オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙

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J・J

ツガイに感心する

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ロイ達と一緒に朝食を摂り。
異世界では食生活がかなり恵まれていることを知った。

珍しくアンリも興味津々の様子で、後で話が聞きたいと頼んでいた。


朝食後。
メイベルはクロエに城を案内する約束をしていたらしい。

パーシーと合流し、楽しそうに語り合う二人の後をついて歩く。
塔に上がる途中で力尽きたクロエを背負い、階段を上った。

「ありがとう、ジャンさん。メイベルはあんなに元気なのに、情けない……」
「華奢に見えてもメイベルは狼犬の獣人だ。体力が違うのだから気にすることはない」

重くないかと聞かれたが、軽すぎるくらいだ。
おそらくパーシーが持っている昼飯のかごの方が重いだろう。


「これが辺りの景色を一望できる塔だよ!」

「わあ、」
クロエは見晴らし台の手すりに掴まって、きょろきょろと周囲を見回している。

今日は雲一つない晴天で、森の向こうの海が良く見える。
波も穏やかなようだ。


†‡†‡†


「そちらは”夜の森フォレドゥニュイ”で、その先が”悲しみの海メルドゥトリステス”。その先にはロティ姉さまの暮らすラヴィーヌ国があるんだ」
説明しながら、メイベルは表情を曇らせた。

長女のシャルロットが海を挟んだ隣国のロワイヨム・ドゥ・ラヴィーヌに嫁いで4年になる。
どうやらあまり近況を報せてこないようだ。

ラヴィーヌ王、ジェフリー・ギヨーム・ワイエスはヒトだ。政略結婚のようなものだった。
姉が幸せに暮らしているか心配なのだろう。


気を取り直し、メイベルは周囲の説明をした。
合間に質問を入れながら、クロエは楽しそうに話を聞いている。

話を聞いて、クロエはここの森に興味を持ったようだ。
望むなら、案内しよう。

クロエは俺の方を見た。
が、すぐに頬を染め、そっぽを向いてしまった。

照れているようだ。可愛らしい。


「そういえば、騎士たちの宿舎ってどこ?」

「ああ、東側……城の端にあるあそこだよ。旗立ってるとこ」
パーシーは指をさして、宿舎の場所を示した。

クロエに近寄り過ぎではないか。

兵士ゲリエ門番ポルティエも兼ねてるから城門の近くに宿舎があるけど。騎士団オルドルの宿舎は、万が一隣国から襲撃があった時に備えて隣国側に配置されてるわけ」
「そうなんだ……」

戦争をしていた時の名残だ。
現在、ゲリエやシュヴァリエは戦いの訓練をするより、復興の手伝いなどをして過ごしている。


「ジャンさんの家はどこ?」

つれないことに、クロエには二人の家だという自覚は無いようだ。
まだ少ししか過ごしていないので当然か。

は、あの大きな木がある辺りだ」

場所を示したが。
セードルの大木に隠れているため、ここからは見えないと言うと、残念そうだった。


†‡†‡†


夕方になり、まだかと待ち侘びていたアンリに捕まり。

クロエは異世界のことを質問責めにされた。
大したことは話せない、などと言っていたが、とんでもない。

異世界から知恵がもたらされたのは、これが初めてのことではないようだが。
クロエは範囲のことを話した。作り方まで説明していた。

見晴らし台から国の様子を見、牧場などの内容を聞いていたのは。
たんなる興味だけで見ていただけではなかった。

この国の発展を、正確に把握するためだったのだ。


専門でない話でこれだけの知識があるのなら、専門である薬の知識はどれだけあるのだろう。
クロエはダイガクで薬について学んでいたという話だが。

ダイガクとは、何か専門に研究する団体のようなものだろうか?


「驚いた。薬学を少々学んだだけなどとご謙遜を。専門でない話をここまでできるのは素晴らしい」
アンリも大喜びだ。

「まだ子供だというのにこの知識量とは頼もしい。是非我が国の博士ドクトゥール……いや賢者サージュになっていただきたい。今からでも」
鼻息荒く勧誘され。

クロエは困ったように俺を見上げてきた。

「クロエがなりたいのならいいんじゃないか? 救世主としての任が終わったら、の話だが」
俺に手伝えることがあれば、何でも協力するつもりだ。


「……あ。そういえば、救世主って具体的に何をするんですか? 何か覚えたりしなくてもいいんですか?」
救世主の任、と聞いて思い出したようだ。

剣や魔法などを出来れば覚えたいと言うが。
俺が護るので、剣は必要ない。


†‡†‡†


「予言関係の話は魔法使いのデュランに聞いたほうがいいですな」

アンリは使用人を呼び、デュランを呼ぶよう言いつけ。
デュランはすぐに来た。

「何? 予言がどうしたって?」

「救世主本人が目の前にいるのだ。もう少し詳しい占いも出来るのではないか?」
「ああ、そうかもね。じゃあやってみる」

占いというのは、刻々と変わるものだ。
どういった結果になるのかと興味深く見ていたら。

気が散るから邪魔、と言われ、部屋を追い出された。


「やれやれ。机と椅子を運んでくれ。……茶でもどうだ?」
アンリは廊下ここで待つつもりなようだ。

「いただこう」
「いただきまーす」

廊下に椅子と机を並べ、茶器が用意された。

湯を入れ、茶葉を蒸らし。
紅い液体が注がれる。

「茶葉を発酵させただけで、こうも味が違うのは不思議ですねえ」
パーシーは砂糖を入れながら言った。

そんなに甘くしては、味の違いも何も無いと思うが。

「味だけではないぞ。色も紅くなり、香りも良くなるだろう」
アンリは紅茶を広めたいようだ。

一般的に、紅茶は高級嗜好品とされている。
茶など、その辺の草をむしって煎じるだけで充分だと思っていたが。


「クロエが好むなら、うちでも購入するか。アンリ、業者を紹介してくれ」
「救世主殿のご要望なら、国家予算で賄うことになってるが?」

「そうか。しばらく俺も世話になるが、俺の分の滞在費は報酬から抜いてくれ。国家予算も無限ではないだろう?」
「はは、遠慮なくそうさせてもらおう」


「このお茶は、王佐の奢りですよね!?」
パーシーは情けない声を上げた。
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