57 / 74
J・J
伝染病発生
しおりを挟む
午前中のうちに、国中の牧場を回った。
具合の悪そうな家畜が居ないかを診るためだ。
森林管理人である俺が、動物言語を話せることは知られている。
王命で、これは無料であることを告げると。
牧場主から感謝された。
クロエも”解析”の魔法を覚えたので、牧場主を診た。
牧場主に、畜舎の衛生環境を改善するように要請する。
これも王命である事と。
一匹罹れば、ここの家畜の全てを処分せねばならなくなる、と脅しておいたので、大丈夫だろう。
†‡†‡†
診療所を開けるのは、午後からである。
全体的に白っぽい建物で、看板には俺達の名に、クリニークと書かれている。
少々不謹慎だだろうが、名が並んでいることを嬉しく思った。
届いた備品を点検し、クロエから上に羽織る服を渡された。
膝まである、白い上着がメドゥサンの制服らしい。
なるほど、これなら清潔な印象を受ける。
時間になり、戸を開けると。
診療所前の庭にはすでに何人かの患者が待っていた。
実際はほとんどが野次馬だったが。
この国初の”病院”が出来ると聞いて、様子を見に来たようだ。
診察するのが俺ではなく、俺が助手で。
どう見ても子供のような外見を持つクロエが主に診察するメドゥサンであると聞き。
集まっていた患者が、大丈夫なのかと動揺していたが。
「彼は若く見えるが、我が国の王が、国民のために他国から呼んだ 名医だ」
と紹介した。
クロエが異世界から召喚した救世主であることは、伝染病の件が落ち着くまで黙っていることにしたのだ。
「そして、俺のツガイだ。皆、手を出すなよ」
手が早い、と笑われた。
年齢を言っても、誰も信じなかった。
†‡†‡†
幸い、今日の患者に感染者は居なかった。
クロエは柔らかな物腰で患者と応対をし、解析の結果によって的確な処置をした。
元患者らは満足そうに、他の者にもボン・メドゥサンだったと伝えておく、と言って帰っていった。
クロエは患者の名や症状をカルテとやらに書き記し、名前順に棚に置いていた。
患者がもう一度来た時に参考にする為だという。
同じ内容を報告書に写し、城へ送った。
隔離施設や病室の建設もかなり進んでいるようだ。
国の重要な施設と聞いて、職人達も張り切っているのだろう。
しばらくの間、俺達は病室の一角に泊まることにした。
自分の住居よりも、施設を優先して欲しい、とクロエが望んだのだ。
夜になり。
紙に包まれた薬を手に、デュランが診療所に顔を出した。
ついでに夕食も頼まれたので持って来たようだ。
「頼まれてた粉薬と丸薬、出来たよ」
クロエに包みを渡した。痛み止めや咳止め、熱冷ましの薬だそうだ。
「ありがとう。とりあえず、カゼの対策にはこれで大丈夫だと思う」
「追加が必要なら言って。すぐ作るよ」
面倒くさがりなデュランが、珍しくやる気を出している。
元々異世界の住人であるクロエが、健気なほど頑張ってくれているからだろう。
ツガイの俺でなくとも、一生懸命なクロエを見ていると、何か手伝いたくなるのだ。
†‡†‡†
クロエの腕が良いこともあり、診療所に来る患者の数は日に日に増えていった。
わざわざ馬車に乗って、遠くからやってくる患者もいるくらいだ。
動物は、主に俺が治すのだが。
軽傷だからと、たまに俺が治療しようとすると、あからさまに残念そうな顔をされた。俺では不満か。
眼鏡を外して拭いている姿でも見られたのか。
用もないのに毎日来る爺共や子供らにはDr.ミニョンと呼ばれていた。
クロエが小さくて可愛いのは当然のことだが。
面白くはない。
俺だけが知っていればいいというのに。
目を悪くしていた猫の獣人が、礼を言いに来た。
伴侶が犬の獣人で、食べ物が違ったため、必要な栄養分が摂れなかったのが原因だった。
食べ物でそんな病気になるとは初めて知ったが。
恐らく今までもそういう事はあったのだろう。
クロエが指摘しなければ、単に視力が衰えただけと思われていたのではないか。
それでは一時的に魔法で治したところで、再び視力が落ちるだけだ。
今気付いたが。
そういえば、衰えた視力を戻す魔法もあった。
しかし、クロエは魔法で自分の視力を上げようとはしない。
不便ではないのだろうか?
