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リヒト
戦争の傷跡
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この伝染病は、ウイルスという概念が無い、この世界の医療魔法ではどうにもならなかった、ということは説明した。
謎の奇病は村ごと焼却する、というのも苦渋の決断だったんだろう。
対策する方法を知らなければ、それが一番の解決法でもあった。
知識が無い、とはそういうことも引き起こす。
だからこそ、ルロイ王は、国同士で知識を共有しあうことを提案したんだろう。
『情けないが、医療が遅れている我が国に、その知識をいかばかりか授けていただけないだろうか?』
ジェローム王は再び握手を求めてきた。
本来、自国の民が他の国に助けを求めるなど、恥だ。
でも、ジェローム王は助力に感謝して、礼を言った。
そんな国王、凄いと思う。
「喜んで、ご協力させていただきます」
握手を交わす。
固い手だった。
ペンだけじゃなく、刀も握る手だと感じた。
とりあえず、若い医者をグランテール王国の診療所に助手として送るので、教育してやって欲しいと頼まれた。
インターンか。
医療が発展するのは、国民にとっても喜ばしいことだろう。
†‡†‡†
「ところで、何でジャンは”旋風”って言われたの?」
『……つまらんあだ名だ』
ジャンは微妙な顔をしたけど。
『その爪の一振りで、まるで風に飛ばされたように兵が吹っ飛ぶので”旋風の”J・Jと呼ばれてたのだよ』
ジェローム王が教えてくれた。
巨大灰色熊の爪か……。
それは脅威だ。
そうか。
ここでは16歳で成人扱いだった。ルロイ王もそうだけど。
現在23歳のジャンも、戦争経験者なわけか。
身体に、目立つ傷は無かった気がする。
入隊してたった一年ちょっとでそんな二つ名をつけられるほどだ。相当強かったんだろうな。
『今はクロエのツガイで、森林管理人兼医療助手だ。他の何者でもない』
ジャンは感情を見せない顔で、ワインを呷った。
グラン・テール王国にも、戦争の痕跡はまだ残っていた。
この国には、更に色濃く。
戦争の傷跡か……。
今も、残ってるのかな。
ジャンの心にも。
†‡†‡†
このままお城に一泊することになって。
まずは疲れを落としてほしい、と。
風呂に案内された。
お城の近くには、温泉の源泉があって。そこからお湯を引いているらしい。
ジャンがクマになっても泳げるくらい広い浴槽だった。
「わあ、温泉だ」
しかもかけ流しとか、贅沢だな。
『変なにおいがするな』
ジャンは嫌そうな顔をしてる。
鼻が良すぎると、きついのかな?
「これ? 硫黄の匂いだよ。温泉の成分」
『そっちにも、これはあるのか?』
「あるよ。色々な種類の温泉。白かったり青かったり。入浴剤でしか知らないけどね」
身体を流して。
湯船に浸かると、ちょっとピリッとする。
金属は変色するから、眼鏡は更衣室に置いてある。
ジャンも硫黄の匂いに慣れたのか、隣に入ってきた。
気持ちよさそうだな。
温泉クマ……。
上気して、ほんのり赤くなったジャンの肌に、白い筋のようなものが見えた。
ここの部分だけ毛が生えてないし。
これって、もしかして。
古傷……?
僕の首の傷は、ツガイの証なので、ガッツリ残ってるけど。
魔法で治しても、完全には消えない場合があるって聞いた。
それは。
傷が大きかったり、深かった場合だ。
そんな、ひどい傷を負ったの……?
†‡†‡†
「ジャン、これは?」
白く浮かび上がる痕に触れて、聞いてみる。
『ああ、これか? 古傷だ。体温が上がると出てくるようだな』
少し、困ったような顔をして答えてくれた。
「痛かった?」
『いや、当時は、痛みとか感情はあまり無かったからな。よく覚えていない』
傷を負った経緯を詳しく話す気はなさそうだ。
色々と、感覚が麻痺してしまうような。
そんな厳しい戦いだったのか。
こんなに強い獣人の国でも。
中年といえる世代の人が、ごっそり抜けてしまったほどの。
『そんな顔をするな。今、俺はとても幸せだ。クロエとツガイになれた。これ以上の幸福はない』
顔を引き寄せられて、キスされた。
そんな顔って。どんな顔してたんだろう?
途方に暮れたような顔かな。
悲しそうな顔?
「戻ったら、デュランに危機は去ったか、聞いてみないとね?」
もう一回、占ってもらわないと安心できない。
『もう大丈夫だと思うが。慎重だな』
ジャンは首を傾げて。
『もしかして、今夜最後まですると案じたか? さすがにここではしないぞ』
「!?」
そうだった。
伝染病の件が落ち着いたら、最後までしていいって言ったんだっけ。
うっかり忘れてた。
ここで最後までされるとか、そんな心配はしてなかったけど。
改めてそんなことを言われると。
意識してしまう。
広い胸板とか。逞しい腕とか。
†‡†‡†
『真っ赤になって。クロエは可愛いな』
微笑みながら唇を寄せてくる。
うう。
ジャンのバカ。エロクマ!
