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J・J
ペイ・プリマットへ
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「ジャン、ルロイ王とデュランに、今の件を報告してくれないかな」
今は手が離せないようだ。
クロエはまだ、やらなければならない事がある。
少しでも負担を軽くしてやらねば。
「わかった」
門兵に頼み、パーシーとデュランを呼び。
ドニから聞いた話を全て伝えた。
パーシーは、ロイに伝える、と言って走って行った。
「ボール・ヴィラージュに行くんだろ? 子供の看病は僕の魔導人形にやらせるよ」
プーペ・マギカは人殺しの道具だが。
命令を組み替えれば、看病もさせられるようだ。
「ありがたい。クロエに代わり礼を言う」
「えー、クロエから直接聞きたい」
動物達にも、今は危険なので暁の森、特にペイ・プリマットの近くには絶対に近寄らないよう伝えておく。
「J・J、待たせた。これ、持ってけって」
ロイに話を伝えたパーシーが、隣国への親書を手に戻ってきた。
村一つ奇病で滅び、また一つの村が滅びようとしているのに。
何故ペイ・プリマットの王、ジェローム・クリストフ・ベイロンはロイに連絡を寄越さないのか。
情報を共有するという盟約を結んでいるというのに。
何か不都合があったのか。
ロイの親書には、その事を俺達に話すように書かれている。
場合によっては血が流れるが。
クロエの手前、穏便に済ませたいものだ。
†‡†‡†
「おまたせ」
クロエはウイルスを通さない”マスク”というのを作っていたようだ。
しかし、このマスクだけでは予防が万全ではないので、気を付けるよう注意された。
医療用具を載せた荷台は、獣姿になった俺が引いていくのだが。
このマスクとやらは妙に息苦しい。
「これは今からつけなくてはいけないのか? 息苦しいんだが」
「どこから汚染されてるかわからないから、万が一のためにもつけといて」
鼻の頭を撫でられた。
クロエは俺の身を心配しているのか。
ならば息苦しくとも我慢しよう。
国境近くには見張りの兵が居た。
どうやら経験の浅い新兵のようだ。俺を見ても警戒していない。
身分を名乗り親書を渡し、すぐにボール・ヴィラージュへ向かった。
新兵の中に、ゾシメと名乗るボール・ヴィラージュ出身の者が居て、同行を希望された。
今は パレッスーの手でも借りたいくらいだ。共に来てもらう。
ボール・ヴィラージュに着き、とりあえず村長の家に向かうと、元気そうなヒトが出て来た。
何かと思えば、レシフ・ヴィラージュの生き残りが看病していたようだ。
全てのヒトに感染し、衰弱死するわけではないのか。
その者から、これまでの経緯が聞けた。
レシフ・ヴィラージュにはおかしな趣味を嗜む者が居て。まずはそいつから奇病に罹ったという。
そして身体の弱い者から倒れ、ばたばたと死んでいった。
レシフ・ヴィラージュは焼かれ、困っていた生き残りをボール・ヴィラージュの者が受け入れた。
しばらくして、ボール・ヴィラージュの者も奇病に罹ってしまったという。
†‡†‡†
クロエは、レシフ・ヴィラージュの生き残りの血液から薬を作った。
伝染病のウイルスに耐性が出来た者の血液から、薬が出来るようだ。
事前に人体実験をする必要はないという。
ゾシメだけでなく、レシフ・ヴィラージュの生き残り、ボール・ヴィラージュでも耐性のついた者に看病を手伝わせた。
無論、全身消毒し、マスクを着けさせてからだ。
全ての病人を集会所に集め、病人に薬を射ち、動ける者、まだ罹患してない者にはやはり生き残りの血液から作ったワクチンという予防薬を射ち、看病の仕方を教える。
奇病が流行った原因は、おかしな趣味……つまり獣姦を嗜んでいた男にあるとクロエは推理した。
