逍遙の殺人鬼

こあら

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「あーー、終った。26年とは、短い人生だったな。」

「………、」

「俺は小説も完成させずに死ぬのか。」

「もう!別に命に別状はないんだから、そんな風に瀕死状態みたいな雰囲気出さないでくださいよ」

「目が見えないんだぞ!死んだようなもんだろ。」

「目を開けられないだけでしょ!本を落としたのは申し訳ないと思ってます!それに…お医者様も治ると言ってましたし、見えませんけど、いつか見えますから」

私は6歳児に話している気分だった
もう俺の人生は終わったんだと嘆き、布団に横になる朔夜さんはここで死ぬんだと動こうとしない

そんな彼に罪悪感を煽られ、謝罪の意も込めて今晩何が食べたいですか?と聞いた
「こんな時に何を言う。」と言われてしまった…









「じっとしてくださいっ!!」

「やめろ!俺に触るんじゃない!!」

「軟膏を塗るだけですよ。触るんとか触らないとか後にしてください」

さっきまで死んだかのように動かなかったくせに、薬を塗ろうとした途端抗って来た
依然として軟膏を受け入れないのは何故なのか…

「目を使わないで…小説を、作れないんですか?」

「見ないでどうやって書くんだ。書いたにでもなれってか?」

「……私が、書き留めます。アイデアが出たならメモします。読めと言うなら読みます。…だから、諦めないで下さい」

何だか目が見えないことをダシにして、朔夜さんが小説を諦めようとしているのではないかと感じてしまった
後押しされたみたいに、それを決心したかのように…

それを何となく察したのか、朔夜さんは慣れたような手付きで枕のカバーを外し、綿の中から一冊の本を取り出した
それを私に渡した

「この本をやるから、アレは諦めろ。」

「この本は?」

「貰い物だ。俺は何度も読んだから、…もう要らない。」

それは何作品もの短編小説がまとめられ、不思議な話と英語で書かれた少ししなびた感じが味のある本だった

私にとっては嬉しい贈り物………のはずなのに、なぜだ素直に喜べない
なぜ今それを渡すのか
要らないとは…どういうことなのか

「ひとりにしてくれ。」と言う朔夜さんは、いつもと変わらない声色で、単調に言った
私は何も言えずに、ただ静かに彼の部屋を出た

プライドの高い朔夜さんが見せた弱い一面
それをこれ以上見てほしくないし、何も言わないで欲しいんだと理解した
黙って自室に行き、やるせないこの気持ちを抱えて静まり返った家の音を感じていた

(この本を、アノ本の代わりにしろって…こと?…)

確かに持った本を見て、私はベッドに座った
その年季の入った表紙をなぞってみる
ザラザラとした感触と折目が沢山ついたその本は、金色が剥がれかかってサブタイトルが読めなかった

おもむろにめくり、色あせた紙の手触りを楽しんだ
紙とインクの独特の匂いが懐かしく感じた
ずっとこんな感じを味わっていないように思えた
まぶたを閉じて、いつぶりだったかを考えた

(静かな時間を望んだ時もあったのに…、)
いざその時が来ると、何とも心寂しく感じた

本に目をやって、1枚目ページを進める
なぜだか、その行為に涙がひと粒流れ落ちた
指の腹を使って拭い、私は本を読み始めた
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