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J・J
ジェローム王との会談
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村を出ると、国王からの使者が待っていた。
騎兵だ。
伝染病と聞いたからか、使者である隊長はこちらに近寄るのを躊躇していた。
「あの、僕達はもう消毒済みで、もう伝染の危険はありません。とりあえず、処置は終わりましたが。現在ウイルスに耐性の出来てる人が看病しているので、完治するまで村には入らないようお願いします」
クロエが言うと、安心したように表情を和らげた。
俺に向ける視線がかなり胡乱であり、緊張している様子なのは、戦争経験者で俺の事を知っている故だろう。
言葉を話す灰色熊の獣人は、現在、俺だけしか居ない。
「了解しました。あの、陛下が申されるには、ドクトゥルに事態の説明をしていただきたいそうですが……」
クロエが救世主と聞き及んでいるのか、恭しくキャヴァリエ式の礼をし、馬車を示した。
馬車は王族や国賓が使うような装飾のついたものだ。多少年季が入ってはいたが。
「はい。僕も予防のためにお話ししておきたいことがあるので助かります」
国に届けてくれるというので、空になった荷台を兵に預け。
ヒトの姿になり、白衣を羽織る。
クロエと共に、馬車に乗り込んだ。
†‡†‡†
馬車から見える景色からは、未だ戦争の痕が伺える。
復興が終わっていないのだ。
国内がこのような有様では、来年ここに嫁に来るメイベルも大変だろう。
ロイに一言入れておくか。
城に着くと。
ジェローム王は王座から立ち上がり、自ら歩み寄って、俺達に握手を求めてきた。歓待するという証である。
「よく来てくれた。そして、我が国民を救済してくれたことに感謝する。私はジェローム・クリストフ・ベイロン。ここ、ペイ・プリマットの国王だ」
「はじめまして。僕はクロエ・リヒト、これでも25歳。ロワイヨム・ドゥ・グラン・テールのドクトゥルです」
クロエは子供扱いされる前に、早々と年齢を明かした。
「なんと。いや、それでもまだ若いというのに、素晴らしい腕だ」
クロエの顔を覗き込んでいる。
長い。
いつまで手を握っているつもりだ。
殺意を込めた眼光に気づいたか、ジェローム王がこちらを見た。
「ジャン=ジャック・フォスター 。ロワイヨム・ドゥ・グラン・テールの森林管理人兼医療助手で、クロエのツガイだ」
ツガイである事を強調しながら差し出された手を握ると。
ジェローム王は苦笑した。
「ああ、君が”トゥールビヨン・J・J”か。噂は聞いているが、噂より男前だな」
「……勝手につけられていた仇名だ」
それも、血腥い由来の。
今までは、仇名など何とも思わなかったが。
クロエにはあまり聞かせたくない話だと思った。
†‡†‡†
魔法使いデュランの占いに、ロワイヨム・ドゥ・グラン・テールだけではなく、世界が滅びるかもしれない災害が訪れると出た。
自分はそれを防ぐために召喚された異世界人であることを、クロエは説明した。
ジェローム王は驚愕していた。
優れた魔法使いならば、異世界人を召喚する事が可能なのは知っているはずだ。
”災害の予言”に驚いたのだろう。
この国のお抱え魔法使いには、占いが出来る者は居なかったようだ。
居ればこの事態は予見できていただろう。
デュラン以上の魔法使いなどそうそう存在しないだろうが。
クロエはこの世界が滅びる原因になるのは伝染病であったこと、異世界での知識により、対策を知っていたこと。
この国で伝染病が発生した原因や、伝染病が発生した時の対策を丁寧に説明した。
「今回の原因はそれでしたが。再びそのようなことがあれば、新たなウイルスが発生する可能性もあるので。そちらでも注意していただければ……」
