オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙

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リヒト

覚悟と決別

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『さて、私も何か力仕事でも手伝ってくるかな』
なんか腕まくりしてる。

王様なのに、わりと筋肉質だ。
狼だからかな?


そっと自分の貧弱な腕を見る。

『陛下、手つかずの政務が山積みですが?』
渋面をしたアンリが口を挟んだ。

「できれば王様は外に出ないでください。感染の危険もそうですけど。いざという時に伝令を出せる最高責任者に倒れられては困るので」

『これは手痛い。そう言われては、嫌でもおとなしくせねばならなくなった』
ルロイ王は素直に引いた。


アンリは僕に感謝の目を向けてきた。
この自由な王様に、だいぶ振り回されてきたんだろうな……。

まだ若いのに、くっきりと額に刻まれた縦皺が物語っている。


†‡†‡†


『そうそう、明日には診察室が使用可能になるそうだ』

アンリが報告書を手に、教えてくれた。
早いな。

すでに王命で、外出後のうがい手洗いの徹底と、咳や熱のある者は絶対に来るように、と通達したそうなので。
明日からは、診察室で患者を待たないと。


『診察室には俺もついていく。多少なら医療魔法も使える。助手に使え』
ジャンは僕から離れたくないと言った。

診察する人が一番感染の危険にさらされるから。
心配なんだそうだ。

「風邪なら何度か引いたことあるし。僕は大丈夫だよ。むしろ、もしジャンがダウンしたら誰がその巨体を運ぶの?」
僕の腕じゃ、ジャンの片腕すら持ち上げられないと思う。

ジャンはむう、と悩んで。
『診察室の近くに寝台を置かせよう。そこまで、這ってでも行く』

絶対に助手の座は退かない覚悟のようだ。
仕方ない。


「じゃあお願いするね?」
手を差し出すと。

その手を握られて。
逞しい胸板に引き寄せられた。

全く。
握手のつもりで出したのに。


『挿れないから、触らせろ』
もう無精ひげの生えている顔で頬ずりされる。
痛いってば。

『愛している。クロエ』

ストレートな愛情表現に照れて、目を伏せたら。
それが了解の意と取られたようで。


ベッドに運ばれて、押し倒された。


†‡†‡†


ジャンは特に、僕の首の匂いを嗅ぐのが好きみたいだ。
ふんふんと嗅ぎながら、服を脱がされてく。


ジャンに触れられていると。
自分の身体なのに、自分のものじゃないように思えて怖くなる。

性器をちょっと弄られただけで、後ろが勝手に反応してしまう。


『こんなに可愛いのに、年上とはな』
キスの合間に言われる。

まさかアレの大きさとか形状の違いについての感想じゃないだろうな……。
体格が違うんだから当たり前だろ。

「ひゃ、……や、」
乳首をちゅっと吸われて。

舌先でぐりぐりされる。
唾液で濡れたそこが、充血して。紅く色づいている。

ジャンと目が合うと。

ここは自分に愛撫されてこうなったんだぞ、というように、にやりと笑って。
指でつままれた。

それにも感じてしまう。


指で慣らされて、さんざん達かされた後。
僕の太ももで、ジャンが達する。

ぎらぎらと耀く灰青色の目が。
太ももなどではなく、はらわたに挿れたいのだと語ってる。


血の一滴、骨の一かけらも残さず喰い尽くしたい、と願う餓えた肉食獣の瞳だった。

それに恐怖を覚えるより。
ぞくそくしてしまった。


†‡†‡†


朝食の席で。

感染の危険を防ぐため。
僕とジャンの滞在場所を、城内の客室ではなく、診察室の傍に移すことを提案した。


念のため、食事の席も、これからは別々にしておいたほうがいい。

報告や連絡の伝達も。
直接口頭でなく、文書形式にしてもらいたいと。


『そこまで用心せねばならぬほどのことなのか?』
ルロイ王は眉根を寄せた。

のことです。そこまでしても、足りない可能性もありえます」

何せ、この世界では未知の病気だ。
万が一のことを考え、用心しておくのが大事だ。

ルロイ王、アンリ、メイベルは不安そうな表情を浮かべ、こちらを見ている。


「後で過剰に用心しすぎたと笑い話にできることを願ってください。騒動が収まったら、またご一緒に食事が出来るのを楽しみにしてますから」
あえて明るく言った。

『ああ、一日でも早くそうなるよう、その日を待とう』
ルロイ王は頷いて。

アンリもそれに同意した。

『うん。一緒にお菓子食べようね。異世界のお菓子、楽しみにしてるよ』
メイベルは涙をこらえて微笑んでくれた。


†‡†‡†


”解析”という魔法を覚えた。

これで相手の細かいステータスとかを見られるようになったので、素人でも診察が楽になるし。
分子構造もわかる。


午前中のうちに、国中の牧場を回って。

具合の悪い家畜がいないかをジャンにチェックしてもらって。
ついでに牧場主の健康も確認。

牧場主には、家畜小屋に入る前に手洗いや靴を殺菌することを徹底してもらう。
一匹が病気に感染すれば、舎の動物全てを処分しなくてはいけなくなる。

そうならないための予防である。

これは王命だ、とジャンに言ってもらった。
見知らぬ人間が注意喚起するよりも、森林管理人であるジャンが言ったほうが説得力があるだろうし。


午後から診療所を開放した。

白衣を作ってもらったので、本物の医者になったみたいな気分だ。
汚れもわかりやすいし。

ちなみに外科医の手術着が緑色なのは、飛んだ血がよく見えるようにらしい。
物事には理由があるものだ。


患者に対して、ジャンは僕を、若く見えるが王が国民のために他の国から呼んだ名医であると紹介した。
ついでに、自分のツガイだということも。

みんな、手が早いと言って笑っていた。


最初の患者は、咳が出るというので”解析”したら、喉を少々傷めていた。
風邪ではない。

仕事柄、声を張り上げることが多いようだ。
蜂蜜とカリンでシロップを作って渡した。甘くておいしいけど、飲みすぎないように。


次は、喉に小骨が刺さっていたので。
鍛冶屋の作成してくれたピンセットで抜いてあげる。

今までは、原因である骨を取り除かないまま傷を塞いでいたため、炎症が再発したものと思われる。


その次は、喉にデキモノがあったので、メスで切開して膿を出した後、治療魔法で塞いだ。
口内炎もあったので、再発防止のためにもビタミンB類やビタミンCの多く含む果物を教えて、積極的に食べるように言った。

初日の患者は3人か。
まだ風邪の症状が出た患者は来てない、と報告書に記入する。
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