俺はクロエの素顔を人に見られないので、良いと思うが。
「Dr.クロエが処方されるお薬はよく効くと、うちの村でも評判ですよ」
「いえいえ、だいぶ良くなりましたね。僕も嬉しいです」
クロエの柔らかな笑顔に、患者も笑顔になる。
「貴方のようなボン・メドゥサンがこの国に来てくれたこと、他国から呼び寄せて下さった国王に心から感謝します」
何度も礼を言い、帰って行った。
このように、わざわざ礼を言いに来る元患者も後を絶たない。
もう一度、いや何度でも会いたくなるのだ。
ツガイが魅力的すぎて、喜んでいいのか悲しむべきなのか悩ましい。
†‡†‡†
午前中の診察が終わり、クロエと食後の茶を楽しんでいた時。
暁の森で何かが騒いでおり。
すぐにこちらに向かってくる気配がした。
「ドクトゥル、急患だ!」
慌ただしい足音と共に、二本の棒に布を通したもので子供が運ばれてきた。
二人の男は茸を採取しに森に入り、倒れている子供に気づいたらしい。
「暁の森付近で倒れていたんだが」
「声を掛けても返事をしないし、物凄い高熱なんだ」
ヒトの子だが。
小さい者は放っておけないと連れてきたという。
クロエが子供を診ると、顔色を変えた。
「これだ!」
「例の、伝染病か!?」
この子供が、この国を滅ぼす病を運んできたというのか?
だが。
クロエがその運命を覆すのだ。
具合の悪そうな家畜が居ないかを診るためだ。
森林管理人である俺が、動物言語を話せることは知られている。
王命で、これは無料であることを告げると。
牧場主から感謝された。
クロエも”解析”の魔法を覚えたので、牧場主を診た。
牧場主に、畜舎の衛生環境を改善するように要請する。
これも王命である事と。
一匹罹れば、ここの家畜の全てを処分せねばならなくなる、と脅しておいたので、大丈夫だろう。
†‡†‡†
診療所を開けるのは、午後からである。
全体的に白っぽい建物で、看板には俺達の名に、クリニークと書かれている。
少々不謹慎だだろうが、名が並んでいることを嬉しく思った。
届いた備品を点検し、クロエから上に羽織る服を渡された。
膝まである、白い上着がメドゥサンの制服らしい。
なるほど、これなら清潔な印象を受ける。
時間になり、戸を開けると。
診療所前の庭にはすでに何人かの患者が待っていた。
実際はほとんどが野次馬だったが。
この国初の”病院”が出来ると聞いて、様子を見に来たようだ。
診察するのが俺ではなく、俺が助手で。
どう見ても子供のような外見を持つクロエが主に診察するメドゥサンであると聞き。
集まっていた患者が、大丈夫なのかと動揺していたが。
「彼は若く見えるが、我が国の王が、国民のために他国から呼んだ 名医だ」
と紹介した。
クロエが異世界から召喚した救世主であることは、伝染病の件が落ち着くまで黙っていることにしたのだ。
「そして、俺のツガイだ。皆、手を出すなよ」
手が早い、と笑われた。
年齢を言っても、誰も信じなかった。
†‡†‡†
幸い、今日の患者に感染者は居なかった。
クロエは柔らかな物腰で患者と応対をし、解析の結果によって的確な処置をした。
元患者らは満足そうに、他の者にもボン・メドゥサンだったと伝えておく、と言って帰っていった。
クロエは患者の名や症状をカルテとやらに書き記し、名前順に棚に置いていた。
患者がもう一度来た時に参考にする為だという。
同じ内容を報告書に写し、城へ送った。
隔離施設や病室の建設もかなり進んでいるようだ。
国の重要な施設と聞いて、職人達も張り切っているのだろう。
しばらくの間、俺達は病室の一角に泊まることにした。
自分の住居よりも、施設を優先して欲しい、とクロエが望んだのだ。
夜になり。
紙に包まれた薬を手に、デュランが診療所に顔を出した。
ついでに夕食も頼まれたので持って来たようだ。
「頼まれてた粉薬と丸薬、出来たよ」
クロエに包みを渡した。痛み止めや咳止め、熱冷ましの薬だそうだ。
「ありがとう。とりあえず、カゼの対策にはこれで大丈夫だと思う」
「追加が必要なら言って。すぐ作るよ」
面倒くさがりなデュランが、珍しくやる気を出している。
元々異世界の住人であるクロエが、健気なほど頑張ってくれているからだろう。
ツガイの俺でなくとも、一生懸命なクロエを見ていると、何か手伝いたくなるのだ。
†‡†‡†
クロエの腕が良いこともあり、診療所に来る患者の数は日に日に増えていった。
わざわざ馬車に乗って、遠くからやってくる患者もいるくらいだ。
動物は、主に俺が治すのだが。
軽傷だからと、たまに俺が治療しようとすると、あからさまに残念そうな顔をされた。俺では不満か。
眼鏡を外して拭いている姿でも見られたのか。
用もないのに毎日来る爺共や子供らにはDr.ミニョンと呼ばれていた。
クロエが小さくて可愛いのは当然のことだが。
面白くはない。
俺だけが知っていればいいというのに。
目を悪くしていた猫の獣人が、礼を言いに来た。
伴侶が犬の獣人で、食べ物が違ったため、必要な栄養分が摂れなかったのが原因だった。
食べ物でそんな病気になるとは初めて知ったが。
恐らく今までもそういう事はあったのだろう。
クロエが指摘しなければ、単に視力が衰えただけと思われていたのではないか。
それでは一時的に魔法で治したところで、再び視力が落ちるだけだ。
今気付いたが。
そういえば、衰えた視力を戻す魔法もあった。
しかし、クロエは魔法で自分の視力を上げようとはしない。
不便ではないのだろうか?
