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第十九話 清算
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第十九話 清算
崩落の翌朝、王都は異様な静けさに包まれていた。
取引所前に集まる人影はまばらだ。昨日まで叫び声を上げていた者たちが、今日は視線を落としている。
掲示板には、赤く沈んだ数字がそのまま残っている。
動かない。
買いも売りも、ほとんどない。
終わったのだ。
投機の熱は消え、残ったのは冷たい現実だけ。
王都銀行の前では、差し押さえの通達が次々と読み上げられる。
「レノックス伯爵家、領地管理権一時移譲」 「ハワード商会、資産凍結」
紙がめくられる音が、やけに大きい。
感情はそこにない。
契約だけが進む。
宮殿。
リリアーナは長机に広げられた一覧を見ていた。
「破綻銀行三行、国庫管理下へ」 「地方支店は営業停止」
シルヴィアが報告する。
「預金者の生活資金は守られますか」
「優先順位を設定しました。生活資金は保護。投機的融資は対象外」
冷たいようで、冷たくない。
守るべきものを守る。
それが清算。
ロデリックは立ち尽くしている。
「陛下……我々は失敗した」
「虚偽があった以上、帰結は必然です」
「私は……止められなかった」
リリアーナは視線を上げる。
「止める立場でしたのに?」
ロデリックは何も言えない。
取引所では、最後の取引が行われる。
わずかな金額で、株が投げ売られる。
紙束を抱えた若い投資家が崩れ落ちる。
「全部……全部だ」
老商人が肩を叩く。
「市場は教える。遅いが、必ず」
教訓は高くついた。
地方の領地。
差し押さえられた屋敷の前で、農民たちが不安げに集まる。
「新しい管理者は?」
「国庫から派遣されるらしい」
混乱はある。
だが暴動は起きない。
食料は供給され、炭は配られる。
地下倉庫の備蓄が、静かに役目を果たす。
宮殿。
リリアーナは布告を整える。
「破綻金融機関の整理統合法」
「今、ですか」
「今です」
清算は途中で止めない。
曖昧さは、次の泡を生む。
ロデリックが顔を上げる。
「陛下は……最初から分かっていたのですか」
「分かっていたのは、理屈だけです」
「理屈?」
「担保は実体を超えられない。虚偽は永遠ではない」
静かな言葉。
「市場は合理的ですわ。ならば、虚偽は切り捨てられる」
夕刻。
王都に正式布告が貼られる。
――破綻銀行の整理開始。国庫管理下で再編。
民衆は読み、ざわめく。
だが混乱はない。
疲労と諦念が、街を包む。
ロデリックは宮殿の階段を降りながら呟く。
「清算……」
それは終わりであり、始まりでもある。
リリアーナは玉座に戻る。
静かに目を閉じる。
「底は見えました」
シルヴィアが問う。
「これで終わりですか」
「いいえ」
女王は目を開ける。
「清算は、秩序を取り戻すための第一歩です」
虚飾は剥がれ落ちた。
残ったのは、実体と責任。
王都の鐘が鳴る。
それはもう、崩落の音ではない。
整理の合図だった。
崩落の翌朝、王都は異様な静けさに包まれていた。
取引所前に集まる人影はまばらだ。昨日まで叫び声を上げていた者たちが、今日は視線を落としている。
掲示板には、赤く沈んだ数字がそのまま残っている。
動かない。
買いも売りも、ほとんどない。
終わったのだ。
投機の熱は消え、残ったのは冷たい現実だけ。
王都銀行の前では、差し押さえの通達が次々と読み上げられる。
「レノックス伯爵家、領地管理権一時移譲」 「ハワード商会、資産凍結」
紙がめくられる音が、やけに大きい。
感情はそこにない。
契約だけが進む。
宮殿。
リリアーナは長机に広げられた一覧を見ていた。
「破綻銀行三行、国庫管理下へ」 「地方支店は営業停止」
シルヴィアが報告する。
「預金者の生活資金は守られますか」
「優先順位を設定しました。生活資金は保護。投機的融資は対象外」
冷たいようで、冷たくない。
守るべきものを守る。
それが清算。
ロデリックは立ち尽くしている。
「陛下……我々は失敗した」
「虚偽があった以上、帰結は必然です」
「私は……止められなかった」
リリアーナは視線を上げる。
「止める立場でしたのに?」
ロデリックは何も言えない。
取引所では、最後の取引が行われる。
わずかな金額で、株が投げ売られる。
紙束を抱えた若い投資家が崩れ落ちる。
「全部……全部だ」
老商人が肩を叩く。
「市場は教える。遅いが、必ず」
教訓は高くついた。
地方の領地。
差し押さえられた屋敷の前で、農民たちが不安げに集まる。
「新しい管理者は?」
「国庫から派遣されるらしい」
混乱はある。
だが暴動は起きない。
食料は供給され、炭は配られる。
地下倉庫の備蓄が、静かに役目を果たす。
宮殿。
リリアーナは布告を整える。
「破綻金融機関の整理統合法」
「今、ですか」
「今です」
清算は途中で止めない。
曖昧さは、次の泡を生む。
ロデリックが顔を上げる。
「陛下は……最初から分かっていたのですか」
「分かっていたのは、理屈だけです」
「理屈?」
「担保は実体を超えられない。虚偽は永遠ではない」
静かな言葉。
「市場は合理的ですわ。ならば、虚偽は切り捨てられる」
夕刻。
王都に正式布告が貼られる。
――破綻銀行の整理開始。国庫管理下で再編。
民衆は読み、ざわめく。
だが混乱はない。
疲労と諦念が、街を包む。
ロデリックは宮殿の階段を降りながら呟く。
「清算……」
それは終わりであり、始まりでもある。
リリアーナは玉座に戻る。
静かに目を閉じる。
「底は見えました」
シルヴィアが問う。
「これで終わりですか」
「いいえ」
女王は目を開ける。
「清算は、秩序を取り戻すための第一歩です」
虚飾は剥がれ落ちた。
残ったのは、実体と責任。
王都の鐘が鳴る。
それはもう、崩落の音ではない。
整理の合図だった。
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