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J・J
運命との出会い
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夜の森深く。
突然、森に”異物”が発生した気配がした。
獣人でも、獣でもない。ヒトの気配。
他国からの侵入者か? 敵意は感じられない。
だが、獣達がやけに騒いでいる。
この森の均衡を保つのも、森林管理人である俺の役目のひとつである。
均衡を崩さない程度の狩猟であれば見逃してやるのだが。
様子を見に行くと、野犬の群れが子供を囲んでいた。
獣にヒトの味を覚えさせるにはいかない。
獣よりも動きが鈍く、狩りやすいヒトを襲うようになる。
『そいつから離れろ』
さもなければ喰う、と。威嚇の声を上げるなり、野犬達は去っていった。
この森で、俺に逆らうほど無謀な獣はいないが。
極限まで餓え、食欲に支配された獣は、強い痛みを与えるまで、本能に操られてしまうものだ。
†‡†‡†
……不思議なにおいがする。
この子供からだろうか?
花のような、良いにおいだ。
見れば、成人前だろうか、小さなヒトの子供だ。
気を失っている。
一人でここへ迷い込んだか? 他にヒトの気配はしない。
子供は、気が付くと。
俺を見て、悲鳴を上げた。
そういえば、灰色熊の姿のままだった。
刺激しない限り、熊はヒトを襲わないのだが。
ヒトは熊を恐れるものらしい。野生の熊は臆病だというのに。
「案ずるな、俺は獣人だ。襲いはしない」
声を掛けたが。
子供は怯えた様子でこちらを向いたまま後退りし、派手に転んだ。
後ろを見ないからだ。危なっかしい。
眼鏡だろうか?
顔を覆っていたものがなくなり、子供の顔が露になった。
子供は整った顔立ちで。
黒い眼は大きく、ヤマネのように愛らしい。
目が合った。
俺を、じっと見ている。
瞳から、怯えは消えている。
何やら全身くまなく観察されているような感じだが。
悪い気はしない。
†‡†‡†
この子供から見られると、何故かそわそわしてしまう。
何だ、これは?
こんな浮ついた気持ちになるのは、生まれて初めてのことだ。
話には聞いていたが。
これが、運命の出会いというものだろうか?
獣人は、己のツガイと出会うと、何ともたまらない気持ちになるという。
ツガイからしか感じられない、芳しい香りがするとも。
まさか、こんな子供が俺のツガイだとでもいうのか?
傍に行き、においを嗅いでみる。
やはり、花のような良いにおいしかしない。
試しに口づけ、頬を舐めてみると。
甘く感じた。
相手はまだ子供だというのに。
もっと味わいたいと思った。
子供はそれに抗うこともなく、目を閉じている。
鼓動は早い。
口づけ、目を閉じれば求婚を受け入れる、という決まりがあったな。
……つまり、求婚を受け入れるということか。
しかし、この子はまだ小さい。
「このままでは駄目だ」
灰色熊の姿のままでは、頭ごと喰らってしまいそうなので。
久しぶりにヒトの姿になってみた。
†‡†‡†
しかし、ヒトの姿になっても、まだ体格差は大きく。やはりとても小さく感じる。足など、俺の腕よりも細い。
抱いたら壊してしまいそうだ。
育つまで待つべきか、と考えていたら。
子供は目を開き。
俺を見て、不思議そうな顔をした。
何故まだ噛まないのか、とでも思っているのだろうか?
