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第10章 国立学校 (後期)
武術トーナメント戦 2
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それからのみんなの試合は男女ともに力が拮抗していて、それぞれの能力によって勝敗が決まっていく。
だが、やはり女子のほうが勝ち進むのは厳しいようだ。
その分、魔術トーナメントでは男子より女子の方が勝ち進む率は高かったので、うちのクラスは男女それぞれに得意分野的なものがあるのだろう。
そしてとうとう俺の番になったのだが、魔術トーナメントと同じで相手にしてくれない。
……というか、俺の速さに相手がついてこれないのだ。
目の前に軽く移動をしてみせると、相手はあまりの速さに驚いてビクッとする始末。
俺は苦笑いをして一瞬で相手の後ろを取り、首に軽く手刀を入れる。
すると相手は意識を失ってカクンと崩れ落ち、俺は相手を支えるとゆっくりと床に寝かせる。
そして苦笑いをするリッキーが、勝敗を告げるのだ。
……そんな事を3回繰り返し、現在はBチームの決勝戦。
Aチームは魔術トーナメントと違ってセインが大活躍をし、あちらも決勝戦を始めようとしている。
対戦はアンドリューVSセインだ。
さすがクロードが武術に秀でてると言うだけはある。
なので俺としては、対戦相手が話したことのないクラスメイトだから遠慮なく倒してさっさとAチームの決勝戦をみたいと思っているのだが……なかなかリッキーは試合開始の合図をしない。何かあったのかな?
そんな事をしているうちにあちらの試合が始まる。
……まだ始めないなら見ておかなくちゃ!
スコットさんのかけ声で両者は肉薄して接近戦を始めたのだが、わずかにアンドリューの方が素早いようで、セインのパンチや蹴りを全て受け流すか避けるかしている。
もちろんセインも同じく受け流したりしているのだが、若干反応が遅い。
今のところ両者とも相手の攻撃を直接受けていないが、このまま長時間続くとセインが不利なんじゃないかと思う。
なにせアンドリューは獣人とはいえ、れっきとした『ドラゴンのひ孫』なのだから。
それからしばらく戦っていたが、やはり肩で息をしているのはセインの方で、アンドリューは平然とした顔でセインを翻弄している。
セインとしてはもう限界が近いと感じたのか、今までの攻撃とは違って一撃一撃を鋭く切り込むようにはなったが、その分大振りになりがちだ。
アンドリューはそれを見て、大振りの蹴りをセインが放った後に軸となる脚を払い、セインを床に倒してしまった。
そして素早くその喉元に手刀を入れる寸前で止める。
それを見ていたスコットさんは「そこまで!」と言って試合終了を告げた。
その言葉を聞いたアンドリューは、セインから離れる。
セインは床に大の字になって荒い息を吐いていたが、すぐに体を起こして立ち上がった。
「Aチームの優勝者はアンドリューだ。」
改めてスコットさんが周りに聞こえるように宣言すると、アンドリューはとても嬉しそうな顔をする。
対してセインは爽やかな笑顔で拍手を送っている。
「さて、向こうの試合も観れただろ?こっちも試合を始めるぞ。」
急にリッキーがそんな事を言って手をパンパンと打ち鳴らす。
なるほど、俺が向こうの試合を見たがっているのを知って、先に見せてくれたのか。
そうだよね、観たいあまりに焦って試合をするより、観た後にきちんと試合をするほうが対戦相手に失礼がない。
改めてそのことに気付かされて、リッキーの対応に頭が下がる。
改めて俺と対戦相手はBチームの試合場中央で適度に距離をとって対峙する。
向こうもトーナメントを勝ち進んできたから強いのだろうが、俺と向かい合っている顔は諦めの表情をしている。
「試合、始め!」
リッキーのその声に、俺と相手は素早く動く。
相手もこちらに動いて来てはいたのだが、俺の動きが速いので、向こうがあまり動かないうちにあっという間に相手の懐へ入り込む。
入り込んだあと、俺はパンチを繰り出してきた相手の腕を取り、一本背負いで床に叩きつけた。
もちろん俺の全力でやってしまったら相手を死なせてしまうので、ごく軽くを心懸けてはいた。
……心懸けではいたのだが、床に叩きつけた相手は目を回して気絶している。
それを見たリッキーが近づいてきてしゃがんで相手の状態を見ると、ため息をつく。
「お前なぁ……回復魔法使ってやれ。この分だとしばらくは目を覚まさないぞ?」
リッキーの言葉に、俺は慌てて相手に回復魔法を施す。
……ごめんね、そんな強く投げた覚えないんだけど。
回復魔法を施すとすぐに相手は目を覚まし、体を起こして「本当にシエルくんは強いね」と言って苦笑いをする。……ホント、ごめん。
俺たちが立ち上がるとリッキーが「Bチームの優勝者はシエルだ!」と宣言すると、Bチームの会場でも温かい拍手が鳴り響いた。
「……気づいていたか?あいつ、ずっとお前を見ていたぞ?」
リッキーがすれ違いざまにコソッと俺に耳打ちをして戻っていく。
なるほど、アンドリューも俺の試合を見ていたのか。
どんな印象を持ったんだろうな?
