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リヒト
実家に結婚の報告
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異世界でも一日は24時間で、一週間は7日、一年は12か月だった。
数字もあった。
名称は違うけど。
ただ、西暦みたいなのは無くて、代わりに元号のようなものはあって。それは、国によって違うらしい。
混乱しないのかな、と思うけど。
ルロイ・シスアン、ジュアンディスジュール、ヴァンドゥル。
日本語で言えば、現在はルロイ暦6年、5月10日水曜日ってことになるのかな?
僕が日本アルプスに植物採集に行ったのが7月の30日だったので、暦はだいぶずれてるようだ。
診療所は土日休診。週休二日制だ。
急患があれば、随時受け入れるけど。
祭日とか、祝日もあるのかな?
こっちでも新年は祝うみたいなので、今からちょっと楽しみだったりして。
†‡†‡†
日曜日に結婚式を挙げることが決定した。
うっかりしてたけど。
通信の魔法で家族に連絡するのを今まで忘れていたことに気づいたのは金曜日の夜だった。
せっかく習得してたのに。
よほど伝染病が気になって、神経が他に回らなかったんだな。
人の命が掛かってるんだし、当たり前だけど。
交信したい相手の名と顔を思い浮かべて。
呪文を唱える。
鏡とか、媒介があると楽だというので、電池の切れたスマホを媒介に使った。
ジャンがその板は何だ、と不思議そうに見ていたので。
通信装置だと言ったら伝わった。
呼び出し音が鳴って。
もしもし? と怪訝そうに応答する母さんの声がした。
「あ、母さん? 僕。理人だけど」
我ながらオレオレ詐欺のようだ。
『理人!? あんたどこにいるの!? ホテルからチェックインしたまま戻ってこないって連絡が来て、みんな心配してるのに! これから長野の警察に行くとこだったのよ!』
良かった、間に合った。
まだ、捜索願いは出していないようだ。
「ごめんごめん、今そっちは何月何日?」
『8月1日だけど……。そっちはってどういうことよ?』
向こうでは、まだ二日間しか経ってないのか。
こっちは、時間の進み方が速いのかな? 時間や暦は同じなんだけどな。
「話すと長くなりそうなんで、まず要約するけど。異世界に召喚されて、今、医者になってるんだ」
『はあ!?』
†‡†‡†
獣人の国に、救世主として召喚された。
そこは、男しかいない世界で。
認識の違いによる誤解があって、ジャンに噛まれてしまいツガイにされたこと。そうなったら、もう元の世界に帰れない身体になってしまったこと。
召喚されたのは、国が滅びるという占いにより、魔法の素質があって医学の知識が多少ある僕が選ばれたこと。
災いの原因は、こちらでは未知の病だった伝染病だったこと。
色々な人の協力のおかげで、治療法も確立した。
ひと段落着いたところで。
通信魔法を覚えたので、やっとこうして連絡が出来たんだと説明した。
『あんたはそんな質の悪い冗談をいう子じゃないってわかってるけど。俄には信じられない話だわ……』
でも、電話の番号表示は文字化けしてたし。
声ははっきり聞こえるのに、距離を感じる気はするという。
魔法で通信してるだけで。
実際に電話している訳じゃないからかな。
「あ、そうそう。それで明後日、結婚式を挙げるんだ。相手は男だけどね。あははは」
笑ってる場合じゃないでしょ、と怒られた。
でも、状況的に笑うしかないじゃん。
このまま、趣味の研究を続ける人生で。
お嫁さんは期待できないと思ってたから、面倒見てくれる人が出来て良かったじゃない、とか言われた。
いや、良くはないんじゃない?