ああ、やはりこの子供の目を見ると、心が乱される。
口づけたい。抱きたい。全てを奪いたいと。
全身全霊で、この子供を求めてしまう。
大きくなるまで待っていては、誰かに奪われてしまうだろう。
今すぐ噛んで、俺のものにしてやるしかない。
こんな危険な場所に置き去りにするような親など頼りにならない。
迎えに来ようが、返すものか。
俺の手元で、大きくなるまで、大事に育てよう。
大きくなったら、毎日抱いて可愛がろう。
欲しい物があれば何でも与えてやる。
だから。
俺のツガイになれ。
細い首筋に嚙みついた。
小さな身体が、痛みだろう衝撃に震えた。
もう少しだ。
痛いだろうが、我慢してくれ。
溢れてきた血は甘い。
つい、血に酔いそうになった。
†‡†‡†
名残惜しいが、牙を引き抜く。
ツガイは、気を失っていた。
その体内、細胞は。変化を起こしているようだ。
俺のツガイになるために。
ツガイの儀式は、人生を共にする契約である。
俺の身体は、ツガイを護るために強化され、ツガイと長い時間離れれば衰弱して死ぬ。
ツガイの身体は、受け入れやすくなるように変化すると聞くが。
見ると、首筋から血が流れている。
その血すら甘いためか、つい噛みすぎてしまったようだ。
「Je、Souhait……Guérison」
首の傷に、癒しの魔法をかける。
傷は癒え、ツガイのしるしだけ残った。
転んだ時にか、足首を痛めているようなので、足首にも癒しの魔法をかける。
医療魔法の習得は森林管理人には必須だが。
癒しの魔法を得ていて良かったと思う。誰の手も借りず、俺の手で癒したい。
このように、強烈な独占欲を持つのは初めてだ。
思えば今まで、何かに執着したことなどなかった。
親と決別しても。
戦争で傷つき、死に瀕し。
大勢のヒトを殺めようとも。俺の心は動かなかった。
ただ、己に課されたことをやっていただけだ。
†‡†‡†
”四季の森”はこのロワイヨム・ドゥ・グラン・テールを護る盾のようなものである。
先代の森林管理人は森を護るため、その命を尽くした。
戦功により、我が国の名誉職である森林管理人に任命された時も、特に何も思わなかった。
俺の母親が現在のグラン・テール国王であるロイの乳母であったため、乳兄弟として親しくしていたが。
それを羨ましがられたりひがまれても、特に何も思わなかった。
ロイは誰とも気安く話す。
皆が身分の差を気にして遠慮しているだけだ。
こうしてツガイを腕に抱いていると。
様々な感情がわいてくる。
もしもツガイを奪われそうになったら、相手が国王であろうが牙を剥くだろう。
それほどに激しい感情を抱かせるとは。
”運命のツガイ”とはなかなか出会えないというのも道理だろう。
ツガイの気質によって、国ひとつ傾かせる可能性があるのだからな。
突然、森に”異物”が発生した気配がした。
獣人でも、獣でもない。ヒトの気配。
他国からの侵入者か? 敵意は感じられない。
だが、獣達がやけに騒いでいる。
この森の均衡を保つのも、森林管理人である俺の役目のひとつである。
均衡を崩さない程度の狩猟であれば見逃してやるのだが。
様子を見に行くと、野犬の群れが子供を囲んでいた。
獣にヒトの味を覚えさせるにはいかない。
獣よりも動きが鈍く、狩りやすいヒトを襲うようになる。
『そいつから離れろ』
さもなければ喰う、と。威嚇の声を上げるなり、野犬達は去っていった。
この森で、俺に逆らうほど無謀な獣はいないが。
極限まで餓え、食欲に支配された獣は、強い痛みを与えるまで、本能に操られてしまうものだ。
†‡†‡†
……不思議なにおいがする。
この子供からだろうか?
花のような、良いにおいだ。
見れば、成人前だろうか、小さなヒトの子供だ。
気を失っている。
一人でここへ迷い込んだか? 他にヒトの気配はしない。
子供は、気が付くと。
俺を見て、悲鳴を上げた。
そういえば、灰色熊の姿のままだった。
刺激しない限り、熊はヒトを襲わないのだが。
ヒトは熊を恐れるものらしい。野生の熊は臆病だというのに。
「案ずるな、俺は獣人だ。襲いはしない」
声を掛けたが。
子供は怯えた様子でこちらを向いたまま後退りし、派手に転んだ。
後ろを見ないからだ。危なっかしい。
眼鏡だろうか?
顔を覆っていたものがなくなり、子供の顔が露になった。
子供は整った顔立ちで。
黒い眼は大きく、ヤマネのように愛らしい。
目が合った。
俺を、じっと見ている。
瞳から、怯えは消えている。
何やら全身くまなく観察されているような感じだが。
悪い気はしない。
†‡†‡†
この子供から見られると、何故かそわそわしてしまう。
何だ、これは?