それから俺たちは一旦AチームとBチームの試合場の境目辺りに整列する。
最後の試合は俺とアンドリューの試合だ。
全員が揃ったのを見て、マール先生が話し始める。
「それではこれからAチームとBチームのそれぞれの優勝者同士の試合を始めたいと思います。危険はないとは思いますが、その他の生徒は結界の外で観戦してください。皆さんが移動が完了したら、試合を始めたいと思います。」
マール先生のその言葉に、みんなゾロゾロと移動していく。
やはり皆はできるだけ近い所で見たいのか、長方形の修練場の一番真ん中に近い所に集まっている。
そんな皆の視線を受けながら、俺とアンドリューも中央にある白線からほぼ同じ距離に立った。
「……お前、その能力制限の魔道具は取らないのか?」
アンドリューは顰めっ面で俺に向かってそう言う。
……いや、取ったって良いけど……本当に良いの?
俺の声が聞こえたリッキーは苦笑いをして「本当に取っても良いのか?」と代わりに聞いてくれた。
ありがとう。俺が言うと角が立ちそうで困っていたんだ。
「そんなのは決まっているっ!取らないほうが我にとっては侮辱だっ!」
「そりゃあ、そうか。んじゃあ取るから、シエルこっちに来いよ。」
リッキーが聞いたことでキレてしまったアンドリューに、呆れた顔でリッキーは俺を呼んだ。
……ごめん、俺のせいで怒られちゃったな。
俺がしょんぼりとしながら向かうと、リッキーは「気にするなよ?」と言って笑った。
俺はリッキーに魔道具を取り外してもらうと、また同じ位置に戻る。
それを見て「ふんっ!」と高飛車な態度で思いっきりそっぽを向くアンドリュー。
……彼は、万が一にも俺に負けるかもしれないことを考えに入れてないのかな?
「さて、では武術トーナメント戦の最終試合を始めます!2人とも構えて!……では、始め!」
マール先生のかけ声に、一気に距離を詰める俺たち。
案外アンドリューも皆と戦う時には手加減をしていたようで、思ったよりも素早いようだ。
若干アンドリュー側の位置で戦い始め、俺はどこまでの力をだして良いのか分からないので多少力を抜くことにした。速さは変えないけどね!
まずは様子見に……とパンチを何発か打ち込むと、俺の力が強かったからか受け流しきれずにそのまま食らうものもあったようで、とても痛そうな顔をした。
……ごめん、後で回復してあげるね。
そのパンチを食らったことでようやくアンドリューも俺の力の強さを理解したらしく、彼の家系独特の特徴である『竜化』で皮膚にドラゴンの鱗のような物を現した。
どうやらそれは見えるところだけではなく全身に及ぶらしく、軽いパンチ程度ではほとんどダメージは入ってないようだ。
「……ふんっ!まさか貴様にこれを使うことになるとはなっ!たが、我がこれをすることによってもう貴様には勝ち目はない。諦めて降参するんだな!」
アンドリューは俺とまるでスパーリングのような感じで、互いにものすごいスピードでパンチや蹴りを応酬し合う。
なるほど、確かに彼は『竜化』によって今までのスピードや力、打たれ強さが格段に強くなったようだ。
だが俺も力を抑えて戦っていたので、これならば……と本気で戦うことにした。
俺のスピードは変わらずとも、先程までのパンチの威力とは比べ物にならないほどの重いパンチに、またもや受け流せなくなっていったアンドリュー。
それによって彼は俺が能力制限の魔道具を取ったにも関わらず手加減していたことを知り、怒りで顔が真っ赤に染まっていった。
「き…貴様っ!まさか最初は手加減していたのかっ!?あれほど見くびられるのが嫌いだと示したにも関わらず、そんな事をしやがってっ!」
アンドリューは怒りによってさらなるスピードを上げつつ、そう言った。
ごめん、やっぱり気づいたか。
俺は口には出さなかったが、心の中では申し訳なさでいっぱいになった。
……ならばお詫びも兼ねて、全力の一撃をくりだすことにしよう。
俺はそう心に決めると、一旦アンドリューとは距離を取った。
すぐさま追撃を加えようと近寄ってきた彼に向かって、今持てるスピードと力を込めて正拳突きの要領で腹にパンチを入れた。
すると彼はそれを避ける事も受け流す事もできずにまともに受けてしまい、かなりのスピードで後ろに吹っ飛んでいって、観客の目の前にある結界にぶち当たって動かなくなってしまった。
俺は慌てて彼の元へと向かう。
……万が一でも『死ぬ直前』だとしても生還させるから!
