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第十四話 監査宣言
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第十四話 監査宣言
その朝、王都の空はやけに澄んでいた。
取引所前には、いつものように人が溢れている。掲示板に映るエルドラド株の価格は、わずかな上昇。横ばいと上昇を繰り返しながら、それでもまだ高値圏を保っている。
「問題ない!」 「王室保証の噂がある限り、下がらん!」
誰かが叫ぶと、周囲が頷く。
噂は、すでに確信に近い形で広まっていた。
“女王もついに動く”。
その期待が、最後の支えになっている。
だがその時刻、宮殿の大広間では別の準備が進められていた。
玉座の前に、王国紋章の旗が掲げられる。
重々しい鐘が鳴り、廷臣たちが整列する。
「臨時謁見を開く」
触れが走る。
貴族たちはざわつきながらも集まった。
投資王、伯爵レノックスも。財務卿ロデリックも。
リリアーナは玉座に腰を下ろし、静かに口を開く。
「諸侯の皆様。本日、王室は重要な決定をいたしました」
ざわめき。
誰もが、保証の正式発表だと信じている。
「王国経済の健全性を守るため――」
女王は一拍置いた。
「王室監査局を設置いたします」
空気が止まる。
「すべての海外権益、担保資産、関連融資について、即時監査を行います」
静寂。
誰かが小さく息を呑む音が聞こえた。
「これは市場への不信ではありません」
リリアーナは続ける。
「合理性の確認です」
ロデリックが一歩前に出る。
「陛下、それは……市場を混乱させます」
「混乱するのですか?」
「いえ、しかし――」
「合理的な市場なら、監査は歓迎されるはず」
女王の声は穏やかだが、逃げ道を塞ぐ。
「監査が恐ろしいのは、虚偽がある場合のみですわ」
ざわめきが広がる。
レノックスが叫ぶ。
「我々を疑うのですか!」
「疑ってはおりません」
リリアーナは視線を向ける。
「皆様は天才投資家。計算は完璧なのでしょう?」
その言葉は、かつての称賛と同じ響きを持ちながら、今は重く落ちる。
「ならば、確認しても何も失うものはありませんわね」
沈黙。
ロデリックは歯を食いしばる。
「監査の範囲は?」
「第二鉱区を含むすべての南大陸権益。関連資金の流れ。担保評価の算定根拠」
会場の空気が一気に冷える。
「即時、ですか」
「即時です」
女王は静かに告げる。
「本日より」
その瞬間、取引所の鐘が鳴り響いた。
偶然か必然か。
市場が開いたのだ。
だが、今度の鐘は歓声を生まなかった。
誰かが走り込んでくる。
「速報! 王室が監査を宣言!」
ざわめきが波のように広がる。
「どういうことだ?」 「保証ではないのか!」
ロデリックの顔が青ざめる。
彼はすぐに使者に命じた。
「買い支えろ! 価格を維持しろ!」
だが市場は敏感だ。
売り注文がじわりと増える。
数字が、わずかに下がる。
小さな下落。
だが、これまでにない動き。
宮殿では、リリアーナが玉座を立つ。
「監査は公正に行います。虚偽がなければ、何も問題はありません」
その言葉は、救いにも、宣告にも聞こえた。
ロデリックは低く言う。
「陛下は、我々を信じていない」
「信じていますわ」
女王は静かに返す。
「だからこそ、確認いたします」
外では再び鐘が鳴る。
株価はさらに小さく下がった。
取引所前の歓声は消え、代わりにざわめきが広がる。
「押し目だ、押し目だ!」 「慌てるな!」
だが目は、落ち着いていない。
疑念の芽が、はっきりと姿を現した。
地下倉庫。
小麦袋は静かに積み上がり、石炭は揺るがない。
リリアーナは報告を受ける。
「下落幅は小さいです」
「ええ」
「まだ、崩れていません」
「崩れませんわ」
女王は窓の外を見る。
「まだ理屈が支えている」
だが、理屈は重みに耐えられない。
「監査は始まりました」
シルヴィアが静かに告げる。
「はい」
リリアーナは頷く。
「泡に、指先を触れただけです」
取引所の数字が、もう一段、わずかに下がる。
誰もが言い聞かせる。
