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第10章 国立学校 (後期)
『ブレイズ』へのダンジョン遠征 34
しおりを挟むそれから俺はユーリを抱きしめたまま、辺りを見渡す。
そばにはリッキーとアンドリューがいたが、リッキーはともかくとしてアンドリューは目を見開いたまま気絶でもしているのかと思うほど動かない。
俺は苦笑いをしてアンドリューのそばに行き、目の前で手をヒラヒラさせたが全く反応がない。
……あれ?もしかして本当に気絶してる?
俺は慌てて振り向くと、遠くでよくわからないけどクラスメイト達も全く動いていないようだ。
「あれ……?みんな動いてないね?」
俺がそう呟くと、リッキーが「あの『自称神様』が時間を止めてるんじゃね?」と言う。
あ、その可能性もあるのか。
だから姿を変えて出てきた、と。
それを見られるわけにいかないから、止めたのかもしれない。
どうもスコットさん達も止まってるっぽいから、予想は当たってるのかもね。
でもリッキーが動いているところを見ると、彼にはもう知られているから気にしなかったのかな?
俺がそう考えて苦笑いをしたところで時間は動き出した。
その瞬間に、アンドリューは目を瞬かせてキョトンとすると、辺りをキョロキョロとする。
辺り一面が草木も生えていない場所になっているのを見てホッとしたようで、その顔には『夢じゃなかった』と書かれているようだ。
「……シエルよ。先ほどまであそこに黒い入り口がなかったか?なんだか急に無くなったように感じるのだが……?」
アンドリューは魔物が大量に出てきていたものがあったあたりを指差し、首を傾げる。
「あ~……確かにあったんだけど……消滅したよ。」
「……消滅した、だと?」
「うん、無くなっちゃった!」
俺は努めて明るく、何でもなかったように振る舞う。
それを見たアンドリューは少し訝しげな表情にはなったが、実際に消滅しているのでそれ以上の追及はなかった。
それから俺達はあちこちに行ってしまった仲間を探しに行く。
リリーさんは案外近くにいて、まだうつ伏せで倒れていたので慌てて体を起こすと、不貞腐れた顔で「お~そ~い~っ!!」と怒られてしまった……。
「なんだよ、自分で起きりゃ良かったじゃねぇか。」
「何よぉ~っ!それでも私の婚約者なの!?ひ~ど~い~っ!」
「あぁ、はいはい。ほらよっと。これで良いか?」
リッキーは拗ねてぐずっているリリーさんをお姫様抱っこして運ぶ。
リリーさんも顔を真っ赤にしながら拗ねた顔をしているが、ちょっと嬉しそうだから満更でもないのだろう。
その後、グリーさんとリーシェさんはさらに遠くの方に避難していたようで、俺がクラスメイト達の所へ戻ってきた頃に2人とも戻ってきた。
「いやぁ~、凄い威力だったねぇ!あれは確かに『必殺技』って言えるよ。」
「せやなぁ。あれは確かにすごいと思うで。私も嫌な予感したから遠くへ飛んでいってんけど、それが正解やったみたいや。」
帰ってきた2人は俺を見つけると、まるでマシンガントークのように次から次へと質問を問いかけてくる。
……うぅ、少し休ませて欲しいなぁ。喉カラカラなんだけど。
とりあえず倒したのがこのフロアのボスではなかったのは残念だったけど、正直もうヘトヘトなのでさっさとダンジョンから出たい。
なので、こっそりとブレイスに声をかけた。
『なんですか、マスター?』
『いや、やっと事態が落ち着いたから、このダンジョンを出るための転移石が欲しいな?と思ってな。人数分貰えないだろうか?』
俺がダメ元で頼むと、ブレイズは二つ返事で転移石をくれることになった。
『送る場所はどこにします?』
『ん~……この島にある休憩所はまだ健在か?』
『はい、大丈夫ですよ!その場所からかなり距離ありましたから。じゃあそこに置いておきますか?』
