封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう

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105 俺は魔王を信頼し、魔王は俺を信頼する

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「……魔王か」
「我だ」
歯噛みする俺を悠然と見下ろす魔王がいた。手には魔剣アドノスが握られている。まがまがしい魔力だった。
「どうやら決着は我の勝ちのようだな」
魔王は俺を見下ろしながら言った。
「どういう意味だ。俺との勝負のことを言っているのか」
「うむ。この間よりずっと弱そうだ」
「まだ勝負していないうちから決めるな」
「勝負せずともわかるわ。弱音など弱い者が吐くもの」
「盗み聞きとは趣味が悪いな」
「大きい声で泣きわめくものだから嫌でも聞こえてきたわ」
「見えんのかあの太陽を隠すでかい影を! 節穴か! 無理だろうあんなのは!」
「貴様には無理だ。我には可能! つまり我の方が貴様より強い!」
「寝言は寝て言え」
こんなところで魔王に無様な姿をさらすわけにはいかない。俺は全身の痛みに耐えながら立ち上がった。精霊王の剣を振るい、落ちてくる流れ星を次々切り刻んでいく。
「俺の方が強いに決まっている」
「我の方が強い」
魔王も《魔弾》で火の玉を次々に撃ち落としていく。
「ここからでも星の裏側に落ちる可能性のある化け物を倒せるほどの射程だ。放物線を描くようにして《魔弾》を飛ばせばこの星全土が射程になる。貴様にはできまい」
「俺には空間を超えて魔力ごと切る『精霊王の剣』がある」
「剣がないと何もできないアホがほざいておるわ」
「お前も剣持ってるだろうが! どうせ魔法の強化もその剣のおかげだろうが!」
「出力を絞って誰も殺さずに魔力だけいただいてきたのよ。我の力ぞ」
「剣の力だろう」
「雑魚にはできん」
「あ?」
「なんだ?」
火の玉を散らしながら、わずかに空いた時間で俺たちはにらみ合う。
「う、嘘だろう……!」
ゼビカが次々撃ち落とされ切り刻まれていく星外獣の火の玉を見上げながら言った。
「第二波より数が多く巨大で強力な、星外獣の本隊が落ちてきているんだぞ! 一つ一つが『グラビテック結晶』を備えているほどの巨大で強固な個体のはずが……こいつら、たった二人で、すべて撃ち落としていっているというのか!?」
ゼビカが言っているが、どうでもいい。それよりこの魔王は、何か裏があって俺たちを助けに来たに違いない。
「この星全土が射程ならば、なぜ魔界から出る必要があった。また何か企んでいるのだろう」
「でかい獲物はクインタイルに落ちると冒険者協会の掲示板で触れ回っている馬鹿がおったわ。その情報をもとに、その一番でかいのを倒しに来てやったのよ」
「そういえば貴様も冒険者証を持っていたな。最低ランクだが。しかしどんな風の吹き回しだ」
「ふははは!」
ようやく聞いてくれたとばかりに魔王は胸を張った。
「喜べ。我は、人間どもの救世主になりにきたのだ」
「何?」
「貴様のような英雄と呼ばれる者でさえ倒せない強敵を倒し人類を救えば、我は新たな英雄として祭り上げられるであろう。人間は肩書や力を持った者の言葉に弱い……であろう?『奇跡を起こした英雄』とかいう絶大な肩書を持った者に我がなれば、人心の掌握などたやすいことよ」
「人間側の土地や資源を乗っ取る方法を変えてきたということか。侵略から、人心掌握へ」
「左様。脅威を消し去った後は、我が人間の世を支配してやろう。何、皆喜んで我に従ってくれるだろう。『救世主』の言葉ならばな。貴様も生きていれば我の国に入れてやってもよいぞ。こき使ってやる」
「笑わせるな! お前のごときチビ助にできることなどたかが知れているだろう。さっさとおうちに帰っておねんねしたらどうだ」
「貴様のような役立たずは黙って、我の雄姿を見て、人々に語り継ぎ触れ回れ」
「ちゃんちゃらおかしい」
「見栄っ張りは見苦しいな」
第二波より強力な第三波はようやく静まり返る。おおかた倒し終えたようだ。
「あとはあの超巨大なやつだけか」
俺は言って、考えた。
いや、考えずとも、次の行動は決まっていた。もう迷いはない。
「魔王」
「なんだ?」
「俺の魔力を残らず持っていけ。その剣ならばできるはずだ」
「…………」
魔王は無言で超巨大星外獣を見上げる。
「精霊剣五振り分の魔力も、すべてお前にやる。その魔力吸収の魔剣で俺を貫け。悔しいが、お前がこの世界で一番強い。お前にすべてを託すしかないようだ」
「……ふん。最初からそう言っておればいいのだ」
魔王は顔をそらしながら、すねたように返した。こいつもそれしか手がないとわかっているのだろう。
俺は自分の身を差し出した。魔王は魔剣アドノスを構える。
「救ってやる。魔族も人類も、すべてな」
「ああ」
「だが勘違いするな。このままでは魔族も滅びてしまうから、仕方なくあれを倒すのだ。人類を救うのはついでにすぎん」
「さっきと言ってること違くないか? この期に及んで素直ではないな」
「やかましいわ!」
意外にも照れているのか、魔王は顔を赤らめながらまくしたてる。
「あと、近くにいる冒険者の魔力も、飛んでいる竜の魔力も、すべてもらうからな!」
俺はうなずいた。
魔王は剣を振るう。胸から腰に掛けて斜めに切られた俺の体は――脱力して崩折れた。
俺の中にある魔力と、腕の契約の紋章がなくなっている。本当にすべて吸い尽くしたらしい。
「ふん!」
ついでにゼビカも切られた。
だが力は加減してくれたらしい。俺もゼビカも生きている。
目の前には、幼女ではなく、もとの姿に戻ったでかい魔王の姿があった。
「見ておれ! 瞬殺するわあんな図体だけのやつなど! 貴様と戦った時ほどの脅威では全然ないわ! アホが!」
そしてなぜか俺を指さし憎まれ口をたたいて、周囲の竜や冒険者を切っていったあと、《障壁》を足場にして空高く跳躍していった。
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