オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙

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J・J

約束の日

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「ロワイヨム・ドゥ・グラン・テール国王ロワ、ルロイ・オーレリアン・エルネスト・シルヴェストルの名において、ジャン=ジャック・フォスター、クロエ・リヒト両名の婚姻を認める。……おめでとう」


王から直々に祝福を受け、大きな拍手に包まれ。
我が国の結婚式は終わる。

通常ならば、そのまま城から退出するのだが。

リヒトは我が国の救世主であり、メイベルの友人でもある。
祝いの宴席が用意されていた。

宴会の本番はドニが退院してからだというが。
軽食と言うには豪華だった。


メイベルはリヒトに花束を渡していた。


†‡†‡†


「おめでとさん」
パーシーに肩を叩かれる。

「いい誓いの言葉だったな」
「お前もツガイを見つけろよ。人生変わるぞ?」


「そのようだな。まるで別人だ」

背後から聞こえた声に振り返ると。
眼帯に隻腕の男が立っていた。特徴的なオランジュの髪。


「リオ……、お前は相変わらず気配が無いな」

リオネル・ガーランド。
獅子の獣人だ。戦時中は俺と一緒に遊撃隊のような役目をしていたが。

銀の銃弾を浴び、生死の境を彷徨い。
何とか起き上がれるほど回復した後、忽然と姿を消したという。

以来行方不明で、死に顔を見られたくないので消えたと思われていたが。
生きていたのか。


「久しぶりの挨拶がそれか。お前らしいが。結婚すると聞いたので祝いに来た」
リオは肩を竦めて笑った。

笑うと、顔の片側が傷跡で引き攣るようだ。
人目を惹く美形だったが。傷のせいで凄みを増している。


「召喚場所を失敗した救世主に噛みついてツガイにしたらしいな。とんでもない奴だ」

「どこで訊いた?」
ふと襟元を飾る黒薔薇の刺繍に気づいた。

これは。

「”王の秘密機関スクレ・ドゥ・ロワ”か。天職だな」
「ご名答。我が君モン・ルワが死なせてくれなかったんで、くたばり損なった」

「当たり前だ。お前のような有能な男を、ロイが手放す訳がないだろう」
「……お前、本当に変わったな?」


†‡†‡†


む、アンリとデュランがリヒトの手料理に興味を示している。

「すまん、色々と聞きたいこともあるが。俺のツガイが……、」
「ああ、またな」


リヒトを後ろから抱き締め。
引き寄せた。

「お前ら、喰いに来るなよ。リヒトの手料理を味わっていいのはツガイである俺だけだ」

パーシーは、インターンの二人と酒を飲みながら歓談していた。
二人の方に視線を向け。

「食事の差し入れは、が帰るまでは頼む」
「ジャン……、」


「横暴!」
「アヴァール! 独占禁止!」

心が狭すぎる、とロイにまで怒られたが。
文句を言われる筋合いはない。


リヒトは俺のツガイなのだ。


†‡†‡†


ドニが退院する日が来た。

ドニを迎えに来た両親も見違えるほど元気になっていた。
ボール・ヴィラージュの皆も回復したという。


祝いの宴会に、三人を招待した。

キュイジニエは腕を振るい、リヒトの伝えた”異世界の料理”をずらりと食卓に並べた。
見たことのない料理ばかりだが、美味そうだ。

これは是非、リヒトに作ってもらおう。
リヒトが作るものなら、美味いに決まっている。

リヒトはメイベルと食べ物の話で盛り上がっているようだ。
何とはなしに会話を聞いていると。


「よう」
リオが皿を手に、俺の隣に来た。

アンニンドウフとやらが気に入ったようだ。
だがそれは飲み物ではない。

「ああ、そういえば。今まで何をしていたんだ?」

「身体の機能回復運動とかだな。仕事が出来るようになったのは、つい最近だ」
「古傷が痛むようならリヒトに診てもらえ」

リオはにやりと笑った。
何だその笑い方は。

忙しくなって、二人の時間が減ってもいいのか? というような視線を向けるな。
それが仕事だ。


「噂のボン・メドゥサンね。素直に頼るとするか。職業は何て言おう」
「退役軍人とでも言っておけ」

調教師ドントゥールの方が似合うんじゃない?」
パーシーが口を挟んできた。

「確かに……」
「おい、お前まで俺をどういう目で見てるんだ?」


リオを結婚式に呼んだのはパーシーだったらしい。
パーシーも城勤めで、リオと再会したが。今更顔を出すのは、と渋っていたのを引っ張ってきたという。

「何故だ。リオが生きていたとわかって嬉しいが?」


「ほら、J・Jは気にしないって言っただろ」
「……そうだな」

久しぶりに揃った友人同士、乾杯した。


†‡†‡†


メイベルだけでなく、アンリやロイ、インターンの二人に、キュイジニエ達までリヒトの周りに集まっていた。

料理もほとんど食べ尽くした様子だ。
いい加減、もう帰っても良い頃合いだろう。


「そろそろ、俺のツガイを返して欲しいんだが?」

リヒトが振り向いて、驚いたような顔をした。
その耳に、囁いてやる。

「……今日は、だからな」
リヒトは耳まで真っ赤になった。


「約束って?」
メイベルは首を傾げた。

「騒動がひと段落ついたら、、と約束した」


「え、お前、まだヤってなかったのかよ!?」
パーシーが叫んだ。

当然だ。結婚前だぞ。

「で、では私たちは村に帰りますので。お世話になりました!」
ドニとその両親は慌てて退出した。

子供には聞かせたくない内容だからな。


「ルイにベルナール、今日は城に泊まって行くがよかろう」
ロイは珍しく気を利かせて、今夜は城に留まるようインターンの二人に提案した。

「は、はい!」
「お言葉に甘えさせていただきます!」

二人もロイの誘いに応じた。
空気が読めるようになるのは良いメドゥサンになるためにも必要だろう。

アンリは強張った顔で、手元の紙に謎の線を描いている。
色事の話は苦手なのだ。

「後はいいから、もう家に帰ってゆっくり休むといいよ」
デュランに笑顔で手を振られ。


「では、失礼する」
リヒトを抱え上げ、食堂を出た。


これからようやく、二人きりの時間だ。
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