クロエの世界でも、獣姦により新たな病が産まれることは少なくなかったという。
やれやれ。
そんな変態趣味のせいで、世界が滅びるような病が発生するとは。
法律で禁止させなければならないな。
「とりあえず、これで処置は終わりです。後は回復を待ってください」
栄養食の作り方と命の水を置いていき、消毒の徹底を注意した。
生き残り達は、クロエに感謝の目を向けた。
「ありがとうございます……!」
両親が助かると知り、ゾシメは泣きながら跪いた。
「あ、間違っても消毒しない手で目を擦らないでね。粘膜からウイルスが入るから。通常は涙で流れるといっても、ウイルスがついた手で目を擦ってはさすがに危険だから」
クロエは感情に流されず、状況をしっかり見る立派なドクトゥルだと思った。
ゾシメらは真っ青になっていたが。
「脅かしすぎたかな? 感染力の高いウイルスの場合、このくらいの認識でいたほうが安全なんだけど」
小声で訊かれた。
「少しくらい大袈裟に言っておいた方がいい」
舐めてかかり、油断して感染するくらいなら。慎重すぎる方がいいだろう。
†‡†‡†
レシフ・ヴィラージュの生き残りは、己を悔いているようだった。
自分達がボール・ヴィラージュに来たことで、病を蔓延させたのだと気づいたのだ。
早めにクロエに報せに行けば、助かったのかもしれないと。
だが、彼らはクロエの存在を知らなかった。
ドニがたまたま見張りに見つからず森に入り、世話好きな獣人に拾われたから、助かったのだ。
時間は元に戻せない。死者も同じだ。
「この村の人が助かったら、それはあなたの血で作った抗体が役立ったということです。ご協力、感謝します」
「……ありがとうございます。そう言っていただけたら、気持ちが慰められます」
彼等は献身的な看病をするだろう。
それは贖罪だ。
優しいクロエは、可能ならばレシフ・ヴィラージュの皆も救いたかったのだろう。
クロエのせいではないのに、自分の力不足だと憂いている。
「ここは彼らに任せて、行こう」
「うん……」
クロエは頷き、俺の引く荷台に乗った。
今は手が離せないようだ。
クロエはまだ、やらなければならない事がある。
少しでも負担を軽くしてやらねば。
「わかった」
門兵に頼み、パーシーとデュランを呼び。
ドニから聞いた話を全て伝えた。
パーシーは、ロイに伝える、と言って走って行った。
「ボール・ヴィラージュに行くんだろ? 子供の看病は僕の魔導人形にやらせるよ」
プーペ・マギカは人殺しの道具だが。
命令を組み替えれば、看病もさせられるようだ。
「ありがたい。クロエに代わり礼を言う」
「えー、クロエから直接聞きたい」
動物達にも、今は危険なので暁の森、特にペイ・プリマットの近くには絶対に近寄らないよう伝えておく。
「J・J、待たせた。これ、持ってけって」
ロイに話を伝えたパーシーが、隣国への親書を手に戻ってきた。
村一つ奇病で滅び、また一つの村が滅びようとしているのに。
何故ペイ・プリマットの王、ジェローム・クリストフ・ベイロンはロイに連絡を寄越さないのか。
情報を共有するという盟約を結んでいるというのに。
何か不都合があったのか。
ロイの親書には、その事を俺達に話すように書かれている。
場合によっては血が流れるが。
クロエの手前、穏便に済ませたいものだ。
†‡†‡†
「おまたせ」
クロエはウイルスを通さない”マスク”というのを作っていたようだ。
しかし、このマスクだけでは予防が万全ではないので、気を付けるよう注意された。
医療用具を載せた荷台は、獣姿になった俺が引いていくのだが。
このマスクとやらは妙に息苦しい。
「これは今からつけなくてはいけないのか? 息苦しいんだが」
「どこから汚染されてるかわからないから、万が一のためにもつけといて」
鼻の頭を撫でられた。
クロエは俺の身を心配しているのか。
ならば息苦しくとも我慢しよう。
国境近くには見張りの兵が居た。