俺はそんな気持ちで向かい、彼の状態を診る。
すると、やはり先ほどのパンチで内臓や肋骨、あちこちの腕や足などの骨に損傷があり、結構瀕死に近かった。
俺は慌てて回復をし始めようとすると、リッキーが「先に彼に戦闘能力があるかを確認する」と言い出し、素早く確認し始めた。早く頼むよ!?
声をかけても意識がないことで俺の勝利を宣言すると、俺は即座に彼に全力で回復魔法をかけた。
俺の魔法で彼は全身眩く銀色に光り輝き、あちこちにある傷などをどんどん癒していく。
変な方向に折れていた骨も、あっという間に元通りに戻っていった。
ものの数分で全く怪我が無い状態に戻ったが、彼の意識だけはまだ戻らなかった。
そこで、マール先生はアンドリューのそばへしゃがみ込むと彼の状態を確認する。
「今回は色々ありましたが、武術トーナメント戦の総合優勝者はシエルくんに決まりました。私はこれからアンドリューくんを保健室に連れていきますので、皆さんはスコット達と一緒に先に教室に帰っていてください」
マール先生はアンドリューをおんぶすると、俺たちにそう言って修練場をあとにした。
残った俺たちは先生の言う通り、スコットさん達と教室へと向かう。
その間、クラスメイト達からは「シエルくんが悪かったわけじゃないから気にしなくて良いんだよ?」と次々に慰められた。
そうは言っても、怪我をさせたのには変わりはない。
……治したけど、そこは変わらない。
俺はマール先生が去った方向を見て、立ち止まる。
……う~ん、彼は大丈夫なんだろうか……?
だが、やはり女子のほうが勝ち進むのは厳しいようだ。
その分、魔術トーナメントでは男子より女子の方が勝ち進む率は高かったので、うちのクラスは男女それぞれに得意分野的なものがあるのだろう。
そしてとうとう俺の番になったのだが、魔術トーナメントと同じで相手にしてくれない。
……というか、俺の速さに相手がついてこれないのだ。
目の前に軽く移動をしてみせると、相手はあまりの速さに驚いてビクッとする始末。
俺は苦笑いをして一瞬で相手の後ろを取り、首に軽く手刀を入れる。
すると相手は意識を失ってカクンと崩れ落ち、俺は相手を支えるとゆっくりと床に寝かせる。
そして苦笑いをするリッキーが、勝敗を告げるのだ。
……そんな事を3回繰り返し、現在はBチームの決勝戦。
Aチームは魔術トーナメントと違ってセインが大活躍をし、あちらも決勝戦を始めようとしている。
対戦はアンドリューVSセインだ。
さすがクロードが武術に秀でてると言うだけはある。
なので俺としては、対戦相手が話したことのないクラスメイトだから遠慮なく倒してさっさとAチームの決勝戦をみたいと思っているのだが……なかなかリッキーは試合開始の合図をしない。何かあったのかな?
そんな事をしているうちにあちらの試合が始まる。
……まだ始めないなら見ておかなくちゃ!
