魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした

月影みるく

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第7話 魔王の腕の中

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大広間の空気が、張りつめていた。

人間たちは、誰一人として動けずにいる。
剣を持つ手は震え、言葉は喉に詰まったまま。

その中心で。

白いドレスの少女――セラフィナは、
クロウの背中から、ひょこっと顔を出していた。

「……おともだち、なる?」

その一言が、
どれほど危険なものかも知らずに。

次の瞬間。

“圧”が、落ちた。

空気が、沈む。
床が、わずかに軋む。

「――そこまでだ」

低く、よく通る声。

人間たちの視線が、一斉に上を向く。

そこに立っていたのは――
魔界を統べる王。

魔王。

闇を纏うような外套。
鋭く整った顔立ち。
圧倒的な存在感。

勇者が、反射的に剣を構え――

「下げろ」

魔王は、視線ひとつで制した。

「……娘の前だ」

その言葉だけで、
勇者の身体は、言うことを聞かなくなった。

魔王は、ゆっくりと歩み寄る。

クロウは、即座に片膝をついた。

「陛下」

「ご苦労」

短い言葉。
だが、全幅の信頼が込められている。

魔王は、そのままセラフィナを抱き上げた。

「セラフィナ」

「ぱぱ!」

小さな腕が、首に回る。

「こわいひと、いない?」

「もういない」

魔王は、彼女の髪に顔を埋める。

「よく来たな。……いや、来させてしまったな」

人間たちは、言葉を失う。

(……これが、魔王?)

想像していた暴君ではない。
冷酷な支配者でもない。

ただ――

「……本当にお前は可愛いな」

魔王が、ぽつりと呟いた。

クロウが、そっと目を伏せる。

「三歳で、これは反則だ」

「ぱぱ?」

「なんでもない」

セラフィナの額に、軽く口づける。

「外の世界は、まだ早い」

そのまま、ぎゅっと抱きしめた。

人間たちは、完全に理解する。

――ああ、これは。

奪えない。
交渉できない。
敵に回してはいけない。

「人間ども」

魔王が、初めて彼らを見る。

「目的は何だ」

王子は、震える声で答えた。

「……確認、です」

「確認?」

「噂の……魔王の娘の……」

魔王は、鼻で笑った。

「見ての通りだ」

「ただの、俺の娘だ」

その言葉に、
勇者の胸が、ひどく締めつけられた。

(……世界は、この子を巡って……)

魔王は、視線を鋭くする。

「覚えておけ」

「この子に、指一本触れるな」

「視線ひとつでも――」

一瞬、空気が裂けた。

「――命を賭けろ」

セラフィナは、きょとんと首をかしげる。

「ぱぱ、こわい?」

「いいや」

すぐに、声が柔らぐ。

「守っているだけだ」

その落差に、
人間たちは、完全に心を折られた。

魔王は、踵を返す。

「帰るぞ、セラフィナ」

「うん!」

去り際。

セラフィナは、ちらっと振り返り、
小さく手を振った。

「……またね」

その一言が。

人間界に、決定的な火種を残したことを、
まだ誰も知らない。
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