獣姦という言葉を躊躇したのか、暈した。
クロエは擦れていないのだ。そこも愛らしい。
「その、獣姦を法で禁止しろと?」
ジェローム王は、俺の方を気にしながら言った。
ツガイと説明したので、病が発生する可能性があるのか気になったのだろうが。
俺は獣ではないし、互いの体内に伝染するような危険な菌がないことはすでにクロエが調査済みである。
その事を説明しようとしたが。
クロエの眉間にくっ、と皺が寄った。
「ジャンは獣ではなく獣人なので。変な病原菌は持ってません……」
俺が獣扱いされたのを、怒ったのだろうか。
「ああ、失礼。どうも生態というか、完全に人間として扱っていいのかどうか、疎くてね」
素直に謝罪された。
完全なヒトは、獣と獣人の違いなど、詳しく知らないのだろう。見分けもつかないのだ。
戦争時でも、間違われて相当数の獣が殺された。
「構わない。俺はクロエが来るまではろくに服も身に着けず、獣と共に森に棲んでいたし、面倒なので、ほぼ獣姿だったからな」
気にしなくていい、とクロエの背に触れた。
†‡†‡†
晩餐に招待され。
興が乗ったのか、ジェローム王は何故長らく続いていた戦争が終結したのかを話し出した。
「人間対獣人の戦争は、昔からちょくちょく起こっていたのだけどね……」
満月の夜、王の寝室に忍び込み。
寝首をかきに来たのではなく、戦争終結の提案をした美しくしなやかな肢体を持つ銀狼の話をするジェローム王は、懐かしげな、優しい表情をしていた。
ロワイヨム・ドゥ・グラン・テールとペイ・プリマットとの戦争が終わったのは5年前だ。
その後もロイは他の国にも夜襲……もとい平和的話し合いをし、全ての国と平和条約を結んだのだ。
長かった戦争は、そうして終わった。
ルロイ・オーレリアン・エルネスト・シルヴェストルの名は、世界中の全ての国の歴史に残り、長らく語られることになるだろう。
伝染病から世界を救った救世主、クロエ・リヒトの名も。
俺の良く知る二人が、歴史に名を刻む栄誉を得たのを眩しく、誇らしく思う。
騎兵だ。
伝染病と聞いたからか、使者である隊長はこちらに近寄るのを躊躇していた。
「あの、僕達はもう消毒済みで、もう伝染の危険はありません。とりあえず、処置は終わりましたが。現在ウイルスに耐性の出来てる人が看病しているので、完治するまで村には入らないようお願いします」
クロエが言うと、安心したように表情を和らげた。
俺に向ける視線がかなり胡乱であり、緊張している様子なのは、戦争経験者で俺の事を知っている故だろう。
言葉を話す灰色熊の獣人は、現在、俺だけしか居ない。
「了解しました。あの、陛下が申されるには、ドクトゥルに事態の説明をしていただきたいそうですが……」
クロエが救世主と聞き及んでいるのか、恭しくキャヴァリエ式の礼をし、馬車を示した。
馬車は王族や国賓が使うような装飾のついたものだ。多少年季が入ってはいたが。
「はい。僕も予防のためにお話ししておきたいことがあるので助かります」
国に届けてくれるというので、空になった荷台を兵に預け。
ヒトの姿になり、白衣を羽織る。
クロエと共に、馬車に乗り込んだ。
†‡†‡†
馬車から見える景色からは、未だ戦争の痕が伺える。
復興が終わっていないのだ。
国内がこのような有様では、来年ここに嫁に来るメイベルも大変だろう。
ロイに一言入れておくか。
城に着くと。
ジェローム王は王座から立ち上がり、自ら歩み寄って、俺達に握手を求めてきた。歓待するという証である。
「よく来てくれた。そして、我が国民を救済してくれたことに感謝する。私はジェローム・クリストフ・ベイロン。ここ、ペイ・プリマットの国王だ」
「はじめまして。僕はクロエ・リヒト、これでも25歳。ロワイヨム・ドゥ・グラン・テールのドクトゥルです」
クロエは子供扱いされる前に、早々と年齢を明かした。