どうやら経験の浅い新兵のようだ。俺を見ても警戒していない。
身分を名乗り親書を渡し、すぐにボール・ヴィラージュへ向かった。
新兵の中に、ゾシメと名乗るボール・ヴィラージュ出身の者が居て、同行を希望された。
今は パレッスーの手でも借りたいくらいだ。共に来てもらう。
ボール・ヴィラージュに着き、とりあえず村長の家に向かうと、元気そうなヒトが出て来た。
何かと思えば、レシフ・ヴィラージュの生き残りが看病していたようだ。
全てのヒトに感染し、衰弱死するわけではないのか。
その者から、これまでの経緯が聞けた。
レシフ・ヴィラージュにはおかしな趣味を嗜む者が居て。まずはそいつから奇病に罹ったという。
そして身体の弱い者から倒れ、ばたばたと死んでいった。
レシフ・ヴィラージュは焼かれ、困っていた生き残りをボール・ヴィラージュの者が受け入れた。
しばらくして、ボール・ヴィラージュの者も奇病に罹ってしまったという。
†‡†‡†
クロエは、レシフ・ヴィラージュの生き残りの血液から薬を作った。
伝染病のウイルスに耐性が出来た者の血液から、薬が出来るようだ。
事前に人体実験をする必要はないという。
ゾシメだけでなく、レシフ・ヴィラージュの生き残り、ボール・ヴィラージュでも耐性のついた者に看病を手伝わせた。
無論、全身消毒し、マスクを着けさせてからだ。
全ての病人を集会所に集め、病人に薬を射ち、動ける者、まだ罹患してない者にはやはり生き残りの血液から作ったワクチンという予防薬を射ち、看病の仕方を教える。
奇病が流行った原因は、おかしな趣味……つまり獣姦を嗜んでいた男にあるとクロエは推理した。
クロエの世界でも、獣姦により新たな病が産まれることは少なくなかったという。
やれやれ。
そんな変態趣味のせいで、世界が滅びるような病が発生するとは。
法律で禁止させなければならないな。
「とりあえず、これで処置は終わりです。後は回復を待ってください」
栄養食の作り方と命の水を置いていき、消毒の徹底を注意した。
生き残り達は、クロエに感謝の目を向けた。
「ありがとうございます……!」
両親が助かると知り、ゾシメは泣きながら跪いた。
「あ、間違っても消毒しない手で目を擦らないでね。粘膜からウイルスが入るから。通常は涙で流れるといっても、ウイルスがついた手で目を擦ってはさすがに危険だから」
クロエは感情に流されず、状況をしっかり見る立派なドクトゥルだと思った。
ゾシメらは真っ青になっていたが。
「脅かしすぎたかな? 感染力の高いウイルスの場合、このくらいの認識でいたほうが安全なんだけど」
小声で訊かれた。
「少しくらい大袈裟に言っておいた方がいい」
舐めてかかり、油断して感染するくらいなら。慎重すぎる方がいいだろう。
†‡†‡†
レシフ・ヴィラージュの生き残りは、己を悔いているようだった。
自分達がボール・ヴィラージュに来たことで、病を蔓延させたのだと気づいたのだ。
早めにクロエに報せに行けば、助かったのかもしれないと。
だが、彼らはクロエの存在を知らなかった。
ドニがたまたま見張りに見つからず森に入り、世話好きな獣人に拾われたから、助かったのだ。
時間は元に戻せない。死者も同じだ。
「この村の人が助かったら、それはあなたの血で作った抗体が役立ったということです。ご協力、感謝します」
「……ありがとうございます。そう言っていただけたら、気持ちが慰められます」
彼等は献身的な看病をするだろう。
それは贖罪だ。
優しいクロエは、可能ならばレシフ・ヴィラージュの皆も救いたかったのだろう。
クロエのせいではないのに、自分の力不足だと憂いている。
「ここは彼らに任せて、行こう」
「うん……」
クロエは頷き、俺の引く荷台に乗った。
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