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39話
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***
身支度を済ませ帰宅する準備を整えたマリアンヌが、クリストファーに声をかける。
「クリストファー、お父様とお母様にお土産を買って帰りたいから街まで買い物に付き合ってくれる?」
上目遣いでお願いするマリアンヌにクリストファーの顔がだらしなく緩む。
当然と言わんばかり頭をぶんぶん上下に振って承諾するクリストファーに、マリアンヌの顔に満面の笑みが浮かぶ。
花が綻ぶ様に微笑むマリアンヌに、クリストファーの胸がキュンとなる。
(ああ、マリアンヌをピアッチェ家に帰したくない。
いっそのこと、このままマリアンヌとここで暮らして……)
と、思った途端、落胆が一気に押し寄せる。
今は無理だと理屈では分かっていても、週末、マリアンヌと一緒に過ごす新居での時間はクリストファーにとって至福の時だ。
この時間が永遠に続いて欲しい、ずっとこのままマリアンヌとイチャイチャしたい。
もっと、マリアンヌに触れたいし、愛し合いたい。
(駄目だ。
このままだと負の感情に囚われて、呪いが発動しそうで怖い。
……。
ああ、マリアンヌを監禁をしてしまったら、どうしよう)
ハッとし、頭をぶんぶん横に振る。
ぞっとする言葉の羅列にクリストファーの顔から一気に血の気が引いていく。
青ざめていくクリストファーに気付き、マリアンヌが心配気に言葉をかける。
「クリストファー、大丈夫なの?
顔色が悪いけど、体調が良くないのなら街へは行かずにこのままピアッチェ家に帰るわ」
マリアンヌの発言に、クリストファーは顔を引き攣らせながら否定する。
「だ、大丈夫だから!
だからこのまま帰るなんて言わないで……」
しゅん、と子犬の様な目で見詰めるクリストファーに、マリアンヌはクリストファーをぎゅっと抱き締める。
マリアンヌの急な抱擁にクリストファーの目が大きく見開く。
「ま、マリアンヌ?」
「そんな悲しそうな顔をしないで。
私だって帰りたく無いんだから」
恥ずかしさと寂しさを含んだマリアンヌの声音にクリストファーは目を閉じマリアンヌを抱き締める。
互いの体温が伝わる。
ふっと漂うクリストファーの薫り。
甘く切なくて、そして優しくて。
「……、僕は欲張りだね。
マリアンヌに愛を伝える事が出来て、マリアンヌと想いが重なってこうして君の存在を確かめる事が出来るのに、これ以上を望んでしまう」
「クリストファー」
「帰したくない。
マリアンヌとずっと一緒にいたい。
早く君と婚姻して家庭を築きたい」
切なげなクリストファーの言葉にマリアンヌは顔を上げ、クリストファーの顔を引き寄せる。
ちゅっとクリストファーの唇にキスを落とす。
マリアンヌの柔らかい唇の感触がクリストファーの唇に伝わっていく。
「マリアンヌ……」
「私も一緒よ、クリストファー。
貴方とずっと一緒にいたい。
早く貴方の妻になって、貴方との子供が欲しい……」
最後の言葉にクリストファーはぼっと、頬を真っ赤に染める。
たじろぐクリストファーにマリアンヌは頬を染めクリストファーの胸に顔を埋める。
「好き。
クリストファーが誰よりも好き。
愛している……」
マリアンヌの言葉にクリストファーはじんわりと眦に涙が滲む。
最近、涙腺が脆くなったな、と自覚するクリストファーだが、こんなに感情が緩むのも全てはマリアンヌの所為。
マリアンヌの存在がクリストファーを感傷的にさせる。
マリアンヌの存在がクリストファーを愚かにさせる。
恋の魔法をかけられたクリストファーはマリアンヌに恋焦がれる唯の男だと自覚させられる。
そう。
呪いの保持者では無く、愛する人に愛を請い跪く、1人の男だと……。
「僕も愛している。
マリアンヌだけを愛している」
マリアンヌの顎を取りクリストファーがマリアンヌの唇を奪う。
互いの想いを確かめる様に何度も唇を重ねる2人に、紫の薔薇は優しげに花弁を振るわせた。
***
「ここの焼き菓子が評判でお土産に買って帰りたいと思ったの」
帰り道。
マリアンヌの要望通り、街へと買い物に向かったマリアンヌのクリストファーは目的地である店へと歩行を進めていた。
通り過ぎる人々の視線がクリストファーに集中する。
今更の事ながら注目を集めるクリストファーの美貌にマリアンヌは嘆息を漏らしていた。
(相変わらず、すっごい熱量が籠った視線がクリストファーに集まっている。
そして私に突き刺さる視線も更にパワーアップしているわ)
いい加減、慣れているがクリストファーと街を歩く度に女性達の羨望と嫉妬が入り混じった視線を浴びるのも中々キツいものがある。
ひそひそと囁かれるマリアンヌへの罵詈雑言。
「どうしてあんな女がクリストファー様の婚約者なの」
「クリストファー様の美貌に相応しいと思っているの?
なんて図々しい!
今直ぐ、この場を去って部屋の鏡で自分の顔をじっくり見て欲しいわ!」
「そうそう。
本当に家柄だけが取り柄の、見栄えのしない地味な女」
くすくすと笑い囁きながら去って行く令嬢達に、マリアンヌの表情は変わらない。
クリストファーとの揺るぎない愛がマリアンヌに自信を持たせる。
(言われている言葉は事実だし、否定するつもりもないわ。
だけどクリストファーが私の事を愛しているって言ってくれるもの。
それ以上の言葉が欲しいなんて思わない)
憧れの貴公子が地味でパッとしない容姿の自分の婚約者である事に、批判したい気持ちも理解は出来る。
言って気持ちが治るのなら勝手に言えばいい。
そう思える様になったのも全てはクリストファーの愛があるから。
クリストファーとの顔面格差はずっとマリアンヌの心の中に根付いている。
今更その事を深く追求しようとは思わない。
だって、自分は自分だから。
そう思っていると何処からかけたたましい声が聞こえてくる。
甘ったるくて媚を含んだ声の持ち主に気づいたマリアンヌの目が大きく見開く。
(こ、この声はも、も、もしかして……)
嫌な予感は的中し、背後からクリストファーに声かけをする。
「あら、まあ!
クリストファー様ではありませんか?
何ていう偶然なんでしょう!」
華やかで艶やかな美貌のコゼット・ケンティフォリアの登場にマリアンヌは顔を顰める。
クリストファーに至っては表情が一瞬にして消えている。
(な、なんで、コゼット・ケンティフォリアがここにいるのよ!
クリストファーに絡んで、また、あの豊満な胸を押し付けるのかしら!
い、いやらしい)
と、思っていると何やら冷ややか空気が漂ってきて。
チラリ、と隣のクリストファーを見ると不機嫌さを露わにし隠そうともしない。
(む、昔のクリストファーに戻っている。
い、いやよ。
折角、クリストファーとの買い物を楽しんでいたのに、こんな)
いやああ、と心の中で叫んでいるマリアンヌに、絶対零度の温度で冷たい空気を纏う無表情のクリストファー。
予期せぬコゼット・ケンティフォリアの登場に何やら波乱を匂わせる展開となっていった。
身支度を済ませ帰宅する準備を整えたマリアンヌが、クリストファーに声をかける。
「クリストファー、お父様とお母様にお土産を買って帰りたいから街まで買い物に付き合ってくれる?」
上目遣いでお願いするマリアンヌにクリストファーの顔がだらしなく緩む。
当然と言わんばかり頭をぶんぶん上下に振って承諾するクリストファーに、マリアンヌの顔に満面の笑みが浮かぶ。
花が綻ぶ様に微笑むマリアンヌに、クリストファーの胸がキュンとなる。
(ああ、マリアンヌをピアッチェ家に帰したくない。
いっそのこと、このままマリアンヌとここで暮らして……)
と、思った途端、落胆が一気に押し寄せる。
今は無理だと理屈では分かっていても、週末、マリアンヌと一緒に過ごす新居での時間はクリストファーにとって至福の時だ。
この時間が永遠に続いて欲しい、ずっとこのままマリアンヌとイチャイチャしたい。
もっと、マリアンヌに触れたいし、愛し合いたい。
(駄目だ。
このままだと負の感情に囚われて、呪いが発動しそうで怖い。
……。
ああ、マリアンヌを監禁をしてしまったら、どうしよう)
ハッとし、頭をぶんぶん横に振る。
ぞっとする言葉の羅列にクリストファーの顔から一気に血の気が引いていく。
青ざめていくクリストファーに気付き、マリアンヌが心配気に言葉をかける。
「クリストファー、大丈夫なの?
顔色が悪いけど、体調が良くないのなら街へは行かずにこのままピアッチェ家に帰るわ」
マリアンヌの発言に、クリストファーは顔を引き攣らせながら否定する。
「だ、大丈夫だから!
