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第二十一話 暴露
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第二十一話 暴露
王都に、紙片が舞った。
白い紙だ。
豪奢な羊皮紙ではない。安価な、だが大量に刷られた紙。
そこに記された文字は、簡潔だった。
――第二鉱区、未開発。 ――第三鉱区、契約無効。 ――南大陸権益、実在確認不能。
取引所前で、それを拾った青年が震える。
「嘘だろ……」
誰かが奪い取り、読み上げる。
ざわめきが波のように広がる。
「王室監査報告書だ」 「印章がある……本物だ」
王室の封蝋。
紛れもない公式文書。
宮殿では、リリアーナがその配布を許可していた。
「隠す必要はございません」
シルヴィアが頷く。
「市場は、真実を知ります」
「知るべきです」
虚偽は、もう守らない。
ロデリックはその写しを握りしめていた。
「公開する必要があったのですか」
「必要です」
女王の声は静かだ。
「監査は国の責任。結果も国の責任」
「これで完全に信頼は失われます」
「虚偽に支えられた信頼なら、失うべきですわ」
取引所。
掲示板の前に人だかりができる。
価格は、すでにほぼ無価値。
だが紙片は、最後の幻想を砕いた。
「実在しない……?」 「鉱山が……ない?」
怒号が上がる。
「財務卿は知っていたのか!」 「誰が保証した!」
怒りの矛先が、定まらない。
だが名は挙がる。
エルドラド。
ロデリック。
そして、投機を煽った貴族たち。
港では、監査官が追加報告を受け取る。
「契約書、偽造確認」
印章が微妙に異なる。
書式が古い。
だが投機の熱狂は、それを見なかった。
宮殿の大広間。
緊急会議が開かれる。
貴族たちの顔は青ざめている。
「これは捏造だ!」 「南大陸の商人が裏切った!」
叫びが飛ぶ。
リリアーナは立ち上がる。
「報告書は監査官の署名付きです」
「しかし!」
「証拠も添付しております」
沈黙。
「虚偽は、どこから始まりましたか」
問いは重い。
誰も答えない。
ロデリックが、ゆっくりと口を開く。
「……市場の期待に応えたかった」
「期待に、虚偽で?」
女王の視線が刺さる。
「止められなかったのです」
「止める立場でしたのに」
広間の空気が凍る。
外では、怒号が響く。
取引所前に群衆が集まり、エルドラドの看板が引き倒される。
石が投げられる。
だが兵は動かない。
リリアーナは命じていた。
「鎮圧は不要。暴動は起きません」
「なぜ?」
「怒りは、対象を失えば収まります」
虚偽はすでに崩れた。
残るのは空虚。
夕刻。
王都に正式布告が貼られる。
――監査結果を受け、関係者の責任を追及する。
その一文が、次の段階を告げる。
ロデリックは広間を出る。
足取りは重い。
彼は知っている。
自分も、対象だ。
リリアーナは窓辺に立つ。
王都はざわめいている。
だが暴徒の波は広がらない。
「真実は痛みます」
シルヴィアが言う。
「ええ」
女王は答える。
「ですが、痛みなくして清算はありません」
紙片は、風に舞い、石畳に落ちる。
虚飾は暴露された。
次に来るのは、責任。
王都に、紙片が舞った。
白い紙だ。
豪奢な羊皮紙ではない。安価な、だが大量に刷られた紙。
そこに記された文字は、簡潔だった。
――第二鉱区、未開発。 ――第三鉱区、契約無効。 ――南大陸権益、実在確認不能。
取引所前で、それを拾った青年が震える。
「嘘だろ……」
誰かが奪い取り、読み上げる。
ざわめきが波のように広がる。
「王室監査報告書だ」 「印章がある……本物だ」
王室の封蝋。
紛れもない公式文書。
宮殿では、リリアーナがその配布を許可していた。
「隠す必要はございません」
シルヴィアが頷く。
「市場は、真実を知ります」
「知るべきです」
虚偽は、もう守らない。
ロデリックはその写しを握りしめていた。
「公開する必要があったのですか」
「必要です」
女王の声は静かだ。
「監査は国の責任。結果も国の責任」
「これで完全に信頼は失われます」
「虚偽に支えられた信頼なら、失うべきですわ」
取引所。
掲示板の前に人だかりができる。
価格は、すでにほぼ無価値。
だが紙片は、最後の幻想を砕いた。
「実在しない……?」 「鉱山が……ない?」
怒号が上がる。
「財務卿は知っていたのか!」 「誰が保証した!」
怒りの矛先が、定まらない。
だが名は挙がる。
エルドラド。
ロデリック。
そして、投機を煽った貴族たち。
港では、監査官が追加報告を受け取る。
「契約書、偽造確認」
印章が微妙に異なる。
書式が古い。
だが投機の熱狂は、それを見なかった。
宮殿の大広間。
緊急会議が開かれる。
貴族たちの顔は青ざめている。
「これは捏造だ!」 「南大陸の商人が裏切った!」
叫びが飛ぶ。
リリアーナは立ち上がる。
「報告書は監査官の署名付きです」
「しかし!」
「証拠も添付しております」
沈黙。
「虚偽は、どこから始まりましたか」
問いは重い。
誰も答えない。
ロデリックが、ゆっくりと口を開く。
「……市場の期待に応えたかった」
「期待に、虚偽で?」
女王の視線が刺さる。
「止められなかったのです」
「止める立場でしたのに」
広間の空気が凍る。
外では、怒号が響く。
取引所前に群衆が集まり、エルドラドの看板が引き倒される。
石が投げられる。
だが兵は動かない。
リリアーナは命じていた。
「鎮圧は不要。暴動は起きません」
「なぜ?」
「怒りは、対象を失えば収まります」
虚偽はすでに崩れた。
残るのは空虚。
夕刻。
王都に正式布告が貼られる。
――監査結果を受け、関係者の責任を追及する。
その一文が、次の段階を告げる。
ロデリックは広間を出る。
足取りは重い。
彼は知っている。
自分も、対象だ。
リリアーナは窓辺に立つ。
王都はざわめいている。
だが暴徒の波は広がらない。
「真実は痛みます」
シルヴィアが言う。
「ええ」
女王は答える。
「ですが、痛みなくして清算はありません」
紙片は、風に舞い、石畳に落ちる。
虚飾は暴露された。
次に来るのは、責任。
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