逍遙の殺人鬼

こあら

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いつもよりも心は重いのに足取りは軽かった
ママさんが料理するカウンター席を離れて、3人ぐらいのオネエさんの間を抜けて、春さんの方へと歩く
目線は春さんではなかった

「あの女何する気だ?」

「もしかしたらお客さんに注意する気なのかしら…?」

他の人には見えない狐に襲われるのでは無いかと怯えている
周りに言っても信じてもらえず理解も得られない
どんどん人は遠ざかって独りぼっちになる
そんな孤独は耐えられない

でも、どうすれば良いかなんて自分でも分からない
すごく分かる
いや…分かる気がする

もし、その孤独から救い出せるのならやってみたい
無駄なことだってやってみなきゃ無駄かどうかなんて分からない
やってから後悔する
やる前から駄目だと決めつけて後悔するよりずっといい









私はお得意様の席の前で立ち止まった
私に気づいた春さんは小さな声で「どうしの?」と心配してくれたけど、それとは対象的にお得意様は怒鳴るように「何だね君は!!」と声を荒げた

初対面の私にもこんな態度を取るなんて、傲慢な人だ
春さんが接待するなんて勿体なさ過ぎる

私はチラッと男の子を見た
誰もいない所を見て怯えている
そんなことにお構いなく私に会話を邪魔されたと怒っているお得意様を無視して、私は壁に掛けてあるショットガンを取った
フェアエンド部分を持ってガシャンッとスライドさせた
「っな、何するんだ?!」って動揺するお得意様を無視して、私は体の向きをくるっと変えて構える

バンッ!バンッ!バンッ!
3発撃った

もちろん弾は入ってないし、レプリカで引き金を引いたところで空砲すら出ない
自らの声で銃声音の擬音を真似て、誰も何もない所を撃った

「狐は私が仕留めたから、もう襲って来ないよ」

「おい君!いったい、なーにを言っておる。」

「さてさて、この狐さんを遠くに持っていこうかな」

「小娘が…無視しおって、」

顔を真っ赤にして、まるで茹でタコみたいだ
そんなことは無視して狐を掴む素振りをしたまま私は席を離れる
その時、耳に届いたのはおじさんの声じゃなくて小さく柔らかい声だった
「ありがとう」そう、一言だけ言われた

私は振り返って、もう怯えなくって大丈夫だよって言った
そしたら、あんなに強張ってた男の子の顔は水を貰った花のように生き生きとしていて、笑顔だった

カウンター席に着いた私は、レプリカのショットガンを置いてオレンジジュースを一気飲みした
っぷは!と今まで息を止めていたかのように呼吸が突っかえた
死ぬほど緊張した…、失敗してたらどうなってたんだろう……
後先考えずにやってしまったことへの罪悪感的なものが、足先から上へと上がって来た
ゾワッ…ってなって、鼓動が早くなり指先は冷たく感じる

「ちーちゃん!すごいわ!!」

「すいません、出過ぎた真似を…」(謝って許されることじゃない。お得意様の機嫌を損ねたんだもん…)

「なぁに言ってるの!見てみて、あの子ずっと何も飲まない食べないだったのに、今はジュースを飲んでるわ。」

「そう…ですね」

「それに、お得意様も今は怒ってないみたいよ。」

「本当ですね…。男の子とちゃんと会話してるように見えますね」

ふぅ……とひと息付けば、横から「女、やるじゃないか。」とまだ居たんですかと思う朔夜さんからお褒めの言葉を頂いた
それに加えてゾロゾロと集まるオネエさま方に、次から次へと「すごいじゃない!」「見直したわよ♡」とか「小さいのにやるわね。」とか言って来る

っえ、"小さい"は身長のことを示唆しているのですか?
それに、そんなに褒めてもらうこと、したつもりは…無いんだけど
ちょっと反抗心が勝って…その勢いでやった事なのに…
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