だからこのまま帰るなんて言わないで……」
しゅん、と子犬の様な目で見詰めるクリストファーに、マリアンヌはクリストファーをぎゅっと抱き締める。
マリアンヌの急な抱擁にクリストファーの目が大きく見開く。
「ま、マリアンヌ?」
「そんな悲しそうな顔をしないで。
私だって帰りたく無いんだから」
恥ずかしさと寂しさを含んだマリアンヌの声音にクリストファーは目を閉じマリアンヌを抱き締める。
互いの体温が伝わる。
ふっと漂うクリストファーの薫り。
甘く切なくて、そして優しくて。
「……、僕は欲張りだね。
マリアンヌに愛を伝える事が出来て、マリアンヌと想いが重なってこうして君の存在を確かめる事が出来るのに、これ以上を望んでしまう」
「クリストファー」
「帰したくない。
マリアンヌとずっと一緒にいたい。
早く君と婚姻して家庭を築きたい」
切なげなクリストファーの言葉にマリアンヌは顔を上げ、クリストファーの顔を引き寄せる。
ちゅっとクリストファーの唇にキスを落とす。
マリアンヌの柔らかい唇の感触がクリストファーの唇に伝わっていく。
「マリアンヌ……」
「私も一緒よ、クリストファー。
貴方とずっと一緒にいたい。
早く貴方の妻になって、貴方との子供が欲しい……」
最後の言葉にクリストファーはぼっと、頬を真っ赤に染める。
たじろぐクリストファーにマリアンヌは頬を染めクリストファーの胸に顔を埋める。
「好き。
クリストファーが誰よりも好き。
愛している……」
マリアンヌの言葉にクリストファーはじんわりと眦に涙が滲む。
最近、涙腺が脆くなったな、と自覚するクリストファーだが、こんなに感情が緩むのも全てはマリアンヌの所為。
マリアンヌの存在がクリストファーを感傷的にさせる。
マリアンヌの存在がクリストファーを愚かにさせる。
恋の魔法をかけられたクリストファーはマリアンヌに恋焦がれる唯の男だと自覚させられる。
そう。
呪いの保持者では無く、愛する人に愛を請い跪く、1人の男だと……。
「僕も愛している。
マリアンヌだけを愛している」
マリアンヌの顎を取りクリストファーがマリアンヌの唇を奪う。
互いの想いを確かめる様に何度も唇を重ねる2人に、紫の薔薇は優しげに花弁を振るわせた。
***
「ここの焼き菓子が評判でお土産に買って帰りたいと思ったの」
帰り道。
マリアンヌの要望通り、街へと買い物に向かったマリアンヌのクリストファーは目的地である店へと歩行を進めていた。
通り過ぎる人々の視線がクリストファーに集中する。
今更の事ながら注目を集めるクリストファーの美貌にマリアンヌは嘆息を漏らしていた。
(相変わらず、すっごい熱量が籠った視線がクリストファーに集まっている。
そして私に突き刺さる視線も更にパワーアップしているわ)
いい加減、慣れているがクリストファーと街を歩く度に女性達の羨望と嫉妬が入り混じった視線を浴びるのも中々キツいものがある。
ひそひそと囁かれるマリアンヌへの罵詈雑言。
「どうしてあんな女がクリストファー様の婚約者なの」
「クリストファー様の美貌に相応しいと思っているの?
なんて図々しい!
今直ぐ、この場を去って部屋の鏡で自分の顔をじっくり見て欲しいわ!」
「そうそう。
本当に家柄だけが取り柄の、見栄えのしない地味な女」
くすくすと笑い囁きながら去って行く令嬢達に、マリアンヌの表情は変わらない。
クリストファーとの揺るぎない愛がマリアンヌに自信を持たせる。
(言われている言葉は事実だし、否定するつもりもないわ。
だけどクリストファーが私の事を愛しているって言ってくれるもの。
それ以上の言葉が欲しいなんて思わない)
憧れの貴公子が地味でパッとしない容姿の自分の婚約者である事に、批判したい気持ちも理解は出来る。
言って気持ちが治るのなら勝手に言えばいい。
そう思える様になったのも全てはクリストファーの愛があるから。
クリストファーとの顔面格差はずっとマリアンヌの心の中に根付いている。
今更その事を深く追求しようとは思わない。
だって、自分は自分だから。
そう思っていると何処からかけたたましい声が聞こえてくる。
甘ったるくて媚を含んだ声の持ち主に気づいたマリアンヌの目が大きく見開く。
(こ、この声はも、も、もしかして……)
嫌な予感は的中し、背後からクリストファーに声かけをする。
「あら、まあ!
クリストファー様ではありませんか?
何ていう偶然なんでしょう!」
華やかで艶やかな美貌のコゼット・ケンティフォリアの登場にマリアンヌは顔を顰める。
クリストファーに至っては表情が一瞬にして消えている。
(な、なんで、コゼット・ケンティフォリアがここにいるのよ!
クリストファーに絡んで、また、あの豊満な胸を押し付けるのかしら!
い、いやらしい)
と、思っていると何やら冷ややか空気が漂ってきて。
チラリ、と隣のクリストファーを見ると不機嫌さを露わにし隠そうともしない。
(む、昔のクリストファーに戻っている。
い、いやよ。
折角、クリストファーとの買い物を楽しんでいたのに、こんな)
いやああ、と心の中で叫んでいるマリアンヌに、絶対零度の温度で冷たい空気を纏う無表情のクリストファー。
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