俺はクロエの素顔を人に見られないので、良いと思うが。
「Dr.クロエが処方されるお薬はよく効くと、うちの村でも評判ですよ」
「いえいえ、だいぶ良くなりましたね。僕も嬉しいです」
クロエの柔らかな笑顔に、患者も笑顔になる。
「貴方のようなボン・メドゥサンがこの国に来てくれたこと、他国から呼び寄せて下さった国王に心から感謝します」
何度も礼を言い、帰って行った。
このように、わざわざ礼を言いに来る元患者も後を絶たない。
もう一度、いや何度でも会いたくなるのだ。
ツガイが魅力的すぎて、喜んでいいのか悲しむべきなのか悩ましい。
†‡†‡†
午前中の診察が終わり、クロエと食後の茶を楽しんでいた時。
暁の森で何かが騒いでおり。
すぐにこちらに向かってくる気配がした。
「ドクトゥル、急患だ!」
慌ただしい足音と共に、二本の棒に布を通したもので子供が運ばれてきた。
二人の男は茸を採取しに森に入り、倒れている子供に気づいたらしい。
「暁の森付近で倒れていたんだが」
「声を掛けても返事をしないし、物凄い高熱なんだ」
ヒトの子だが。
小さい者は放っておけないと連れてきたという。
クロエが子供を診ると、顔色を変えた。
「これだ!」
「例の、伝染病か!?」
この子供が、この国を滅ぼす病を運んできたというのか?
だが。
クロエがその運命を覆すのだ。
12
あなたにおすすめの小説
異世界のオークションで落札された俺は男娼となる
mamaマリナ
BL
親の借金により俺は、ヤクザから異世界へ売られた。異世界ブルーム王国のオークションにかけられ、男娼婦館の獣人クレイに買われた。
異世界ブルーム王国では、人間は、人気で貴重らしい。そして、特に日本人は人気があり、俺は、日本円にして500億で買われたみたいだった。
俺の異世界での男娼としてのお話。
※Rは18です
転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される
こたま
BL
北の大地で牧場主の次男として産まれた陽翔。生き物がいる日常が当たり前の環境で育ち動物好きだ。兄が牧場を継ぐため自分は獣医師になろう。学業が実り獣医になったばかりのある日、厩舎に突然光が差し嵐が訪れた。気付くとそこは獣人王国。普段美形人型で獣型に変身出来るライオン獣人王アルファ×異世界転移してオメガになった美人日本人獣医師のハッピーエンドオメガバースです。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行
海野ことり
BL
異世界に転移しちゃってこっちの世界は甘いものなんて全然ないしもう絶望的だ……と嘆いていた甘党男子大学生の柚木一哉(ゆのきいちや)は、自分の身体から甘い匂いがすることに気付いた。
(あれ? これは俺が大好きなみよしの豆大福の匂いでは!?)
なんと一哉は気分次第で食べたことのあるスイーツの味がする身体になっていた。
甘いものなんてろくにない世界で狙われる一哉と、甘いものが嫌いなのに一哉の護衛をする黒豹獣人のロク。
二人は一哉が狙われる理由を無くす為に甘味を探す旅に出るが……。
《人物紹介》
柚木一哉(愛称チヤ、大学生19才)甘党だけど肉も好き。一人暮らしをしていたので簡単な料理は出来る。自分で作れるお菓子はクレープだけ。
女性に「ツルツルなのはちょっと引くわね。男はやっぱりモサモサしてないと」と言われてこちらの女性が苦手になった。
ベルモント・ロクサーン侯爵(通称ロク)黒豹の獣人。甘いものが嫌い。なので一哉の護衛に抜擢される。真っ黒い毛並みに見事なプルシアン・ブルーの瞳。
顔は黒豹そのものだが身体は二足歩行で、全身が天鵞絨のような毛に覆われている。爪と牙が鋭い。
※)こちらはムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
※)Rが含まれる話はタイトルに記載されています。
魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます
トモモト ヨシユキ
BL
気がつくと、なぜか、魔王になっていた俺。
魔王の手下たちと、俺の本体に入っている魔王を取り戻すべく旅立つが・・
なんで、俺の体に入った魔王様が、俺の幼馴染みの勇者とできちゃってるの⁉️
エブリスタにも、掲載しています。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる