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閑話 嘆きの薔薇
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淡々と時が過ぎていく。
棘が蔓延り幾重にも絡まる姿はまるで鳥籠の様だ。
(まだ、鳥籠の方が可愛いものだ……)
隙があれば逃げる事が出来る。
扉が開いた一瞬の隙に。
(逃げる、か)
既に放棄した事柄だ。
この世に生を受け、己の運命を知った時点から。
ふわり、と薔薇の薫りが漂う。
臭気を含ませた薫りに一瞬思考が奪われるが、何かが変わる事など、ない。
そう、何も。
「また、一つの薔薇が散った、か……」
この度はどの薔薇が生を奪われたのだろうか。
呪いに抗い、最後まで生に固執し、醜く歪んだ愛に溺れて自我を狂わせ。
そして、それがあたかも真実の愛と言わんがばかりに、対なる君を追い求め。
愛を乞う姿が滑稽だと思う事もなく、ただただその愛に酔いしれて。
(そして自ら滅んだか。
下らない低俗な愛に身を焦がして)
ふっと口元を歪ませる。
死を賜った薔薇を嘲笑いながらも表情は暗い。
濁った瞳に映る紅い薔薇。
気怠いそうに薔薇に触れるとぼろり、と薔薇が崩れ落ちる。
赤黒く染まった薔薇は儚く散り消えていく。
微かに死臭を帯びた薫りを漂わせながら……。
***
「ねえ、今、何か感じなかった?」
一瞬、何かに駆られる気持ちにマリアンヌは囚われた。
重苦しくて哀しくて焦燥感に駆られて。
無意識に涙を流しているマリアンヌにクリストファーは慌ててマリアンヌの側にいく。
「何故、泣いているの?マリアンヌ。
何か哀しい事があったの?」
優しく抱き締めマリアンヌの耳元で囁くクリストファーの声音に、マリアンヌは自分の頬が涙に濡れている事に気付く。
「私、泣いていたの?」
マリアンヌの呟きにクリストファーが優しくマリアンヌの髪を梳く。
肯定と言わんばかりのクリストファーに、マリアンヌは不安げな視線をクリストファー向ける。
「……何故、涙が出たのかしら?」
「マリアンヌ?」
「解らない、でも……」
一瞬、仄かに漂う薔薇の薫りがマリアンヌの感情を揺さぶって。
「薔薇の薫りがしたの……」
「……」
「とても哀しい薫り。
何故、そう感じたのかしら……」
だって、この薫りは死を告げる薫りだから。
一瞬、浮かんだ言葉にマリアンヌはピクンと身体を震わせる。
(どうしてそう思ったのかしら)
「マリアンヌ?」
「……、何でもないの、クリストファー。
ちょっと感傷的になって」
「…僕の所為だね。
マリアンヌを不安にさせるのは」
クリストファーの言葉にマリアンヌはパッと顔を上げる。
またクリストファーが自己嫌悪に陥っている。
マリアンヌの気持ちが不安定なのは全てクリストファーの所為だと自分を責めて。
クリストファーが対なる君の呪いの保持者であるが為に、マリアンヌの心に憂いを落とす存在だと。
「ち、違うわ、クリストファー!
そうではないのよ、ただ……」
一つの薔薇が生を終えたのよ……。
それが心が苦しくて哀しくて涙が出たの。
ふっと浮かぶ言葉にマリアンヌは思い巡らせる。
この感情は一体、誰の想いだろう、かと。
(何故、そう思ったのかしら)
「クリストファー?」
しゅんと耳を垂れ下げている犬の様なクリストファーの表情にマリアンヌは苦笑する。
今にも泣きそうなクリストファーの顔。
繊細で優しくて、そして少し子供っぽくて。
ずっとクリストファーはマリアンヌの表情に、言葉に、一喜一憂していた。
それはマリアンヌも同じだった。
クリストファーの対なる君だと告げられる迄は、マリアンヌはずっとクリストファーの愛を知らなかった。
マリアンヌも自分の本当の気持ちに気付かなかった。
クリストファーに惹かれながらも自分の気持ちに気付かないフリをして。
そう、ずっと前からクリストファーに心を奪われている自分に。
愛が芽生えている事に向き合う事を躊躇って。
でも、クリストファーを誰にも奪われたくない気持ちに気付いた途端、気持ちが溢れて。
愛しているの、クリストファー。
誰にも渡したくない。
「マリアンヌ」
「クリストファー」
すうと視線が交わる。
自分を見詰めるサファイヤブルーの瞳が愛おしい。
蕩ける様な笑みを浮かべて愛を囁くクリストファーが好き。
だから、つい強請ってしまう。
愛を確かめたいから。
「ねえ、キスして、クリストファー……」
顔を真っ赤に染めながら強請るマリアンヌの愛らしさに、クリストファーの顔がみるみると赤く染まりだし。
耳朶迄赤く染める姿にマリアンヌの心臓の音がピクンと跳ねる。
ドキドキと心臓の音が止まらない。
自分が告げた言葉に今になって恥じらうなんて。
でも、クリストファーとしたいから。
矛盾だと思われても、でも、マリアンヌの気持ちはクリストファーを求めている。
「……何処まで僕の理性を狂わせたら気が済むんだろう」
ぽそりと囁く言葉には愛が溢れていて。
「愛している、マリアンヌ……」
交わす口付けは何処までも甘く。
