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第三十一話 寄付
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第三十一話 寄付
王都の中央広場に、新しい石碑が建てられた。
豪奢ではない。
白い石に、簡素な文字が刻まれている。
――王国再建記念。
その下に、さらに小さく。
――本計画は、特権階級による多大な“寄付”により実現された。
広場に集まった民衆の間で、控えめな笑いが起きる。
嘲笑ではない。
皮肉だ。
かつて「投資の天才」を自称していた者たちが、いまや再建の礎として名を刻まれている。
もちろん、本人たちの望んだ形ではない。
宮殿のバルコニー。
リリアーナが静かに広場を見下ろしている。
隣にシルヴィア。
「石碑は、必要でしたか」
「記憶は、制度より長く残ります」
女王は答える。
「忘れれば、また泡が立ちます」
広場では、再建事業の報告が読み上げられていた。
「港湾拡張、完了」 「地方医療院、開院」 「王立商業学校、二校目設立」
拍手が起きる。
派手ではない。
だが温かい。
元伯爵レノックスは、その人混みの後方に立っていた。
作業着姿。
広場の石畳補修に携わった一人だ。
石碑を見上げる。
自分の名は刻まれていない。
だが“特権階級”という一括りに含まれている。
彼は小さく息を吐く。
「寄付、か」
自嘲ではない。
事実の受容。
近くにいた少年が言う。
「これ、どういう意味?」
父親が答える。
「昔の偉い人たちが、失敗したってことだ」
少年は首を傾げる。
「じゃあ、悪い人?」
父は少し考えてから言う。
「間違えた人だ」
それが、成熟だった。
宮殿。
再建後初の財政報告が提出される。
「歳入、安定的増加」 「公共投資、継続可能水準」
財務卿代理が静かに言う。
「泡の時代より、数字は小さいです」
「ですが、実在します」
リリアーナは頷く。
虚飾の膨張はない。
だが崩落の恐怖もない。
夕刻。
広場の石碑の前に、小さな花束が置かれていた。
誰が置いたのかは分からない。
おそらく、再建に救われた誰か。
あるいは、失った誰か。
シルヴィアが呟く。
「陛下は、恨まれておりますか」
「もちろん」
リリアーナは微笑む。
「ですが、それで結構です」
虚偽を砕く王は、好かれない。
だが必要だ。
広場の灯りがともる。
石碑は静かに立っている。
泡は消えた。
代わりに、記憶が残る。
寄付。
皮肉な言葉。
だが真実。
王国は、虚飾ではなく、失敗から築き直された。
それが刻まれた日だった。
王都の中央広場に、新しい石碑が建てられた。
豪奢ではない。
白い石に、簡素な文字が刻まれている。
――王国再建記念。
その下に、さらに小さく。
――本計画は、特権階級による多大な“寄付”により実現された。
広場に集まった民衆の間で、控えめな笑いが起きる。
嘲笑ではない。
皮肉だ。
かつて「投資の天才」を自称していた者たちが、いまや再建の礎として名を刻まれている。
もちろん、本人たちの望んだ形ではない。
宮殿のバルコニー。
リリアーナが静かに広場を見下ろしている。
隣にシルヴィア。
「石碑は、必要でしたか」
「記憶は、制度より長く残ります」
女王は答える。
「忘れれば、また泡が立ちます」
広場では、再建事業の報告が読み上げられていた。
「港湾拡張、完了」 「地方医療院、開院」 「王立商業学校、二校目設立」
拍手が起きる。
派手ではない。
だが温かい。
元伯爵レノックスは、その人混みの後方に立っていた。
作業着姿。
広場の石畳補修に携わった一人だ。
石碑を見上げる。
自分の名は刻まれていない。
だが“特権階級”という一括りに含まれている。
彼は小さく息を吐く。
「寄付、か」
自嘲ではない。
事実の受容。
近くにいた少年が言う。
「これ、どういう意味?」
父親が答える。
「昔の偉い人たちが、失敗したってことだ」
少年は首を傾げる。
「じゃあ、悪い人?」
父は少し考えてから言う。
「間違えた人だ」
それが、成熟だった。
宮殿。
再建後初の財政報告が提出される。
「歳入、安定的増加」 「公共投資、継続可能水準」
財務卿代理が静かに言う。
「泡の時代より、数字は小さいです」
「ですが、実在します」
リリアーナは頷く。
虚飾の膨張はない。
だが崩落の恐怖もない。
夕刻。
広場の石碑の前に、小さな花束が置かれていた。
誰が置いたのかは分からない。
おそらく、再建に救われた誰か。
あるいは、失った誰か。
シルヴィアが呟く。
「陛下は、恨まれておりますか」
「もちろん」
リリアーナは微笑む。
「ですが、それで結構です」
虚偽を砕く王は、好かれない。
だが必要だ。
広場の灯りがともる。
石碑は静かに立っている。
泡は消えた。
代わりに、記憶が残る。
寄付。
皮肉な言葉。
だが真実。
王国は、虚飾ではなく、失敗から築き直された。
それが刻まれた日だった。
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