スコットさんのかけ声で両者は肉薄して接近戦を始めたのだが、わずかにアンドリューの方が素早いようで、セインのパンチや蹴りを全て受け流すか避けるかしている。
もちろんセインも同じく受け流したりしているのだが、若干反応が遅い。
今のところ両者とも相手の攻撃を直接受けていないが、このまま長時間続くとセインが不利なんじゃないかと思う。
なにせアンドリューは獣人とはいえ、れっきとした『ドラゴンのひ孫』なのだから。
それからしばらく戦っていたが、やはり肩で息をしているのはセインの方で、アンドリューは平然とした顔でセインを翻弄している。
セインとしてはもう限界が近いと感じたのか、今までの攻撃とは違って一撃一撃を鋭く切り込むようにはなったが、その分大振りになりがちだ。
アンドリューはそれを見て、大振りの蹴りをセインが放った後に軸となる脚を払い、セインを床に倒してしまった。
そして素早くその喉元に手刀を入れる寸前で止める。
それを見ていたスコットさんは「そこまで!」と言って試合終了を告げた。
その言葉を聞いたアンドリューは、セインから離れる。
セインは床に大の字になって荒い息を吐いていたが、すぐに体を起こして立ち上がった。
「Aチームの優勝者はアンドリューだ。」
改めてスコットさんが周りに聞こえるように宣言すると、アンドリューはとても嬉しそうな顔をする。
対してセインは爽やかな笑顔で拍手を送っている。
「さて、向こうの試合も観れただろ?こっちも試合を始めるぞ。」
急にリッキーがそんな事を言って手をパンパンと打ち鳴らす。
なるほど、俺が向こうの試合を見たがっているのを知って、先に見せてくれたのか。
そうだよね、観たいあまりに焦って試合をするより、観た後にきちんと試合をするほうが対戦相手に失礼がない。
改めてそのことに気付かされて、リッキーの対応に頭が下がる。
改めて俺と対戦相手はBチームの試合場中央で適度に距離をとって対峙する。
向こうもトーナメントを勝ち進んできたから強いのだろうが、俺と向かい合っている顔は諦めの表情をしている。
「試合、始め!」
リッキーのその声に、俺と相手は素早く動く。
相手もこちらに動いて来てはいたのだが、俺の動きが速いので、向こうがあまり動かないうちにあっという間に相手の懐へ入り込む。
入り込んだあと、俺はパンチを繰り出してきた相手の腕を取り、一本背負いで床に叩きつけた。
もちろん俺の全力でやってしまったら相手を死なせてしまうので、ごく軽くを心懸けてはいた。
……心懸けではいたのだが、床に叩きつけた相手は目を回して気絶している。
それを見たリッキーが近づいてきてしゃがんで相手の状態を見ると、ため息をつく。
「お前なぁ……回復魔法使ってやれ。この分だとしばらくは目を覚まさないぞ?」
リッキーの言葉に、俺は慌てて相手に回復魔法を施す。
……ごめんね、そんな強く投げた覚えないんだけど。
回復魔法を施すとすぐに相手は目を覚まし、体を起こして「本当にシエルくんは強いね」と言って苦笑いをする。……ホント、ごめん。
俺たちが立ち上がるとリッキーが「Bチームの優勝者はシエルだ!」と宣言すると、Bチームの会場でも温かい拍手が鳴り響いた。
「……気づいていたか?あいつ、ずっとお前を見ていたぞ?」
リッキーがすれ違いざまにコソッと俺に耳打ちをして戻っていく。
なるほど、アンドリューも俺の試合を見ていたのか。
どんな印象を持ったんだろうな?
それから俺たちは一旦AチームとBチームの試合場の境目辺りに整列する。
最後の試合は俺とアンドリューの試合だ。
全員が揃ったのを見て、マール先生が話し始める。
「それではこれからAチームとBチームのそれぞれの優勝者同士の試合を始めたいと思います。危険はないとは思いますが、その他の生徒は結界の外で観戦してください。皆さんが移動が完了したら、試合を始めたいと思います。」
マール先生のその言葉に、みんなゾロゾロと移動していく。
やはり皆はできるだけ近い所で見たいのか、長方形の修練場の一番真ん中に近い所に集まっている。
そんな皆の視線を受けながら、俺とアンドリューも中央にある白線からほぼ同じ距離に立った。
「……お前、その能力制限の魔道具は取らないのか?」
アンドリューは顰めっ面で俺に向かってそう言う。
……いや、取ったって良いけど……本当に良いの?
俺の声が聞こえたリッキーは苦笑いをして「本当に取っても良いのか?」と代わりに聞いてくれた。
ありがとう。俺が言うと角が立ちそうで困っていたんだ。
「そんなのは決まっているっ!取らないほうが我にとっては侮辱だっ!」
「そりゃあ、そうか。んじゃあ取るから、シエルこっちに来いよ。」
リッキーが聞いたことでキレてしまったアンドリューに、呆れた顔でリッキーは俺を呼んだ。
……ごめん、俺のせいで怒られちゃったな。
俺がしょんぼりとしながら向かうと、リッキーは「気にするなよ?」と言って笑った。
俺はリッキーに魔道具を取り外してもらうと、また同じ位置に戻る。
それを見て「ふんっ!」と高飛車な態度で思いっきりそっぽを向くアンドリュー。
……彼は、万が一にも俺に負けるかもしれないことを考えに入れてないのかな?
