投資の天才”を名乗る臣民たちよ。 その全財産、確かに受け取った。 我が民のために活かそう』 〜虚飾を砕く女王の経済鉄槌〜

しおしお

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第十五話 嵐は南から

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第十五話 嵐は南から

 監査局の紋章を掲げた馬車が港へ向かったのは、まだ朝靄の残る刻限だった。

 王都はいつも通り目覚めている。パン屋は窯を開け、新聞売りは声を張り上げる。だが見出しは昨日と違った。

 ――王室、南大陸権益を即時監査。

 文字は小さくない。むしろ大きい。

 港では、帆を下ろした商船が静かに揺れていた。南大陸から戻ったという最新の便だ。船腹に描かれた紋章は、エルドラド社のもの。

 監査官が乗り込む。

「貨物目録を」

「提出済みです」

 船長は汗を拭う。目録には、銅鉱石と記されている。だが木箱の封を切ると、中から出てきたのは半分の量。残りは砂袋で嵩を増している。

「これは輸送中の事故で……」

「事故で砂が入るのですか?」

 監査官の声は淡々としている。

 別の箱を開ける。

 空。

 帳簿には満載とある。

 港の空気が、静かに冷える。

 同じ頃、宮殿。

 シルヴィアが報告書を手に入室する。

「第一便、数量不一致。第二便、未確認。第三便、所在不明」

 リリアーナは目を閉じる。

「所在不明」

「嵐のためと報告されていますが、南海は凪です」

 女王は小さく息を吐く。

「嵐は、南からではありませんわね」

 それは宮殿の外で起きている。

 取引所。

 朝の鐘が鳴る。

 数字が表示される。

 エルドラド株、下落。

 昨日よりも明確な下げ。

「一時的だ!」 「監査が終われば戻る!」

 声は大きいが、足元は落ち着かない。

 売りが増える。

 買いが減る。

 価格が、もう一段落ちる。

 ロデリックは執務室で拳を握った。

「買い支えろ!」

「資金が……」

「王室保証はまだ出ていない!」

「だからこそです!」

 沈黙。

 保証がない。

 監査は始まった。

 そして港では、箱が開かれている。

 ロデリックは唇を噛む。

「第二鉱区の代表を呼べ」

「連絡がつきません」

 その一言が、空気を変えた。

 宮殿では、リリアーナが次の命を出す。

「港を封鎖します」

「封鎖、ですか」

「不一致が確認された以上、資産評価は一時凍結」

「市場が揺れます」

「揺れるのは、真実が出たからです」

 窓の外、遠くで鐘が鳴る。

 取引所の。

 価格が、さらに落ちた。

 ざわめきが悲鳴に変わる。

「売れ!」 「待て、戻る!」

 理屈が崩れ始める。

 昨日までの自信は、数字に支えられていた。

 だが数字が崩れると、理屈も崩れる。

 港。

 監査官が最後の箱を閉じる。

「報告を急げ」

 伝令が馬を飛ばす。

 宮殿へ。

 その途中、取引所前を通る。

 群衆はすでに混乱している。

 価格は、もう一段。

 老商人は静かに呟く。

「嵐だ」

 だが空は晴れている。

 嵐は南からではない。

 信頼からだ。

 宮殿。

 リリアーナは報告を受け取る。

「数量不足、虚偽記載、所在不明」

 紙を閉じる。

「発表を」

「即時に?」

「即時に」

 やがて王都に布告が貼られる。

 ――南大陸権益に重大な不一致を確認。評価を再算定する。

 文字は簡潔。

 だが重い。

 取引所。

 鐘が鳴る。

 価格が跳ねる。

 下へ。

 悲鳴が上がる。

「王室が裏切った!」 「いや、虚偽があったのだ!」

 誰も確信はない。

 だが確かなのは、下がっているという事実。

 ロデリックは窓を見つめる。

 額に汗が滲む。

 レノックスは蒼白だ。

「一時的だ……一時的だ……」

 その声は、自分に向けたものだった。

 地下倉庫。

 小麦は動かない。

 石炭も動かない。

 リリアーナは静かに言う。

「嵐は始まりました」

 シルヴィアが頷く。

「まだ本格的ではありません」

「ええ」

 女王は窓を閉める。

「ですが、風向きは変わりましたわ」

 取引所の数字が、さらに沈む。

 黄金色の膜は、もう光を保てない。

 嵐は、南からではない。

 虚偽から吹き上がっている。
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