魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした

月影みるく

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第16話 壊れる音

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空が、裂けた。

結界の奥。
ルシアスが張ったはずの隠匿が、
外側から――

力で、こじ開けられていく。

「……来たか」

ルシアス・ヴァルディオスは、
静かに息を吐いた。

(やはり、魔王)

次の瞬間。

重力が、反転する。

床が軋み、
空気が、跪いた。

「――出てこい」

声だけで、世界が震える。

姿は、まだ見えない。

だが、そこにいる。

「俺の、娘だ」

ルシアスは、一歩前に出た。

檻の前に。

「……久しいな、魔王」

闇が、形を持つ。

漆黒の玉座が、
空間を歪めて現れ――

そこに座るのは、
神話のような男。

美しく、冷酷で、
圧倒的。

「貴様が――」

魔王の赤い瞳が、
檻の中を捉えた。

「娘に、触れたか」

「いいや」

ルシアスは、即答した。

「指一本」

「……触れていない」

魔王の殺気が、
一瞬、揺らぐ。

だが、すぐに戻る。

「誘拐したのは事実だ」

「許されると、思うか」

「思わない」

その言葉に、
魔王の眉が、僅かに動いた。

「だが――」

ルシアスは、はっきり言う。

「返さない」

空間が、悲鳴を上げた。

「……理由を、言え」

魔王の声は、低く、
怒りの底だった。

ルシアスは、視線を逸らさない。

「愛している」

一瞬。

すべてが、止まった。

次の瞬間。

魔力が、爆発する。

「――ふざけるな」

床が砕け、
壁が消し飛ぶ。

「俺の娘だ。」

「5歳だぞ。」

魔王は、玉座から立ち上がった。

「貴様に、触れる資格はない」

「……承知している」

それでも、ルシアスは退かない。

「それでも、俺は…」

(......彼女を、欲した)

* * *

――檻の中。

「……?」

セラフィナは、目を覚ました。

空気が、こわい。

音が、大きい。

(……なに)

見上げると。

黒い、怖い人。

でも。

(……ぱぱなの?)

「……ぱぱ?」

小さな声。

その瞬間。

魔王の魔力が、止まった。

「……セラフィナ」

声が、震えた。

「だいじょぶ?」

檻に、ひびが入る。

ルシアスは、即座に前に出た。

「下がれ!」

魔王の視線が、
初めてルシアスから外れる。

娘だけを見る。

「……怖かったか」

「……うん」

それは、小さな、正直な声。

「こわかった」

「……っ」

魔王の拳が、震える。

「誰が」

「誰が、泣かせた」

ルシアスは、
ゆっくりと、膝をついた。

檻の前で。

「……俺だ」

「俺が、連れてきた」

「だが」

「傷つけてはいない」

「守った」

魔王は、初めて迷った。

「……なぜ」

ルシアスは、答えた。

「失うのが、怖かった」

「美しすぎる」

「世界は、君を放っておかない」

その言葉に。

セラフィナの目から、
涙が、ぽろっと落ちた。

「……いや」

「けんか、いや」

小さな手が、
檻を握る。

「……こわい」

「……ひとり、やだ」

その声は。

戦争より、
強かった。

魔王は、
ゆっくりと檻に近づく。

鍵が、
音もなく外れる。

「……ごめんな」

セラフィナを、抱き上げる。

小さな体が、
ぎゅっと、しがみついた。

「……ぱぱ」

泣きながら。

ルシアスは、
その光景を、黙って見ていた。

(……負けたな)

剣も、力も、理屈も。

すべて。

「……だが」

魔王が、振り返る。

「貴様を、殺しはしない」

ルシアスは、目を伏せた。

「理由は?」

「娘が」

魔王は、静かに言う。

「泣いたからだ」

* * *

セラフィナは、
父の腕の中で、
声を上げて泣いた。

世界は。

壊れかけて。

それでも――

この小さな涙に、
ひとまず、止められた。

だが。

ルシアス・ヴァルディオスは、
まだ、目を逸らさなかった。

(……終わらない)

恋は。

まだ、始まったばかりだった。
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