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第14話 真実の暴露
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第14話 真実の暴露
その日の午後、王宮の小会議室に呼び集められたのは、ごく限られた者だけだった。
国王。
王太子エリシオン。
数名の重臣。
空気は、張り詰めている。
「……座れ」
国王の一言で、会議が始まった。
机の上に置かれたのは、一冊の分厚い記録帳。
使い込まれ、角が少し擦り切れている。
「エリシオン」
「……はい」
「これは、何だと思う」
国王は、記録帳を指で叩いた。
エリシオンは、目を凝らす。
「……施策記録、でしょうか」
「そうだ」
国王は頷いた。
「過去数年分の、王太子名義で施行された政策の“修正履歴”だ」
その言葉に、重臣たちが息を呑む。
「修正……履歴?」
エリシオンの声が、わずかに上ずった。
「誰が、そんなものを……」
「誰が、だと?」
国王の視線が、鋭く突き刺さる。
「アヴェンタドール・ローウェンだ」
静かな断定だった。
「彼女は、お前の原案を保存し、
修正内容と理由を、すべて記録していた」
国王は、記録帳を開く。
「税率調整。施行時期の変更。免除条件の追加。
……すべて、彼女の手によるものだ」
紙をめくる音が、やけに大きく響く。
「これは……」
エリシオンの顔から、血の気が引いていく。
「お前が“成功した改革”と誇っていた政策の、
実際の中身だ」
国王は、淡々と続けた。
「彼女は、功績を主張しなかった。
署名も、説明も、すべてお前の名義にしていた」
重臣の一人が、低く呟く。
「……だから、現場が回っていたのか」
「だから、数字がきれいだったのだな」
エリシオンの耳には、何も入らない。
(……嘘だ)
(ただ、書類を整えていただけじゃ……)
だが、ページをめくるたび、
自分の原案が、どれほど杜撰だったかが露わになる。
「……父上」
震える声。
「なぜ、今まで……」
「言っただろう」
国王は、静かに言った。
「お前を守るためだ」
だが、その声には、悔恨が滲んでいた。
「だが、お前はそれを当然と受け取り、
挙句に、彼女を“出しゃばる女”と切り捨てた」
国王は、記録帳を閉じる。
「――もう、庇えん」
その言葉は、
王としてではなく、父としての限界宣言だった。
エリシオンは、椅子に深く沈み込む。
(……俺は)
(何を、誇っていたんだ)
沈黙を破ったのは、意外な声だった。
「……なるほど」
第2王子、サイノス。
彼は、興味深そうに記録帳を眺めている。
「兄上の“実績”は、
すべて彼女の手腕だったわけですか」
「黙れと言ったはずだ」
国王が睨む。
「失礼」
サイノスは、素直に頭を下げた。
だが、その瞳は、冷たく光っていた。
(……使える)
有能な女。
そして、無能な兄。
この組み合わせは、
あまりにも分かりやすい。
「父上」
サイノスは、穏やかな声で言った。
「もし、王国の安定を最優先するのであれば、
体制の見直しも――」
「その話は終わりだ」
国王は、きっぱりと遮った。
「今日の議題は、お前ではない」
サイノスは、微笑みを消した。
「……承知しました」
会議は、それ以上続かなかった。
重臣たちが退室した後、
国王は、エリシオンだけを残す。
「……エリシオン」
「……」
「お前は、何を失ったか、分かっているか」
答えは、出ない。
国王は、静かに言った。
「国を回す頭脳を、だ」
そして、心の中で呟く。
(……そして私は、それを守れなかった)
その頃、別の廊下で。
サイノスは、ゆっくりと歩きながら、
一人、笑みを浮かべていた。
(アヴェンタドール・ローウェン……)
(これは、奪う価値がある)
その視線の先にあるのは、
王位ではない。
――“切り札”だった。
---
その日の午後、王宮の小会議室に呼び集められたのは、ごく限られた者だけだった。
国王。
王太子エリシオン。
数名の重臣。
空気は、張り詰めている。
「……座れ」
国王の一言で、会議が始まった。
机の上に置かれたのは、一冊の分厚い記録帳。
使い込まれ、角が少し擦り切れている。
「エリシオン」
「……はい」
「これは、何だと思う」
国王は、記録帳を指で叩いた。
エリシオンは、目を凝らす。
「……施策記録、でしょうか」
「そうだ」
国王は頷いた。
「過去数年分の、王太子名義で施行された政策の“修正履歴”だ」
その言葉に、重臣たちが息を呑む。
「修正……履歴?」
エリシオンの声が、わずかに上ずった。
「誰が、そんなものを……」
「誰が、だと?」
国王の視線が、鋭く突き刺さる。
「アヴェンタドール・ローウェンだ」
静かな断定だった。
「彼女は、お前の原案を保存し、
修正内容と理由を、すべて記録していた」
国王は、記録帳を開く。
「税率調整。施行時期の変更。免除条件の追加。
……すべて、彼女の手によるものだ」
紙をめくる音が、やけに大きく響く。
「これは……」
エリシオンの顔から、血の気が引いていく。
「お前が“成功した改革”と誇っていた政策の、
実際の中身だ」
国王は、淡々と続けた。
「彼女は、功績を主張しなかった。
署名も、説明も、すべてお前の名義にしていた」
重臣の一人が、低く呟く。
「……だから、現場が回っていたのか」
「だから、数字がきれいだったのだな」
エリシオンの耳には、何も入らない。
(……嘘だ)
(ただ、書類を整えていただけじゃ……)
だが、ページをめくるたび、
自分の原案が、どれほど杜撰だったかが露わになる。
「……父上」
震える声。
「なぜ、今まで……」
「言っただろう」
国王は、静かに言った。
「お前を守るためだ」
だが、その声には、悔恨が滲んでいた。
「だが、お前はそれを当然と受け取り、
挙句に、彼女を“出しゃばる女”と切り捨てた」
国王は、記録帳を閉じる。
「――もう、庇えん」
その言葉は、
王としてではなく、父としての限界宣言だった。
エリシオンは、椅子に深く沈み込む。
(……俺は)
(何を、誇っていたんだ)
沈黙を破ったのは、意外な声だった。
「……なるほど」
第2王子、サイノス。
彼は、興味深そうに記録帳を眺めている。
「兄上の“実績”は、
すべて彼女の手腕だったわけですか」
「黙れと言ったはずだ」
国王が睨む。
「失礼」
サイノスは、素直に頭を下げた。
だが、その瞳は、冷たく光っていた。
(……使える)
有能な女。
そして、無能な兄。
この組み合わせは、
あまりにも分かりやすい。
「父上」
サイノスは、穏やかな声で言った。
「もし、王国の安定を最優先するのであれば、
体制の見直しも――」
「その話は終わりだ」
国王は、きっぱりと遮った。
「今日の議題は、お前ではない」
サイノスは、微笑みを消した。
「……承知しました」
会議は、それ以上続かなかった。
重臣たちが退室した後、
国王は、エリシオンだけを残す。
「……エリシオン」
「……」
「お前は、何を失ったか、分かっているか」
答えは、出ない。
国王は、静かに言った。
「国を回す頭脳を、だ」
そして、心の中で呟く。
(……そして私は、それを守れなかった)
その頃、別の廊下で。
サイノスは、ゆっくりと歩きながら、
一人、笑みを浮かべていた。
(アヴェンタドール・ローウェン……)
(これは、奪う価値がある)
その視線の先にあるのは、
王位ではない。
――“切り札”だった。
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