「さて、では武術トーナメント戦の最終試合を始めます!2人とも構えて!……では、始め!」
マール先生のかけ声に、一気に距離を詰める俺たち。
案外アンドリューも皆と戦う時には手加減をしていたようで、思ったよりも素早いようだ。
若干アンドリュー側の位置で戦い始め、俺はどこまでの力をだして良いのか分からないので多少力を抜くことにした。速さは変えないけどね!
まずは様子見に……とパンチを何発か打ち込むと、俺の力が強かったからか受け流しきれずにそのまま食らうものもあったようで、とても痛そうな顔をした。
……ごめん、後で回復してあげるね。
そのパンチを食らったことでようやくアンドリューも俺の力の強さを理解したらしく、彼の家系独特の特徴である『竜化』で皮膚にドラゴンの鱗のような物を現した。
どうやらそれは見えるところだけではなく全身に及ぶらしく、軽いパンチ程度ではほとんどダメージは入ってないようだ。
「……ふんっ!まさか貴様にこれを使うことになるとはなっ!たが、我がこれをすることによってもう貴様には勝ち目はない。諦めて降参するんだな!」
アンドリューは俺とまるでスパーリングのような感じで、互いにものすごいスピードでパンチや蹴りを応酬し合う。
なるほど、確かに彼は『竜化』によって今までのスピードや力、打たれ強さが格段に強くなったようだ。
だが俺も力を抑えて戦っていたので、これならば……と本気で戦うことにした。
俺のスピードは変わらずとも、先程までのパンチの威力とは比べ物にならないほどの重いパンチに、またもや受け流せなくなっていったアンドリュー。
それによって彼は俺が能力制限の魔道具を取ったにも関わらず手加減していたことを知り、怒りで顔が真っ赤に染まっていった。
「き…貴様っ!まさか最初は手加減していたのかっ!?あれほど見くびられるのが嫌いだと示したにも関わらず、そんな事をしやがってっ!」
アンドリューは怒りによってさらなるスピードを上げつつ、そう言った。
ごめん、やっぱり気づいたか。
俺は口には出さなかったが、心の中では申し訳なさでいっぱいになった。
……ならばお詫びも兼ねて、全力の一撃をくりだすことにしよう。
俺はそう心に決めると、一旦アンドリューとは距離を取った。
すぐさま追撃を加えようと近寄ってきた彼に向かって、今持てるスピードと力を込めて正拳突きの要領で腹にパンチを入れた。
すると彼はそれを避ける事も受け流す事もできずにまともに受けてしまい、かなりのスピードで後ろに吹っ飛んでいって、観客の目の前にある結界にぶち当たって動かなくなってしまった。
俺は慌てて彼の元へと向かう。
……万が一でも『死ぬ直前』だとしても生還させるから!
俺はそんな気持ちで向かい、彼の状態を診る。
すると、やはり先ほどのパンチで内臓や肋骨、あちこちの腕や足などの骨に損傷があり、結構瀕死に近かった。
俺は慌てて回復をし始めようとすると、リッキーが「先に彼に戦闘能力があるかを確認する」と言い出し、素早く確認し始めた。早く頼むよ!?
声をかけても意識がないことで俺の勝利を宣言すると、俺は即座に彼に全力で回復魔法をかけた。
俺の魔法で彼は全身眩く銀色に光り輝き、あちこちにある傷などをどんどん癒していく。
変な方向に折れていた骨も、あっという間に元通りに戻っていった。
ものの数分で全く怪我が無い状態に戻ったが、彼の意識だけはまだ戻らなかった。
そこで、マール先生はアンドリューのそばへしゃがみ込むと彼の状態を確認する。
「今回は色々ありましたが、武術トーナメント戦の総合優勝者はシエルくんに決まりました。私はこれからアンドリューくんを保健室に連れていきますので、皆さんはスコット達と一緒に先に教室に帰っていてください」
マール先生はアンドリューをおんぶすると、俺たちにそう言って修練場をあとにした。
残った俺たちは先生の言う通り、スコットさん達と教室へと向かう。
その間、クラスメイト達からは「シエルくんが悪かったわけじゃないから気にしなくて良いんだよ?」と次々に慰められた。
そうは言っても、怪我をさせたのには変わりはない。
……治したけど、そこは変わらない。
俺はマール先生が去った方向を見て、立ち止まる。
……う~ん、彼は大丈夫なんだろうか……?
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