もうヒゲ伸びてるし。
伸びるの早いのは、エロいからに決まってる。
『触れてもいいか?』
もう、ぎゅっと抱き締めてるくせに。いまさら聞かれても。
大きな手は、僕の背を覆って。
小指が、お尻の間を撫でた。
それだけで。
『……濡れてきた』
嬉しそうに言うなってば。
バカ。
謎の奇病は村ごと焼却する、というのも苦渋の決断だったんだろう。
対策する方法を知らなければ、それが一番の解決法でもあった。
知識が無い、とはそういうことも引き起こす。
だからこそ、ルロイ王は、国同士で知識を共有しあうことを提案したんだろう。
『情けないが、医療が遅れている我が国に、その知識をいかばかりか授けていただけないだろうか?』
ジェローム王は再び握手を求めてきた。
本来、自国の民が他の国に助けを求めるなど、恥だ。
でも、ジェローム王は助力に感謝して、礼を言った。
そんな国王、凄いと思う。
「喜んで、ご協力させていただきます」
握手を交わす。
固い手だった。
ペンだけじゃなく、刀も握る手だと感じた。
とりあえず、若い医者をグランテール王国の診療所に助手として送るので、教育してやって欲しいと頼まれた。
インターンか。
医療が発展するのは、国民にとっても喜ばしいことだろう。
†‡†‡†
「ところで、何でジャンは”旋風”って言われたの?」
『……つまらんあだ名だ』
ジャンは微妙な顔をしたけど。
『その爪の一振りで、まるで風に飛ばされたように兵が吹っ飛ぶので”旋風の”J・Jと呼ばれてたのだよ』
ジェローム王が教えてくれた。
巨大灰色熊の爪か……。
それは脅威だ。
そうか。
ここでは16歳で成人扱いだった。ルロイ王もそうだけど。
現在23歳のジャンも、戦争経験者なわけか。
身体に、目立つ傷は無かった気がする。
入隊してたった一年ちょっとでそんな二つ名をつけられるほどだ。相当強かったんだろうな。
『今はクロエのツガイで、森林管理人兼医療助手だ。他の何者でもない』
ジャンは感情を見せない顔で、ワインを呷った。
グラン・テール王国にも、戦争の痕跡はまだ残っていた。
この国には、更に色濃く。
戦争の傷跡か……。
今も、残ってるのかな。
ジャンの心にも。
†‡†‡†
このままお城に一泊することになって。
まずは疲れを落としてほしい、と。
風呂に案内された。
お城の近くには、温泉の源泉があって。そこからお湯を引いているらしい。
ジャンがクマになっても泳げるくらい広い浴槽だった。
「わあ、温泉だ」
しかもかけ流しとか、贅沢だな。
『変なにおいがするな』
ジャンは嫌そうな顔をしてる。
鼻が良すぎると、きついのかな?
「これ? 硫黄の匂いだよ。温泉の成分」
『そっちにも、これはあるのか?』
「あるよ。色々な種類の温泉。白かったり青かったり。入浴剤でしか知らないけどね」
身体を流して。
湯船に浸かると、ちょっとピリッとする。
金属は変色するから、眼鏡は更衣室に置いてある。
ジャンも硫黄の匂いに慣れたのか、隣に入ってきた。
気持ちよさそうだな。
温泉クマ……。
上気して、ほんのり赤くなったジャンの肌に、白い筋のようなものが見えた。
ここの部分だけ毛が生えてないし。
これって、もしかして。
古傷……?
僕の首の傷は、ツガイの証なので、ガッツリ残ってるけど。
魔法で治しても、完全には消えない場合があるって聞いた。
それは。
傷が大きかったり、深かった場合だ。
そんな、ひどい傷を負ったの……?
†‡†‡†
「ジャン、これは?」
白く浮かび上がる痕に触れて、聞いてみる。
『ああ、これか? 古傷だ。体温が上がると出てくるようだな』
少し、困ったような顔をして答えてくれた。
「痛かった?」
『いや、当時は、痛みとか感情はあまり無かったからな。よく覚えていない』
傷を負った経緯を詳しく話す気はなさそうだ。
色々と、感覚が麻痺してしまうような。
そんな厳しい戦いだったのか。
こんなに強い獣人の国でも。
中年といえる世代の人が、ごっそり抜けてしまったほどの。
『そんな顔をするな。今、俺はとても幸せだ。クロエとツガイになれた。これ以上の幸福はない』
顔を引き寄せられて、キスされた。
そんな顔って。どんな顔してたんだろう?
途方に暮れたような顔かな。
悲しそうな顔?
「戻ったら、デュランに危機は去ったか、聞いてみないとね?」
もう一回、占ってもらわないと安心できない。
『もう大丈夫だと思うが。慎重だな』
ジャンは首を傾げて。
『もしかして、今夜最後まですると案じたか? さすがにここではしないぞ』
「!?」
そうだった。
伝染病の件が落ち着いたら、最後までしていいって言ったんだっけ。
うっかり忘れてた。
ここで最後までされるとか、そんな心配はしてなかったけど。
改めてそんなことを言われると。
意識してしまう。
広い胸板とか。逞しい腕とか。
†‡†‡†
『真っ赤になって。クロエは可愛いな』
微笑みながら唇を寄せてくる。
うう。
ジャンのバカ。エロクマ!
もうヒゲ伸びてるし。
伸びるの早いのは、エロいからに決まってる。
『触れてもいいか?』
もう、ぎゅっと抱き締めてるくせに。いまさら聞かれても。
大きな手は、僕の背を覆って。
小指が、お尻の間を撫でた。
それだけで。
『……濡れてきた』
嬉しそうに言うなってば。
バカ。
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