「あ、言葉は通じないかもしれないけど。声、聞いてみる? ……ジャン、ちょっと来てー」
スマホを渡すと。
ジャンは緊張した面持ちで受け取って。
『こんにちは。初めまして、お……私の名はジャン=ジャック・フォスター。森林管理人兼医療助手をしています。息子さんのことは一生幸せにするので、どうか、安心して任せてください』
一気に言って。
スマホを返された。
耳まで赤くなってる。
どうやら相当緊張したみたいだ。
可愛いな。
†‡†‡†
『まだ心の準備が出来てないのに電話代わらないでよ、驚いたじゃない。でも、名前以外は何を言ってるかはわからなかったけど、誠実そうな人ね。今のが異世界語? 声も良いけど。響きがフランス語っぽくて素敵ね』
ああ、確かに名前とか、フランス人にいそうな感じだよね。
礼服も、中世のフランスっぽい。
異世界から召喚は出来るんだし。過去、交流があってもおかしくはないんだよね。
「帰れないけど、こうして連絡は入れられるから。何かあったらまたかけるよ」
『何もなくても、定期的に連絡ちょうだい。心配だし。今度はお父さんがいる時にしてあげてね』
「はいはい。じゃあまたねー」
通話を終了した。
嫌に静かだな、と思ったら。
ジャンは、何とも複雑そうな表情で僕を見ていた。
「どうしたの?」
『俺は、とても罪深いことをしたのだと、今更になって気付いた』
僕が母親と仲良く話す様子を見て。
自分のせいで、永遠に引き離してしまったことに気付いたという。
ジャンは親と不仲だったし。
成人してすぐに出て行ったので、郷愁を抱くなんて考えもしなかったとか。
僕の都合を考えず、自分の欲望ばかりを優先していたというけど。
ジャンはずっと優しかった。
大切にするって言葉は嘘じゃなかった。
自分には無い考えだったのに。
そういう風に、僕の気持ちも思いやってくれるようになったのが嬉しい。
†‡†‡†
「最初は、勝手に何てことするんだって怒ってたけど。今はそうでもないよ」
椅子に座っていたジャンの膝に乗って。
広い胸板に寄りかかる。
「何だかんだ、明後日の結婚式も楽しみにしてるし。医者として頼られるのも悪くないし。まだ散策したい場所もあるし。こっちでの催し物とかどんなかなってわくわくしてる」
『前向きだな』
そっと頬を撫でられた。
だって後ろを向いてたら、歩けないじゃん。
数字もあった。
名称は違うけど。
ただ、西暦みたいなのは無くて、代わりに元号のようなものはあって。それは、国によって違うらしい。
混乱しないのかな、と思うけど。
ルロイ・シスアン、ジュアンディスジュール、ヴァンドゥル。
日本語で言えば、現在はルロイ暦6年、5月10日水曜日ってことになるのかな?
僕が日本アルプスに植物採集に行ったのが7月の30日だったので、暦はだいぶずれてるようだ。
診療所は土日休診。週休二日制だ。
急患があれば、随時受け入れるけど。
祭日とか、祝日もあるのかな?
こっちでも新年は祝うみたいなので、今からちょっと楽しみだったりして。
†‡†‡†
日曜日に結婚式を挙げることが決定した。
うっかりしてたけど。
通信の魔法で家族に連絡するのを今まで忘れていたことに気づいたのは金曜日の夜だった。
せっかく習得してたのに。
よほど伝染病が気になって、神経が他に回らなかったんだな。
人の命が掛かってるんだし、当たり前だけど。
交信したい相手の名と顔を思い浮かべて。
呪文を唱える。
鏡とか、媒介があると楽だというので、電池の切れたスマホを媒介に使った。
ジャンがその板は何だ、と不思議そうに見ていたので。
通信装置だと言ったら伝わった。
呼び出し音が鳴って。
もしもし? と怪訝そうに応答する母さんの声がした。
「あ、母さん? 僕。理人だけど」
我ながらオレオレ詐欺のようだ。
『理人!? あんたどこにいるの!? ホテルからチェックインしたまま戻ってこないって連絡が来て、みんな心配してるのに! これから長野の警察に行くとこだったのよ!』
良かった、間に合った。
まだ、捜索願いは出していないようだ。
「ごめんごめん、今そっちは何月何日?」
