目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく

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第35話 嵐の前、守られた日常

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――学院入学前

 魔術大会が終わってから、数日。

 王都はまだ、あの日の熱を引きずっていた。

「一般の部優勝者、史上最年少」
「ノクティス公爵家の令嬢だって」
「光属性……いや、あれは……」

 街を歩けば、必ず耳に入る噂話。
 ひそひそ声は、私が通り過ぎるたびに止まる。

(……見られてる)

 以前よりも、はっきりと。

 でも――

「ルクシア、フード深く」

 ユリウスお兄様が、そっと私の頭にマントをかける。

「目立つなって方が無理だろ」
「だからこそ、だ」

 レオンハルトは、私の反対側に立ち、自然に人の流れを遮った。

 過保護、相変わらず。

(……うん、知ってた)

 ***

 ノクティス公爵邸。

 庭では、いつも通りの風が吹いている。
 花が揺れ、鳥が鳴き、平和そのものだった。

 ――表向きは。

「学院からの正式書簡が届いています」

 執事の声に、空気が少し引き締まる。

 父が封を切り、目を通す。

「……やはり、来たか」

 母が静かに尋ねる。

「配置、ですね」

「ああ」

 書簡には、丁寧な言葉でこう書かれていた。

 ――特例入学に伴い、
 ルクシア・ノクティスの生活環境・指導体制について
 事前協議を求める。

「要するに、監視だ」

 エリオスが、率直に言った。

「言い方」

「事実だろ」

 レオンハルトは、少し不機嫌そうに腕を組む。

「学院側は、ルクシアを“管理したい”」

「当然だ」

 父は冷静だった。

「だが、こちらも譲る気はない」

 視線が、私に向く。

「ルクシア」

「はい」

「入学前に、いくつか約束をしてもらう」

(……増えるな、これ)

「学院内では、単独行動は極力避ける」
「魔力の全開放は禁止」
「異変を感じたら、即申告」

「……はい」

 ユリウスが、少し苦笑する。

「過保護ルール、学外進出だな」

「誇れ」

「誇るとこじゃない」

 ***

 その日の夕方。

 私は、屋敷の中庭で一人――
 ではなかった。

「一人でいると思った?」

 リヒトの声が、背後からする。

「……思ってないです」

「だろうな」

 彼は、いつも通り少し距離を取って立っていた。

「学院に入れば、世界が変わる」

「知ってます」

「敵も、味方も増える」

「……それも」

 リヒトは、私をじっと見つめる。

「闇を恐れるな」
「だが、軽く扱うな」

 その言葉は、忠告だった。

「お前は、選ばれる側じゃない」
「“選ぶ側”だ」

 胸の奥で、何かが静かに鳴る。

「……私」

「まだ答えを出す必要はない」

 リヒトは、少しだけ微笑んだ。

「学院は、猶予だ」
「その間に、自分が何者か決めろ」

 ***

 夜。

 自室の窓から、王都の灯りを見下ろす。

(もうすぐ……学院)

 みんなと同じ場所。
 けれど、同じ立場ではない。

 光を持つ者。
 闇を知る者。

 その両方を抱えたまま、私は進む。

 知らない視線が、どこかで私を見ている気がした。

 それでも。

 私は、布団を引き寄せ、目を閉じる。

 ――今はまだ、守られていていい。

 嵐が来る前の、静かな夜。

 学院入学の日は、確実に近づいていた。
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