逍遙の殺人鬼

こあら

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ざわめく町中を背景に、しゃがみ込む私がひっそりと存在していて、周りの人は特に気にしていない
片手に持っているスマホには、ここによく似た雑音が流れている

私の視線の先には、黒髪黒ハイネックに黒ズボンの全身黒ずくめの男性が立っていて、片手にはスマホを持ち耳に当てている
少し汗ばんだその人は、サングラスの奥底から黙って私を見つめていた
私はその人目がけて何の迷いもなく走り出し、その胸に飛び込んだ
彼に小さな衝撃を与えてしまったが、それを受け入れるようにゆっくりと抱きしめてくれる









彼に抱きしめられるのが、こんなにも安心する日が来るなんて思ってなかった
小刻みに揺らす肩は、私が泣いていると彼に告げ口していて「積極的じゃん」と言われてしまう
服をぎゅっと掴んで、ジャンさんっ…と彼の名前を呼んだ

「ジャンっ、ジャンさんっ、…」

「なに」

呼ぶ理由なんてものは無くて、ただ彼の存在を確認しているだけ
なのに、単調な返事しかしてくれないジャンさんは、いつもと変わりない様子だ

呼吸の乱れが薄れ、落ち着きを取り戻しつつある私の顔を両手で包むと、高身長の自分が見えるように上に向かせる
赤くなっているであろう目元を、なぞる様に親指の腹で拭う
その指の冷たさが、また私の熱を冷まそうとしてくれる

彼のこういうところが分からない
冷たく突き放すくせに
人を殺してしまいそうなほど危ない人なのに、時折見せる意地悪さと優しさが私の思考を混乱させる

「行くぞ」と私を引っ張る手は手首を掴むのでは無く、手を握っていた
今度は離れないように互いの指を絡め合うみたいに握りしめている

車に乗ると「待ってろ」とだけ言って、何処かへ行ってしまうジャンさん
待ってください…と呼び止めるのも、虚しくその声は届かなかった
また一人になっちゃった…と主観的になっていると、思いのほか早く帰ってくるジャンさんに驚いた



「ほら」

「冷たっ!なんです、これ?」

「冷やせ」

そう言って目元ををトントンと示す
要約すると、と言うことだ
これを買いにわざわざ…

ありがとうございます…。と感謝を伝えて、それを目にやる
ハンカチで目に当たる部分を保護し冷す
程よく冷たいそれで、少し心が落ち着く気がした

「わざわざすいません…」

「あんたにはやってもらうことがある。明日腫れたりしたら迷惑だ」

「明日…ですか?」

そう聞いているのに、答えるどころか車のエンジンをかけて運転し始めた
聞いてます?と彼を見ると「冷やせ」と目に押し付けられる
なら質問に答えてよ……と思いながら冷やし続ける
それからどれくらいだろ?30分くらい車を走らせ、次なる目的地に到着した

目の熱と腫れはだいぶ引いて、落ち着きを取り戻している
心無しかスッキリした気分だ

「この中ではあんたは俺の助手、いいな?」

「…助手…はい。」

そう言うと建物の扉を開き中に入る
中はきちんと整備されていて、生花や絵画なんかが飾られていて、受付嬢が私達を出迎えてくれていた
その受付嬢はジャンさんを見るなり「どうぞ」とエレベーターへの道を示した

それに従ってエレベーターへと向かい、18階のボタンを押した
1階から18階までの時間はそう長くなく、特急エレベーターだったみいで、すぐに18階に着くことができた

そうしてエレベーターを降りると、迷うことなく歩きはじめる
その後をテケテケと着いて行き、1つの扉の前で止まりノックをコンッコンッコンッと3回する
「どうぞ」とテンポよく返ってきたその合図で「失礼します」と室内に入っていくジャンさんに、続いて私も失礼します…と入室する

中には上下セットアップのスーツを着た、ショートカットの綺麗なアラフィフ女性が、微笑みながら待ち構えていた
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