こんな浮ついた気持ちになるのは、生まれて初めてのことだ。
話には聞いていたが。
これが、運命の出会いというものだろうか?
獣人は、己のツガイと出会うと、何ともたまらない気持ちになるという。
ツガイからしか感じられない、芳しい香りがするとも。
まさか、こんな子供が俺のツガイだとでもいうのか?
傍に行き、においを嗅いでみる。
やはり、花のような良いにおいしかしない。
試しに口づけ、頬を舐めてみると。
甘く感じた。
相手はまだ子供だというのに。
もっと味わいたいと思った。
子供はそれに抗うこともなく、目を閉じている。
鼓動は早い。
口づけ、目を閉じれば求婚を受け入れる、という決まりがあったな。
……つまり、求婚を受け入れるということか。
しかし、この子はまだ小さい。
「このままでは駄目だ」
灰色熊の姿のままでは、頭ごと喰らってしまいそうなので。
久しぶりにヒトの姿になってみた。
†‡†‡†
しかし、ヒトの姿になっても、まだ体格差は大きく。やはりとても小さく感じる。足など、俺の腕よりも細い。
抱いたら壊してしまいそうだ。
育つまで待つべきか、と考えていたら。
子供は目を開き。
俺を見て、不思議そうな顔をした。
何故まだ噛まないのか、とでも思っているのだろうか?
ああ、やはりこの子供の目を見ると、心が乱される。
口づけたい。抱きたい。全てを奪いたいと。
全身全霊で、この子供を求めてしまう。
大きくなるまで待っていては、誰かに奪われてしまうだろう。
今すぐ噛んで、俺のものにしてやるしかない。
こんな危険な場所に置き去りにするような親など頼りにならない。
迎えに来ようが、返すものか。
俺の手元で、大きくなるまで、大事に育てよう。
大きくなったら、毎日抱いて可愛がろう。
欲しい物があれば何でも与えてやる。
だから。
俺のツガイになれ。
細い首筋に嚙みついた。
小さな身体が、痛みだろう衝撃に震えた。
もう少しだ。
痛いだろうが、我慢してくれ。
溢れてきた血は甘い。
つい、血に酔いそうになった。
†‡†‡†
名残惜しいが、牙を引き抜く。
ツガイは、気を失っていた。
その体内、細胞は。変化を起こしているようだ。
俺のツガイになるために。
ツガイの儀式は、人生を共にする契約である。
俺の身体は、ツガイを護るために強化され、ツガイと長い時間離れれば衰弱して死ぬ。
ツガイの身体は、受け入れやすくなるように変化すると聞くが。
見ると、首筋から血が流れている。
その血すら甘いためか、つい噛みすぎてしまったようだ。
「Je、Souhait……Guérison」
首の傷に、癒しの魔法をかける。
傷は癒え、ツガイのしるしだけ残った。
転んだ時にか、足首を痛めているようなので、足首にも癒しの魔法をかける。
医療魔法の習得は森林管理人には必須だが。
癒しの魔法を得ていて良かったと思う。誰の手も借りず、俺の手で癒したい。
このように、強烈な独占欲を持つのは初めてだ。
思えば今まで、何かに執着したことなどなかった。
親と決別しても。
戦争で傷つき、死に瀕し。
大勢のヒトを殺めようとも。俺の心は動かなかった。
ただ、己に課されたことをやっていただけだ。
†‡†‡†
”四季の森”はこのロワイヨム・ドゥ・グラン・テールを護る盾のようなものである。
先代の森林管理人は森を護るため、その命を尽くした。
戦功により、我が国の名誉職である森林管理人に任命された時も、特に何も思わなかった。
俺の母親が現在のグラン・テール国王であるロイの乳母であったため、乳兄弟として親しくしていたが。
それを羨ましがられたりひがまれても、特に何も思わなかった。
ロイは誰とも気安く話す。
皆が身分の差を気にして遠慮しているだけだ。
こうしてツガイを腕に抱いていると。
様々な感情がわいてくる。
もしもツガイを奪われそうになったら、相手が国王であろうが牙を剥くだろう。
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”運命のツガイ”とはなかなか出会えないというのも道理だろう。
ツガイの気質によって、国ひとつ傾かせる可能性があるのだからな。
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