オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙

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リヒト

ツガイの解消法

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生薬なら、効能がわかっている物は作れる。
でも。未知の薬を作るのは、こわいことなんだ。

これから覚える医療魔法で、ある程度解決できるならいいんだけど……。
予言だと、魔法じゃ治らないっていうしな。


『クロエ。俺の身体は獣人の中でも丈夫だ。薬の実験には俺を使えばいい』
「え?」

ジャンは話の流れで、僕が新薬を作ることになるだろうと予想して。
効果を試すためには人体実験をするしかない、というところまで考えたようだ。

鋭い。
野生の勘というやつだろうか。


†‡†‡†


『実は、ツガイを解消する方法は、一つだけある』


え、解消する方法あったの!?
そういうのはもっと早く言ってよ!

『ツガイは離れ離れになれば衰弱して死ぬが、それは場合だ。俺が死ねば互いの結びつきは解除され、は消える』
ジャンは真剣な顔で告げた。

ツガイは、片方が死ねば解消される、って。

何で今、このタイミングでそんなことを言うんだ。
僕が、実験のどさくさに紛れて、ジャンに毒薬飲ませようって思ったらどうするんだよ!

なのに、自分の身体を実験台にしろ、だなんて。

どうしてそんなことが言えるんだよ。
……命を預けるくらい、信頼してるってこと?


まだ、逢ったばっかりで。

勝手にツガイにして。えっちなことしておいて。
恨まれてないって思ってるの?

それとも。
僕になら、殺されてもかまわないって思ってる?


嫌だよ。
人殺しになんてなりたくないし。それなら、自分を実験台にしたほうがマシだ。

でも。
僕が倒れたら、この国は滅びる。


それじゃ、誰かを犠牲にするしかないのか?


†‡†‡†


『クロエよ、そう気負わなくともよい。そなたが召喚されたことは、この城の者しか知らぬこと。全ての責は国王である私が負うものだ』
ルロイ王は、静かに言った。


失敗しても。
それは犠牲ではなく、未来への礎になるのだと。

年下なのに。
僕がプレッシャーを感じないように、気を遣ってくれてるんだ。
立派な王様じゃないか。


ジャンも、メイベルも、パーシヴァルも、アンリも。
みんな、心配そうに僕を見てる。

僕はそんなに、悲壮な表情でもしてたのかな?


……しっかりしろ、理人。

お前がやらないで、誰が救世主やるっていうんだ。
召喚されたからには、出来る範囲で協力するって約束しただろ。

一人で全部を背負おうとするな。
ここには、頼りになる人たちがいるじゃないか。

出来ることを考えろ。


明日は、薬の散策をするとして。
今のうちに対策しておかなくてはいけないのは何だ?

協力してもらわないといけないことは。


「そうだ。……今のうちに、全ての国民に通達してほしいことがあります。診療所兼隔離施設として、広い場所も必要になるかも」

『よかろう。何でも言うがよい』
ルロイ王は力強く頷いた。


†‡†‡†


熱があるもの、咳が出るものはむやみに出歩かず、すぐに診療所に向かうように命じる。
診察費用は無料で。

ただの体調不良なら、治療魔法でどうにかなる。

だけど、伝染病だった場合は、感染者を隔離しておかないと被害は拡大する。

それと、ウイルスには効果が無いとはいうけど。
ないよりはあったほうがマシなので、マスクなどの感染予防対策。

殺菌用に、強いアルコールも蒸留しておかないと。
点滴などの道具も必要だ。


『わかった。全て早急に手配しておこう』

明日にでも国民の全てに報せてくれるそうだ。
施設も城の近くに建設すると。

頼もしいな。さすが王様。


「ジャンさん、調子が悪そうな動物ってわかる?」
『ああ、見ればわかるが』

さすが森林管理人。
動物の管理もしてるってだけある。

動物を呼ぶことも話すこともできるとか。
それはかなり助かる。

「じゃあ、調子が悪そうな動物を見たら連れてきて。動物にも感染するものみたいだから」
『わかった』


†‡†‡†


「食事の場で申し訳ないけど。デュランさん、患者に吐いてたり、ひどくお腹壊してた人はいた? 顔や手に吹き出物のようなものが出たりとか」

『いや、咳と熱で衰弱した様子だった』
後は鼻水?

じゃあコレラやノロウイルスではないか。
水みたいな嘔吐や、下痢が止まらなくなる症状だ。

食中毒や肝炎の線もない。

黒死病、天然痘とかでもない。
体組織が壊死したり、吹き出物が現れるからな。


風邪のような症状なら、インフルエンザみたいなものか。

海があるなら、経口補水液も作れる。
対処療法でいけるか?


こっちの世界の人は、基本的に身体が丈夫で。
少しくらい体調が悪くても放置してしまう。

魔法の効かない伝染病、という概念自体がないせいで、ろくな対策もとれないまま、滅びる運命にあったんだ。


でも、”伝染病”を知っている僕がここにいる。
頼りになる人達もいる。

誰一人、死なせるもんか。

ジャンだって。
死んでほしいなんて思わない。


そこまでして離れたいと考えるほど、嫌いじゃないから。


†‡†‡†


『見違えるように生き生きとしているな』

客室に戻って。
ジャンが言った。

ヲタクだからね。
自分の得意分野になると元気になるんだよ。


まずは医療魔法をマスターしておかないと。
伝染病じゃない、普通に具合が悪い人も来るだろうし。


「わ、」

後ろから腰に手を回されて。
ベッドに運ばれる。

ジャン、何でもう全裸になってるの!?

獣くさいなと思ってた匂いは、ジャンのフェロモンというか。
興奮した時に出る、体臭のようだ。


『いい匂いだ』
首筋の匂いをフンフン嗅ぐなってば。

「お、お風呂入りたいんだけど。……今日は汗かいたし、汗臭いと……」

階段上ったし。
色々あって、かなり冷や汗もかいたと思う。


『後で入れてやる。……クロエの匂いは少しもくさくない。いい匂いだ。もっとクロエの匂いを味わいたい』

「ひゃっ、」
ぺろりと首を舐められる。

それだけで、何かゾクゾクしてしまう。
お尻の辺りがうずうずするのは、ツガイにされたせいなのか。
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