『ああ、そうしてくれないか。できれば分かりやすくなっていると助かるんだけど。』
『了解しました!』
俺はブレイズと連絡を切ると、みんなはそこで待っているように伝える。俺だけで転移するのが早いしね。
俺だけなのであっという間に休憩所へ到着。
するとそれを見たブレイズが急に目の前に現れた。
「なんだ、ブレイズ本人が来たのか?置いてもらえるだけでも良かったんだけど。」
俺がそう言うと、ブレイズは緩く首を振る。
「いえ、マスター1人だけでしたので、直接来ました。」
ブレイズはそう言うとニッコリと笑う。
「今回はこのダンジョンの危機を救っていただき、ありがとうございました。あのままだったらこのダンジョンは滅茶苦茶になり、新しくダンジョンマスターになった私も影響を受けて、何かしら精神に異常をきたしていた可能性もあったんです。今のところこのダンジョンはあの魔界からやって来たという魔物たちの亡骸を吸収しておらず、問題はありません。通常は討伐された魔物は即座にダンジョンに吸収されるのですが、多分先ほど創造神様がいらっしゃったので何かしら施していかれたのではないかと思われます。」
ブレイズは案外物騒なことを言い、俺に転移石の入った袋を手渡した。
「これが転移石の入った袋です。多分人数以上にたくさん入っていると思いますので、残ったら獣人兵の方にでもあげてください。」
「ああ、わかった。……それよりも、お前の体とかは本当に大丈夫なのか?」
俺が心配そうにそう聞くと、ブレイズは嬉しそうに「大丈夫ですよ、マスター」と答えた。
「なら良いんだけどさ。もしなんかあったら連絡してこいよ?あれなんだろ?従魔とは離れていても会話できるんだろ?」
「ええ、可能だと思います。」
「なら、なんか体の不調とか出たら知らせろよ?」
「……マスターは優しいですね。」
「そうか?」
「はい。つい……このダンジョンを出てついて行きたくなるくらいに。」
ブレイズはそう言うと少し寂しそうに「でも、私はそれができませんから」と言った。
そっか、ダンジョンマスターってダンジョンから出てはいけないんだったか?
死んでしまうとダンジョンも死んでしまい、中にいる冒険者とかはもう2度と外に出れなくなると聞いたことがある。
……こいつにも安全の為に『アレ』を作って渡すか。
俺は腕輪から透明でキラキラ光るダイヤモンドみたいな魔石を1つかみ取り出す。
それに魔力を込めながら捏ね、腕輪の形に整え、魔法を付与する。
俺はそれをブレイズへと差し出した。
「マスター、これは?」
「それはお前の身体や精神を守ってくれるものだよ。もちろん結界も付与してある。さあ、今すぐ着けて。」
俺は急かすようにブレイズにブレスレットをつけるよう促す。
ブレイズは不思議そうな顔をしつつ、それを身に着けてくれた。よし、これでブレイズも安心だね!
「そのブレスレットには自動で発動する回復魔法と結界魔法を付与しているからね。何かあっても大丈夫だよ。」
俺の言葉に、ブレイズは驚いた顔をする。
そして次の瞬間、破顔した。
「マスター!ありがとうございます!これでビクビクしながら過ごすことも無くなるのですね!」
どうやらブレイズも「いつかは冒険者に出会ってしまい、討伐されるのではないか?」という不安があったらようだ。
それはロックさんからも聞いていたことだから、やっぱりなって感じだね。
「じゃあ俺、そろそろ行くよ。」
「もう帰られるのですね……。少し寂しいですが、約1週間の予定でしたから、そろそろ帰られる頃だと思っていました。また機会がありましたら、攻略しに来てください!」
「ああ、その時こそ完全踏破を目指してみるさ!またなプレイズ。元気でな!」
「マスターもお元気で!」
俺たちはそう挨拶を交わすと、それぞれ元いた場所へと戻った。
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