「なんと。いや、それでもまだ若いというのに、素晴らしい腕だ」
クロエの顔を覗き込んでいる。
長い。
いつまで手を握っているつもりだ。
殺意を込めた眼光に気づいたか、ジェローム王がこちらを見た。
「ジャン=ジャック・フォスター 。ロワイヨム・ドゥ・グラン・テールの森林管理人兼医療助手で、クロエのツガイだ」
ツガイである事を強調しながら差し出された手を握ると。
ジェローム王は苦笑した。
「ああ、君が”トゥールビヨン・J・J”か。噂は聞いているが、噂より男前だな」
「……勝手につけられていた仇名だ」
それも、血腥い由来の。
今までは、仇名など何とも思わなかったが。
クロエにはあまり聞かせたくない話だと思った。
†‡†‡†
魔法使いデュランの占いに、ロワイヨム・ドゥ・グラン・テールだけではなく、世界が滅びるかもしれない災害が訪れると出た。
自分はそれを防ぐために召喚された異世界人であることを、クロエは説明した。
ジェローム王は驚愕していた。
優れた魔法使いならば、異世界人を召喚する事が可能なのは知っているはずだ。
”災害の予言”に驚いたのだろう。
この国のお抱え魔法使いには、占いが出来る者は居なかったようだ。
居ればこの事態は予見できていただろう。
デュラン以上の魔法使いなどそうそう存在しないだろうが。
クロエはこの世界が滅びる原因になるのは伝染病であったこと、異世界での知識により、対策を知っていたこと。
この国で伝染病が発生した原因や、伝染病が発生した時の対策を丁寧に説明した。
「今回の原因はそれでしたが。再びそのようなことがあれば、新たなウイルスが発生する可能性もあるので。そちらでも注意していただければ……」
獣姦という言葉を躊躇したのか、暈した。
クロエは擦れていないのだ。そこも愛らしい。
「その、獣姦を法で禁止しろと?」
ジェローム王は、俺の方を気にしながら言った。
ツガイと説明したので、病が発生する可能性があるのか気になったのだろうが。
俺は獣ではないし、互いの体内に伝染するような危険な菌がないことはすでにクロエが調査済みである。
その事を説明しようとしたが。
クロエの眉間にくっ、と皺が寄った。
「ジャンは獣ではなく獣人なので。変な病原菌は持ってません……」
俺が獣扱いされたのを、怒ったのだろうか。
「ああ、失礼。どうも生態というか、完全に人間として扱っていいのかどうか、疎くてね」
素直に謝罪された。
完全なヒトは、獣と獣人の違いなど、詳しく知らないのだろう。見分けもつかないのだ。
戦争時でも、間違われて相当数の獣が殺された。
「構わない。俺はクロエが来るまではろくに服も身に着けず、獣と共に森に棲んでいたし、面倒なので、ほぼ獣姿だったからな」
気にしなくていい、とクロエの背に触れた。
†‡†‡†
晩餐に招待され。
興が乗ったのか、ジェローム王は何故長らく続いていた戦争が終結したのかを話し出した。
「人間対獣人の戦争は、昔からちょくちょく起こっていたのだけどね……」
満月の夜、王の寝室に忍び込み。
寝首をかきに来たのではなく、戦争終結の提案をした美しくしなやかな肢体を持つ銀狼の話をするジェローム王は、懐かしげな、優しい表情をしていた。
ロワイヨム・ドゥ・グラン・テールとペイ・プリマットとの戦争が終わったのは5年前だ。
その後もロイは他の国にも夜襲……もとい平和的話し合いをし、全ての国と平和条約を結んだのだ。
長かった戦争は、そうして終わった。
ルロイ・オーレリアン・エルネスト・シルヴェストルの名は、世界中の全ての国の歴史に残り、長らく語られることになるだろう。
伝染病から世界を救った救世主、クロエ・リヒトの名も。
俺の良く知る二人が、歴史に名を刻む栄誉を得たのを眩しく、誇らしく思う。
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