投資の天才”を名乗る臣民たちよ。 その全財産、確かに受け取った。 我が民のために活かそう』 〜虚飾を砕く女王の経済鉄槌〜

しおしお

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第十八話 底なし

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第十八話 底なし

 夜明け前の王都は、妙に静まり返っていた。

 昨日まで鳴り止まなかった取引所のざわめきも、今は沈んでいる。

 嵐の前の静けさではない。

 嵐の後の、呆然だ。

 だが鐘は鳴る。

 開場の合図。

 数字が表示される。

 そして、沈む。

 昨日の半値を割った株は、さらに落ちる。

「底だ、ここが底だ!」

 誰かが叫ぶ。

 だがその声は、祈りに近い。

 売りが止まらない。

 買い手は、ほとんどいない。

 合理的な市場は、合理的に見切る。

 宮殿。

 リリアーナは報告書を受け取る。

「王都銀行、流動性不足」

「地方銀行も?」

「はい。連鎖的に」

 担保再評価は、ただの紙の動きではなかった。

 融資が引き揚げられ、資金が凍る。

 商会連合が最後の声明を出す。

 ――投機的資産への新規融資停止。

 それは事実上の宣告だった。

 ロデリックは顔色を失っている。

「陛下、これでは……」

「ええ」

 リリアーナは静かに言う。

「底が抜けます」

 取引所。

 価格が、さらに落ちる。

 昨日まで天才と呼ばれた投資家たちが、紙を握りしめて立ち尽くす。

「保証は?」 「女王は動くはずだ!」

 だが保証は出ない。

 出るのは、監査結果。

 第二鉱区、実在確認不能。

 第三鉱区、未開発。

 海外権益の価値、大幅減額。

 掲示板に貼られた公文書を、群衆が読み上げる。

「嘘だ……」 「そんなはずは……」

 だが数字は正直だ。

 価格は、もうほとんど紙くずに近い。

 王都銀行の前で、ある貴族が叫ぶ。

「我が家は代々、王国に尽くしてきた!」

 だが担保は、感情を知らない。

 差し押さえ。

 屋敷の門に、国庫管理の印が押される。

 連鎖は止まらない。

 宮殿地下。

 小麦袋が整然と積まれている。

 石炭の山は崩れない。

 リリアーナはその前に立つ。

「これが実体です」

 シルヴィアが言う。

「王都では、食料不足の噂も出ています」

「放置はいたしません」

「配給を?」

「必要な分だけ」

 市場は崩れても、生活は守る。

 それが王の役目。

 夕刻。

 取引所の鐘が鳴る。

 終値。

 エルドラド株、ほぼ無価値。

 誰も歓声を上げない。

 静かな沈黙。

 ロデリックは窓から王都を見下ろす。

「終わった……」

 その声は、諦めだった。

 リリアーナは執務室で最後の報告を受ける。

「主要銀行三行、実質破綻」

「国庫の余力は?」

「持ちます」

 女王は目を閉じる。

「底なしではありませんわ」

 静かに言う。

「底はあります」

 ただ、その底は、誰も見たくなかった場所。

 虚飾が剥がれ、実体だけが残る。

 王都は、初めて現実に立たされた。

 鐘が鳴る。

 だがそれはもう、投機の鐘ではない。

 清算の鐘だった。
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