オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙

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リヒト

救済へ

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……なるほど。
そういう訳だったか。


この国の獣人は、子供に対して、とても優しい。
隣国の人間だろうが、具合が悪そうなら連れて帰って、手厚く看病するだろう。

寝ずに看病などすれば、体調を崩す。弱った身体は、ウイルスの格好の餌食だ。
そうして病は、この国にも蔓延していったんだ。

特に普段は丈夫で病気に耐性のないこの国の人は。
病気で弱っても、限界まで我慢して。力尽きて、倒れていったんだろう。

そして多くの獣人や動物を媒介して、
ウイルスは変質し。

再び人を襲い。
世界が滅びるほどのパンデミックを起こした。


それが、元の占いの結果だったんだ。


†‡†‡†


でも、僕がここに来て。
この診療所を立ち上げたから。

病気の子供を自分の家には連れ帰らず。
慌ててまっすぐ、この診療所に運んでくれたんだ。

その為、他に伝染する危険を回避できた。


おそらく、”生き残った人”というのは。
ウイルスに耐性がついた人だろう。

消毒の概念もないため、生きたウイルスを保持したまま隣村に行って。
自分がウイルスをまき散らしているとは知らず。

他人と接触したために、伝染したんだ。


「僕は、この国の医者だ。君も、君の大事な人も僕が救ってみせる。今は、病気に勝つことだけ考えるんだ」
ドニは僕をじっと見て。

こくりと頷くと、目を閉じた。
安心して眠ったのだろう。


ジャンに、王とデュランに今の件を報告するように頼んだ。

とりあえず、ドニの看病はデュランの魔導人形がしてくれるそうなのでひと安心だ。
僕は簡易実験室で、ドニから採ったウイルスを培養し、このウイルスで様々な実験を試した。

後は耐性を得た人から血液採取を頼んで、抗体を作らないと。


ルロイ王から返事が来た。

村一つ、謎の病気により滅び。
さらにもう一つの村が滅亡の危機にさらされている状況だというのに。

隣国からは、まだ何の連絡も来ていないという。


焼いて死滅するウイルスならまだいいが。
もし死なないものだったら、焼いたことによって煙が上昇気流に乗り、雨となって降り注ぎ、被害が拡大する可能性もゼロではない。

微生物が混じり、雨や雪が変色することもある。

焼いても埋めても凍らせてもどうにもならない病原菌だってあるのに。
隣国の王も、知識は中世レベルなのか。


……仕方ない。条件が違うんだ。
何度も伝染病を経験してきた元の世界と、全くなかったこっちじゃ知識が無くて当たり前じゃないか。

知らないなら、教えればいい。
それだけだ。


†‡†‡†


新しい白衣を羽織り、マスクをつけて。

ルロイ王から預かった隣国の王への親書と。
治療に必要なものを荷台に積んだ。

その荷台は、灰色熊になったジャンが引いていく。

クマ用に作ったマスクが息苦しいというけど。
それは我慢してほしい。


通常のマスクはウイルスなどの微粒子は引っかからないけど。
このマスクには、ピンポイントでそのウイルスを通さない魔法をかけてある。

先ほど実験して作ったものだ。
魔法も使いようだ。

うまく使えば、とても便利なものだ。

幸い、目から入る程度なら涙で流れるとの結果だったので。
ゴーグルは不要だった。


プリマット国に向かうと。
国境近くには兵隊がいて、誰何すいかされた。

見張りがいるのに、ドニはよくこちらに来れたな、と思ったが。
ドニは小さかったので、見張りがよそ見をしている隙に木陰にでも隠れたのだろうか?


「グラン・テール王国から来た医者、黒江理人です。ボール村で病気が蔓延していると聞き、治療しに来ました」

名と身分を名乗り。
国王からの親書を見せた。

『彼は唯一、伝染病を治せる医者だ。ボール村にいる患者を診察させてほしい』
しゃべるクマを、一人は不審そうな目で見たけど。

もう一人は、ボール村出身だったようだ。


『助けられるなら、どうか助けて欲しい。あの村には、両親が住んでいるんだ……!』
ゾシメと名乗るその兵は、台車の前で跪いた。

同僚のそんな姿を見て。
仕方ない、と言い。

もう一人は、親書を城に届けるため馬を走らせた。


†‡†‡†


ゾシメは、他の兵と見張りを交代し、村への案内役を申し出てきた。
それはありがたい。

「でも、案内は村が見えるところまででいいよ。なるべく近寄らないほうがいい」
『しかし、あなた方は村の中に入るのでしょう?』

「そりゃ、医者だからね」
入らなくちゃ患者が診れない。

『人手が足らなくはないですか?』


確かに足りないし。
どうしても手伝いたいようなので。

絶対に外さないことを約束に、マスクを渡した。


それと、村を出る時には手を消毒して、できればシャワーを浴びて全身洗い流す。

服も全て替えること。
脱いだ服は、殺菌消毒することを注意しておく。


『ずいぶん厳重というか。そんなに用心しないといけない病気なのですか?』

すでに村一つ滅びてるっていうのに。
死ぬまで放っておいて、死体を燃やせば何とかなる程度の認識のようだ。


仕方ない。
これまで、伝染病の知識自体が存在しなかったの世界だ。

菌やウイルス、免疫。イチから教えるのか。
……昔の医者は大変だったんだなあ。


「この世界……この国では未知の病気だからね。外に出したくない。ここで食い止めないと、

『はっ、気を引き締めて、任務にあたります』
ゾシメは背筋を伸ばした。


†‡†‡†


村の前で、ジャンが人型になるのを見て。
ゾシメは驚いて悲鳴を上げていた。

兵になったばかりで、獣人を見たのは初めてなようだ。

『ずいぶんと慣れたクマだと思ったら……獣人だったんですね。失礼しました』


村に入って。
まずは村長の家をノックしてみたら。

『えっ、お医者様が来てくれたんですか? しかも、隣の国から!?』
元気な人が出できた。


今まで、隣村から来た人が村の病人を看病していたようだ。
自分がキャリアーだとも知らず。

悪意は無いようなので、責められない。
そもそも伝染病に関しての知識が一切無いのだから。
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