投資の天才”を名乗る臣民たちよ。 その全財産、確かに受け取った。 我が民のために活かそう』 〜虚飾を砕く女王の経済鉄槌〜

しおしお

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第十七話 連鎖

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第十七話 連鎖

 朝の鐘が鳴る前から、王都銀行の前には長い列ができていた。

 貴族だけではない。商人、職人、投資家。誰もが同じ顔をしている。

 ――不安。

「まだ持ちこたえる」 「王室が動く」

 その言葉は、もはや呪文に近い。

 だが銀行の扉は重く閉じられたままだ。

 中では、帳簿が次々に書き換えられている。

「担保不足、追加保証未提出」

「期限到来」

 乾いた声が響く。

 最初の差し押さえが発表される。

 レノックス伯爵家に続き、二家目、三家目。

 それは連鎖の始まりだった。

 取引所。

 価格はさらに沈む。

 売りが売りを呼ぶ。

「逃げろ!」 「まだ間に合う!」

 昨日までの誇りは消え、ただの数字の海に溺れる群衆がいる。

 老商人は静かに言う。

「連鎖だ」

 誰も反論しない。

 宮殿。

 シルヴィアが報告する。

「差し押さえ件数、増加中。地方銀行も同様の動き」

「中央だけでは止まりませんわね」

「はい」

 リリアーナは窓の外を見る。

 王都はいつもと同じ景色。

 だが空気は重い。

「次は?」

「商会連合が、資金引き揚げを検討中」

 それは致命的だ。

 投資資金が引き上げられれば、価格はさらに落ちる。

「彼らは合理的です」

「合理的、ですか」

「ええ」

 合理性は、冷酷だ。

 宮殿の一室。

 ロデリックは汗を拭う。

「買い支えは?」

「資金が尽きつつあります」

「王室保証は!」

「女王陛下は監査優先のご判断を」

 拳が机を叩く。

「これでは崩壊する!」

 その言葉は、ようやく本音だった。

 同時刻、地方の領地。

 差し押さえの通達が届く。

 農民たちがざわめく。

「領主様は?」

「王都へ行かれた」

 戻らない。

 連鎖は、王都から地方へ広がる。

 取引所。

 鐘が鳴る。

 価格が、ついに半値を割る。

 悲鳴が上がる。

 誰かが倒れる。

 医師が駆け寄る。

「まだ底ではない!」

 誰かが叫ぶ。

 だが底を知る者はいない。

 地下倉庫。

 小麦は動かない。

 石炭も揺れない。

 実体はそこにある。

 揺れているのは、信用。

 宮殿。

 リリアーナは静かに告げる。

「流動性支援の準備を」

「救済ですか」

「ええ。ただし条件付きで」

「条件とは?」

「実体資産を持つ者のみ」

 虚飾ではなく、現物。

 空ではなく、地面。

 シルヴィアは頷く。

「それでは、投機層は救われません」

「投機は自らの判断ですわ」

 夕刻。

 王都銀行が追加発表を行う。

 商会連合が一部資金を引き揚げ。

 市場はさらに崩れる。

 数字が滑り落ちる。

 誰も止められない。

 ロデリックは呟く。

「連鎖が止まらない……」

 彼の目には、初めて恐怖が宿る。

 理屈は崩れた。

 今は本能。

 売るか、逃げるか。

 だが逃げ場はない。

 担保という鎖が、連鎖という波を呼び、王都を飲み込もうとしている。

 リリアーナは机に手を置く。

「嵐ではありません」

 静かに言う。

「これは、計算の帰結です」

 外では、鐘がまた鳴った。

 その音は、もはや祝砲ではない。

 崩落の合図だった。
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