子供みたいだな。
と思わずまじまじと見てしまったら。


デュランは苦笑して。
『ちょっと無茶した魔法の後遺症か、外見年齢が止まっちゃってさ。これでも、実年齢は60歳なんだ』

60歳!? 全然見えないよ。
女なら美魔女だけど、男の場合は美魔法使い? なんか違うか。

獣耳が常に出っ放しになっているのも、後遺症らしい。
失敗した魔法の後遺症、って。どんな魔法だったんだろう?


『子供だと思われて舐められるから、普段はローブを被ってる。……君も子供みたいに見られてるけど、J・Jより年上だよね?』
占いでわかったのかな?

「うわ、それ、どうかご内密に……!」
聞かれたら、犯られちゃうんです!

デュランに、こっちの事情を話すことにした。


『……なるほど。無理矢理ツガイにされて、子供だと思われてるからまだ一線は越えてないという訳か。……残念ながら、ツガイの繋がりを無かったことにする魔法はないな』
デュランは同情めいた視線を向けた。


リセットとか、不可能なのか……。
もうDNAレベルで強固に結ばれてしまっているそうだ。

クーリングオフ不可とか、ひどい。


†‡†‡†


「離ればなれになったら死んじゃうなら、ツガイと一緒に元の世界に行くことは?」

デュランは視線を中空に彷徨わせた。
占っているようだ。

『不可。身体の組成がすっかりこちらのものに変わってるから、あっちの世界の結界に弾かれる』

結界なんか張られてるんだ。
侵略とか、簡単に行き来できないように張られてるのかな。

……って。
「嘘。帰れないの!? もう二度と!?」

『残念ながら……』


そんな。
そっちの都合で呼び出しといて、そりゃないよ。


一番悪いのは。
受け入れたと勘違いして噛んで、勝手にツガイにしたジャンだけど。

召喚場所失敗したデュランにも、責任の一端はあると思う。
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