マリアンヌの心を掠めた薔薇の薫りはいつしか消え去り、ふわりと甘やかで芳しい薫りに二人は包まれていた。
棘が蔓延り幾重にも絡まる姿はまるで鳥籠の様だ。
(まだ、鳥籠の方が可愛いものだ……)
隙があれば逃げる事が出来る。
扉が開いた一瞬の隙に。
(逃げる、か)
既に放棄した事柄だ。
この世に生を受け、己の運命を知った時点から。
ふわり、と薔薇の薫りが漂う。
臭気を含ませた薫りに一瞬思考が奪われるが、何かが変わる事など、ない。
そう、何も。
「また、一つの薔薇が散った、か……」
この度はどの薔薇が生を奪われたのだろうか。
呪いに抗い、最後まで生に固執し、醜く歪んだ愛に溺れて自我を狂わせ。
そして、それがあたかも真実の愛と言わんがばかりに、対なる君を追い求め。
愛を乞う姿が滑稽だと思う事もなく、ただただその愛に酔いしれて。
(そして自ら滅んだか。
下らない低俗な愛に身を焦がして)
ふっと口元を歪ませる。
死を賜った薔薇を嘲笑いながらも表情は暗い。
濁った瞳に映る紅い薔薇。
気怠いそうに薔薇に触れるとぼろり、と薔薇が崩れ落ちる。
赤黒く染まった薔薇は儚く散り消えていく。
微かに死臭を帯びた薫りを漂わせながら……。
***
「ねえ、今、何か感じなかった?」
一瞬、何かに駆られる気持ちにマリアンヌは囚われた。
重苦しくて哀しくて焦燥感に駆られて。
無意識に涙を流しているマリアンヌにクリストファーは慌ててマリアンヌの側にいく。
「何故、泣いているの?マリアンヌ。
何か哀しい事があったの?」
優しく抱き締めマリアンヌの耳元で囁くクリストファーの声音に、マリアンヌは自分の頬が涙に濡れている事に気付く。
「私、泣いていたの?」
マリアンヌの呟きにクリストファーが優しくマリアンヌの髪を梳く。
肯定と言わんばかりのクリストファーに、マリアンヌは不安げな視線をクリストファー向ける。
「……何故、涙が出たのかしら?」
「マリアンヌ?」
「解らない、でも……」
一瞬、仄かに漂う薔薇の薫りがマリアンヌの感情を揺さぶって。
「薔薇の薫りがしたの……」
「……」
「とても哀しい薫り。
何故、そう感じたのかしら……」
だって、この薫りは死を告げる薫りだから。
一瞬、浮かんだ言葉にマリアンヌはピクンと身体を震わせる。
(どうしてそう思ったのかしら)
「マリアンヌ?」
「……、何でもないの、クリストファー。
ちょっと感傷的になって」
「…僕の所為だね。
マリアンヌを不安にさせるのは」
クリストファーの言葉にマリアンヌはパッと顔を上げる。
またクリストファーが自己嫌悪に陥っている。
マリアンヌの気持ちが不安定なのは全てクリストファーの所為だと自分を責めて。
クリストファーが対なる君の呪いの保持者であるが為に、マリアンヌの心に憂いを落とす存在だと。
「ち、違うわ、クリストファー!
そうではないのよ、ただ……」
一つの薔薇が生を終えたのよ……。
それが心が苦しくて哀しくて涙が出たの。
ふっと浮かぶ言葉にマリアンヌは思い巡らせる。
この感情は一体、誰の想いだろう、かと。
(何故、そう思ったのかしら)
「クリストファー?」
しゅんと耳を垂れ下げている犬の様なクリストファーの表情にマリアンヌは苦笑する。
今にも泣きそうなクリストファーの顔。
繊細で優しくて、そして少し子供っぽくて。
ずっとクリストファーはマリアンヌの表情に、言葉に、一喜一憂していた。
それはマリアンヌも同じだった。
クリストファーの対なる君だと告げられる迄は、マリアンヌはずっとクリストファーの愛を知らなかった。
マリアンヌも自分の本当の気持ちに気付かなかった。
クリストファーに惹かれながらも自分の気持ちに気付かないフリをして。
そう、ずっと前からクリストファーに心を奪われている自分に。
愛が芽生えている事に向き合う事を躊躇って。
でも、クリストファーを誰にも奪われたくない気持ちに気付いた途端、気持ちが溢れて。
愛しているの、クリストファー。
誰にも渡したくない。
「マリアンヌ」
「クリストファー」
すうと視線が交わる。
自分を見詰めるサファイヤブルーの瞳が愛おしい。
蕩ける様な笑みを浮かべて愛を囁くクリストファーが好き。
だから、つい強請ってしまう。
愛を確かめたいから。
「ねえ、キスして、クリストファー……」
顔を真っ赤に染めながら強請るマリアンヌの愛らしさに、クリストファーの顔がみるみると赤く染まりだし。
耳朶迄赤く染める姿にマリアンヌの心臓の音がピクンと跳ねる。
ドキドキと心臓の音が止まらない。
自分が告げた言葉に今になって恥じらうなんて。
でも、クリストファーとしたいから。
矛盾だと思われても、でも、マリアンヌの気持ちはクリストファーを求めている。
「……何処まで僕の理性を狂わせたら気が済むんだろう」
ぽそりと囁く言葉には愛が溢れていて。
「愛している、マリアンヌ……」
交わす口付けは何処までも甘く。
マリアンヌの心を掠めた薔薇の薫りはいつしか消え去り、ふわりと甘やかで芳しい薫りに二人は包まれていた。
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