“問題ない”。
だがその言葉は、昨日より少し弱い。
監査宣言は、黄金の膜に初めて亀裂を入れた。
その朝、王都の空はやけに澄んでいた。
取引所前には、いつものように人が溢れている。掲示板に映るエルドラド株の価格は、わずかな上昇。横ばいと上昇を繰り返しながら、それでもまだ高値圏を保っている。
「問題ない!」 「王室保証の噂がある限り、下がらん!」
誰かが叫ぶと、周囲が頷く。
噂は、すでに確信に近い形で広まっていた。
“女王もついに動く”。
その期待が、最後の支えになっている。
だがその時刻、宮殿の大広間では別の準備が進められていた。
玉座の前に、王国紋章の旗が掲げられる。
重々しい鐘が鳴り、廷臣たちが整列する。
「臨時謁見を開く」
触れが走る。
貴族たちはざわつきながらも集まった。
投資王、伯爵レノックスも。財務卿ロデリックも。
リリアーナは玉座に腰を下ろし、静かに口を開く。
「諸侯の皆様。本日、王室は重要な決定をいたしました」
ざわめき。
誰もが、保証の正式発表だと信じている。
「王国経済の健全性を守るため――」
女王は一拍置いた。
「王室監査局を設置いたします」
空気が止まる。
「すべての海外権益、担保資産、関連融資について、即時監査を行います」
静寂。
誰かが小さく息を呑む音が聞こえた。
「これは市場への不信ではありません」
リリアーナは続ける。
「合理性の確認です」
ロデリックが一歩前に出る。
「陛下、それは……市場を混乱させます」
「混乱するのですか?」
「いえ、しかし――」
「合理的な市場なら、監査は歓迎されるはず」
女王の声は穏やかだが、逃げ道を塞ぐ。
「監査が恐ろしいのは、虚偽がある場合のみですわ」
ざわめきが広がる。
レノックスが叫ぶ。
「我々を疑うのですか!」
「疑ってはおりません」
リリアーナは視線を向ける。
「皆様は天才投資家。計算は完璧なのでしょう?」
その言葉は、かつての称賛と同じ響きを持ちながら、今は重く落ちる。
「ならば、確認しても何も失うものはありませんわね」
沈黙。
ロデリックは歯を食いしばる。
「監査の範囲は?」
「第二鉱区を含むすべての南大陸権益。関連資金の流れ。担保評価の算定根拠」
会場の空気が一気に冷える。
「即時、ですか」
「即時です」
女王は静かに告げる。
「本日より」
その瞬間、取引所の鐘が鳴り響いた。
偶然か必然か。
市場が開いたのだ。
だが、今度の鐘は歓声を生まなかった。
誰かが走り込んでくる。
「速報! 王室が監査を宣言!」
ざわめきが波のように広がる。
「どういうことだ?」 「保証ではないのか!」
ロデリックの顔が青ざめる。
彼はすぐに使者に命じた。
「買い支えろ! 価格を維持しろ!」
だが市場は敏感だ。
売り注文がじわりと増える。
数字が、わずかに下がる。
小さな下落。
だが、これまでにない動き。
宮殿では、リリアーナが玉座を立つ。
「監査は公正に行います。虚偽がなければ、何も問題はありません」
その言葉は、救いにも、宣告にも聞こえた。
ロデリックは低く言う。
「陛下は、我々を信じていない」
「信じていますわ」
女王は静かに返す。
「だからこそ、確認いたします」
外では再び鐘が鳴る。
株価はさらに小さく下がった。
取引所前の歓声は消え、代わりにざわめきが広がる。
「押し目だ、押し目だ!」 「慌てるな!」
だが目は、落ち着いていない。
疑念の芽が、はっきりと姿を現した。
地下倉庫。
小麦袋は静かに積み上がり、石炭は揺るがない。
リリアーナは報告を受ける。
「下落幅は小さいです」
「ええ」
「まだ、崩れていません」
「崩れませんわ」
女王は窓の外を見る。
「まだ理屈が支えている」
だが、理屈は重みに耐えられない。
「監査は始まりました」
シルヴィアが静かに告げる。
「はい」
リリアーナは頷く。
「泡に、指先を触れただけです」
取引所の数字が、もう一段、わずかに下がる。
誰もが言い聞かせる。
“問題ない”。
だがその言葉は、昨日より少し弱い。
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