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第十六話 担保という鎖
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第十六話 担保という鎖
王都の朝は、いつもより静かだった。
新聞売りの声も、どこか湿っている。
――エルドラド株、評価再算定へ。
その文字は、昨日よりもはっきりとした不安を帯びていた。
取引所前に集まる人々の表情は、明らかに違う。
昨日までは強がりがあった。
今日は、祈りだ。
「戻るはずだ」 「王室が保証するに決まっている」
その言葉の後に続くのは、沈黙。
価格が表示される。
下落。
昨日よりも深く。
売りが連鎖する。
「待て、待て!」
叫び声が飛ぶが、数字は止まらない。
宮殿では、ロデリックが重い足取りで謁見の間へ向かっていた。
顔色は青白い。
「陛下」
玉座に座るリリアーナは、穏やかな視線を向ける。
「財務卿」
「市場が混乱しております」
「承知しております」
「評価再算定は、過剰反応を招きます」
「虚偽があるなら、当然ですわ」
ロデリックは息を詰まらせる。
「担保の価値が急落すれば、融資が回収されます」
「それは契約ですもの」
「領地が、没収される貴族も出ます」
「担保に差し出したのは、ご本人でしょう?」
静かな言葉。
だが刃のように鋭い。
「陛下は……お分かりではない」
「何を?」
「彼らは王国を支えているのです!」
リリアーナは、わずかに首を傾げる。
「支えているのは、担保ですか? それとも虚飾ですか?」
ロデリックは言葉を失う。
その時、侍従が駆け込んだ。
「急報! 王都銀行、担保再評価を発表!」
空気が凍る。
担保再評価。
つまり、エルドラド株を担保にしていた融資の価値が下がる。
宮殿の外、銀行前にはすでに列ができていた。
「融資の追加保証を!」
「期限を延ばせ!」
だが銀行は冷たい。
「契約通りです」
契約。
その言葉が、鎖のように絡みつく。
担保価値が下がれば、追加保証。
出せなければ、差し押さえ。
伯爵レノックスは執務室で書類を握りしめる。
「追加保証……?」
差し出せるものは、すでにエルドラド株。
そして領地。
屋敷。
馬車。
宝飾品。
「嘘だ……戻るはずだ」
だが価格はさらに下がる。
取引所の鐘が、やけに響く。
数字が赤く染まる。
悲鳴が上がる。
担保が、鎖に変わる。
宮殿。
リリアーナは次の命を出す。
「王国金融庁に通達」
「内容は?」
「担保評価は市場価格に基づくこと」
「緩和は?」
「ありません」
シルヴィアが静かに言う。
「救済の声が上がります」
「聞きましょう」
「ですが?」
「救いは、虚偽を守るためではありませんわ」
地下倉庫。
小麦は静かに積まれ、石炭は動かない。
実体は、揺れない。
揺れているのは、数字。
夕刻。
王都銀行が最初の差し押さえを発表した。
レノックス伯爵家。
領地の一部が国庫管理下に移る。
群衆がざわめく。
「伯爵が?」
「投資の天才が?」
伯爵は屋敷の書斎で崩れ落ちる。
「一時的だ……一時的だ……」
だが担保は待たない。
期限は明日。
価格は今日下がる。
ロデリックは再び女王の前に立つ。
「陛下、どうか……市場安定策を」
「安定は、実体から生まれます」
「今は信頼が必要です!」
「信頼は虚偽からは生まれませんわ」
静かな断言。
「担保は鎖です」
リリアーナは言う。
「自ら巻き付けた鎖を、わたくしに外せと?」
ロデリックは何も言えない。
取引所の数字が、また一段沈む。
鎖がきしむ音が、王都中に響いているようだった。
担保という名の鎖は、確実に締まり始めている。
王都の朝は、いつもより静かだった。
新聞売りの声も、どこか湿っている。
――エルドラド株、評価再算定へ。
その文字は、昨日よりもはっきりとした不安を帯びていた。
取引所前に集まる人々の表情は、明らかに違う。
昨日までは強がりがあった。
今日は、祈りだ。
「戻るはずだ」 「王室が保証するに決まっている」
その言葉の後に続くのは、沈黙。
価格が表示される。
下落。
昨日よりも深く。
売りが連鎖する。
「待て、待て!」
叫び声が飛ぶが、数字は止まらない。
宮殿では、ロデリックが重い足取りで謁見の間へ向かっていた。
顔色は青白い。
「陛下」
玉座に座るリリアーナは、穏やかな視線を向ける。
「財務卿」
「市場が混乱しております」
「承知しております」
「評価再算定は、過剰反応を招きます」
「虚偽があるなら、当然ですわ」
ロデリックは息を詰まらせる。
「担保の価値が急落すれば、融資が回収されます」
「それは契約ですもの」
「領地が、没収される貴族も出ます」
「担保に差し出したのは、ご本人でしょう?」
静かな言葉。
だが刃のように鋭い。
「陛下は……お分かりではない」
「何を?」
「彼らは王国を支えているのです!」
リリアーナは、わずかに首を傾げる。
「支えているのは、担保ですか? それとも虚飾ですか?」
ロデリックは言葉を失う。
その時、侍従が駆け込んだ。
「急報! 王都銀行、担保再評価を発表!」
空気が凍る。
担保再評価。
つまり、エルドラド株を担保にしていた融資の価値が下がる。
宮殿の外、銀行前にはすでに列ができていた。
「融資の追加保証を!」
「期限を延ばせ!」
だが銀行は冷たい。
「契約通りです」
契約。
その言葉が、鎖のように絡みつく。
担保価値が下がれば、追加保証。
出せなければ、差し押さえ。
伯爵レノックスは執務室で書類を握りしめる。
「追加保証……?」
差し出せるものは、すでにエルドラド株。
そして領地。
屋敷。
馬車。
宝飾品。
「嘘だ……戻るはずだ」
だが価格はさらに下がる。
取引所の鐘が、やけに響く。
数字が赤く染まる。
悲鳴が上がる。
担保が、鎖に変わる。
宮殿。
リリアーナは次の命を出す。
「王国金融庁に通達」
「内容は?」
「担保評価は市場価格に基づくこと」
「緩和は?」
「ありません」
シルヴィアが静かに言う。
「救済の声が上がります」
「聞きましょう」
「ですが?」
「救いは、虚偽を守るためではありませんわ」
地下倉庫。
小麦は静かに積まれ、石炭は動かない。
実体は、揺れない。
揺れているのは、数字。
夕刻。
王都銀行が最初の差し押さえを発表した。
レノックス伯爵家。
領地の一部が国庫管理下に移る。
群衆がざわめく。
「伯爵が?」
「投資の天才が?」
伯爵は屋敷の書斎で崩れ落ちる。
「一時的だ……一時的だ……」
だが担保は待たない。
期限は明日。
価格は今日下がる。
ロデリックは再び女王の前に立つ。
「陛下、どうか……市場安定策を」
「安定は、実体から生まれます」
「今は信頼が必要です!」
「信頼は虚偽からは生まれませんわ」
静かな断言。
「担保は鎖です」
リリアーナは言う。
「自ら巻き付けた鎖を、わたくしに外せと?」
ロデリックは何も言えない。
取引所の数字が、また一段沈む。
鎖がきしむ音が、王都中に響いているようだった。
担保という名の鎖は、確実に締まり始めている。
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