オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙

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リヒト

幸せな明日へ

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『……?』
不思議そうな顔をしているジャンの小指を口に含んで。

指の根元を、強く噛んだ。


歯形がつくほど噛んだつもりなのに、ジャンは全然痛そうな顔をしてない。
むしろ、嬉しそうな顔をしている。

『……リヒト。今のは、意味をわかっていて噛んだんだと受け取っていいのか?』

嬉しいな。
わかってくれたんだ。

「うん。僕が噛んでも、意味はないかもしれないけど……」

『いや、意味はある。痕は残らなくとも、俺の心に深く刻まれた』
ジャンは幸せそうに笑った。

それを見て。僕も幸せな気持ちになる。


†‡†‡†


ジャンに噛まれて。
ツガイにされたせいで、元の世界に帰れなくなったって聞いて。その時はショックだったけど。

異世界に召喚されて、今では良かったと思ってる。

ここに来て。
初めて僕は、心から誰かを愛するという気持ちを知ったんだ。

愛される喜びも。触れ合ったり、抱き合うことの心地よさも。

今まで、何となく生きていたのに。趣味で調べていた知識が役立って。
大勢の人を助けることもできた。

感謝されて、頼られて。
仕事で充実するという喜びも知った。


今は、微妙な召喚術の腕前だったデュランに感謝している。

もし、召喚が成功して、城に召喚されて。
ジャンに拾われて、ツガイにされてなかったら。

伝染病に対する処置は同じだったとしても、ここまで、みんなと仲良くなってはいなかったと思う。


そのまま、元の世界に戻って。
変わりばえのない暮らしを続けていただろう。

ひとりでいることも、生薬の研究も、それなりに楽しい生活だったはずなのに。
今ではもう、ジャンの居ない生活なんて考えられなくなってる。

朝も夜も、ずっと傍にいて。
この、愛しい人と。同じ景色を見ていたいと思うから。


「ジャンが僕のツガイで良かった。大好きだよ」
心から思ったことを告げると。

ジャンは一瞬、泣きそうな表情をして。
僕をぎゅっと抱き締めた。


†‡†‡†


『ひと目見た時から、欲しくてたまらなかった。そこまで感情を揺さぶられたのは生まれて初めてだった。俺の身勝手を許し、受け入れてくれてありがとう。……愛している、リヒト』
愛の言葉を囁かれた後。

首筋のしるしに軽く歯を立てられて、ぞくぞくする。


「ん、」
ジャンの股間も、反応していた。

僕に小指を噛まれて、そうなったんだと告げられて。
嬉しくなる。

僕も、同じだから。

ツガイに触れられただけで、分泌液が出るような体質になってしまった、この身体も。
今は嬉しく思う。

この体格差じゃ、通常、受け入れるのは不可能だっただろうし。


ジャンの全てを受け入れると。
内側から内臓を押し上げられて、息苦しいけど。

満たされていると感じるし。

全部がいいところに当たってて。
動かなくても気持ち良い。


ジャンも、すごく気持ち良さそうで、嬉しい。
一日中こうしていたいって言われるのは、さすがに困るけど。


「あっ、ん、……ジャン、好きぃ、」
『ああ……リヒト、可愛い俺のツガイ。一生、離さない』

向かい合ったかたちで揺さぶられて。
ネックレスが触れ合う。

その度に、宝石は澄んだ音を奏でている。


なるほど。
ぶつかると綺麗な音がする石を選んだ、って言ってたのは、こういうことか。

思わず笑ってしまった口元を。
全部覆って食まれるような、キスをされて。

広い背中に手を回した。


†‡†‡†


新婚なのに、とぶつぶつ言ってたけど。

明日は診察があるからもう寝たいと言ったら。
おとなしくやめてくれた。


『おやすみ、リヒト。いい夢を』
「ん、おやすみ」

おやすみのキスをして。
目を閉じた。


明日もおはようのキスをして。

朝ご飯を食べて、仕事をしよう。
そして、週末になったら思う存分イチャイチャしよう。

二人で植物採集に出かけてもいいし。
ルイとベルナールを連れて、一緒に行ってもいい。


収穫祭や、年末年始のお祭りとか。
こっちでのイベントも、今から楽しみだ。

来年は、メイベルがお嫁に行ってしまうけど。
寂しくなったら会いに行けばいい。

何といっても、救世主のお願いだ。
あの温泉も、また入りたいし。ちょくちょく遊びに行っちゃおうかな。


お城の料理長から料理を教わって、ジャンに手料理を食べさせたい。
ジャンも、料理を覚えて僕に食べさせたいと言ってた。

やったことのない、新しいことに挑戦するのもいい。
時には失敗しても、それは後の経験になる。


昨日よりも今日、今日よりも明日。
これから先の日々を、もっと幸せに暮らそう。

この先の未来に不安はないこともないけど。
それもまた、楽しみだ。


ジャンと一緒なら。
困難を越えるのも容易いと信じているから。




おわり
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