『8月1日だけど……。そっちはってどういうことよ?』
向こうでは、まだ二日間しか経ってないのか。
こっちは、時間の進み方が速いのかな? 時間や暦は同じなんだけどな。
「話すと長くなりそうなんで、まず要約するけど。異世界に召喚されて、今、医者になってるんだ」
『はあ!?』
†‡†‡†
獣人の国に、救世主として召喚された。
そこは、男しかいない世界で。
認識の違いによる誤解があって、ジャンに噛まれてしまいツガイにされたこと。そうなったら、もう元の世界に帰れない身体になってしまったこと。
召喚されたのは、国が滅びるという占いにより、魔法の素質があって医学の知識が多少ある僕が選ばれたこと。
災いの原因は、こちらでは未知の病だった伝染病だったこと。
色々な人の協力のおかげで、治療法も確立した。
ひと段落着いたところで。
通信魔法を覚えたので、やっとこうして連絡が出来たんだと説明した。
『あんたはそんな質の悪い冗談をいう子じゃないってわかってるけど。俄には信じられない話だわ……』
でも、電話の番号表示は文字化けしてたし。
声ははっきり聞こえるのに、距離を感じる気はするという。
魔法で通信してるだけで。
実際に電話している訳じゃないからかな。
「あ、そうそう。それで明後日、結婚式を挙げるんだ。相手は男だけどね。あははは」
笑ってる場合じゃないでしょ、と怒られた。
でも、状況的に笑うしかないじゃん。
このまま、趣味の研究を続ける人生で。
お嫁さんは期待できないと思ってたから、面倒見てくれる人が出来て良かったじゃない、とか言われた。
いや、良くはないんじゃない?
「あ、言葉は通じないかもしれないけど。声、聞いてみる? ……ジャン、ちょっと来てー」
スマホを渡すと。
ジャンは緊張した面持ちで受け取って。
『こんにちは。初めまして、お……私の名はジャン=ジャック・フォスター。森林管理人兼医療助手をしています。息子さんのことは一生幸せにするので、どうか、安心して任せてください』
一気に言って。
スマホを返された。
耳まで赤くなってる。
どうやら相当緊張したみたいだ。
可愛いな。
†‡†‡†
『まだ心の準備が出来てないのに電話代わらないでよ、驚いたじゃない。でも、名前以外は何を言ってるかはわからなかったけど、誠実そうな人ね。今のが異世界語? 声も良いけど。響きがフランス語っぽくて素敵ね』
ああ、確かに名前とか、フランス人にいそうな感じだよね。
礼服も、中世のフランスっぽい。
異世界から召喚は出来るんだし。過去、交流があってもおかしくはないんだよね。
「帰れないけど、こうして連絡は入れられるから。何かあったらまたかけるよ」
『何もなくても、定期的に連絡ちょうだい。心配だし。今度はお父さんがいる時にしてあげてね』
「はいはい。じゃあまたねー」
通話を終了した。
嫌に静かだな、と思ったら。
ジャンは、何とも複雑そうな表情で僕を見ていた。
「どうしたの?」
『俺は、とても罪深いことをしたのだと、今更になって気付いた』
僕が母親と仲良く話す様子を見て。
自分のせいで、永遠に引き離してしまったことに気付いたという。
ジャンは親と不仲だったし。
成人してすぐに出て行ったので、郷愁を抱くなんて考えもしなかったとか。
僕の都合を考えず、自分の欲望ばかりを優先していたというけど。
ジャンはずっと優しかった。
大切にするって言葉は嘘じゃなかった。
自分には無い考えだったのに。
そういう風に、僕の気持ちも思いやってくれるようになったのが嬉しい。
†‡†‡†
「最初は、勝手に何てことするんだって怒ってたけど。今はそうでもないよ」
椅子に座っていたジャンの膝に乗って。
広い胸板に寄りかかる。
「何だかんだ、明後日の結婚式も楽しみにしてるし。医者として頼られるのも悪くないし。まだ散策したい場所もあるし。こっちでの催し物とかどんなかなってわくわくしてる」
『前向きだな』
そっと頬を撫でられた。
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