カミサマカッコカリ

ミヤタ

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エピローグ

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 榛名の歌声はプログラムをふるいに掛ける。古く、使われないものや、ウイルスはこの時点で榛名の歌声で粉砕され、壊されて消える。それが可視化されることで松宮は今まで榛名が歌っていたのはそのためだったのかと知る。国全域に届くような大きな声ではない。マイクも何も無い。それでも声は人々に、大地に大気に届く。榛名の歌声はプログラムそのものだ。プログラムが共鳴し聞こえるのだ。聞こえてふるわれて、そしてウイルスは殺され、バグは修正される。この国にあった楔は、おそらくドラゴン。それを倒した時点で楔ははずされていた。歌い終わった榛名は黙って大地を見る。国を見る。日が昇り、まぶしそうに目を細めていた。
「何で泣いてるの」
「俺、今まで知らなかった。先生の声がとても綺麗だって事ぐらいしか。歌に力があるのは知ってたけれど、こんなにも」
「君、泣き虫だね」
「うるさいです。ちょっと感動してたのに」
 国のプログラムがかちりと嵌って、動き出す。それが榛名にはわかる。ふぅと息をついてやっと微笑む。朝は来る。これは変わらない事実だ。ギターを片手にアンプを持って振り返れば松宮が泣いていた。それに驚いて思わず笑った。
「アンプ。片付けて。これでこの国でのお仕事は終わり」
「俺、本当にカミサマカッコカリワライだなぁ」
「何言ってるの。君にはまだまだ働いてもらわなきゃ。プログラムを制定し、ウイルスを殺してもバグは自然発生するんだから定期的にみてまわるんですよ」
「はい」
「じゃあ、ご飯食べたら次の国に向かいましょうか」
「はい」
 アンプとギターを片付け、ごしごしと目をこする。バギーでふもとまでおりてキャラバンに戻れば、入り口で全員が待っていた。
「ただいま」
「お帰りなさい。先生」
 小人族の女の子たちが泣きながら抱きつく。それを抱きとめて榛名は笑う。
「困ったな。うちのキャラバンは泣き虫ばかりが集まってる」
「ぜんぜええええええええええええ」
 号泣しているコンにちょっと引きながらも一人ひとりの頭をなでてみんなに頭を下げた。
「心配かけさせました。申し訳ない」
「せんせええええええええ」
 全員にもみくちゃにされ、わんわんと泣き声が響く。本当になんでこんなに泣き虫がそろったのかなと思わず笑って、ご飯にしましょうと告げる。後ろで弟子がコンと抱き合ってまた泣いてるので榛名はいい加減にしろと、タオルを顔に投げつけた。
「榛名先生」
 町の人たちが集まってくる中をガウ大佐がかきわけてくる。
「大佐、ご心配おかけしました」
「大丈夫なのですか?倒れられたと聞いたときには本当に心配しました。ご無事でよかった。松宮殿から、抜け道を教えてもらったので今は空洞内部を通り抜けております。ありがとうございました。土砂から生きて見つかった者も残念ながら亡くなった者も全員、救出が完了しております。あとは土砂の撤去作業を行えばいつもどおり、外周も使えるようになります。本当にありがとうございました」
 状況を聞き、安心する。
「いえ。大佐にはご迷惑をおかけしました」
「王も喜んでおられます。先生がお目覚めになられたのは王にも伝わったでしょう」
「ドラゴンに対処できて本当に良かった」
「王にお会いになられてから出発されますか?」
「いえ、このまま次の国に参ろうかと思います。荷造りを終えたらサロアラウへと向かいます。半月も長居してしまいましたので」
「とんでもない。脅威を取り去ってくれたばかりか伝説のドラゴンまで退治してくださるとは思わなかったのです」
「大佐は姿を見てないのによく信じましたね」
 松宮が不思議そうに告げれば、一瞬えっと驚いた表情を浮かべる。
「ドラゴンの死骸は見ましたよ。地底まで降りましたので」
「えっ」
「消えてない?なんで?先生消えたよね?」
「消しましたよ。なんで」
 顔を見合わせる二人はガウ大佐とともに空洞内にはいる。時間短縮のために滑車をつかって最下層に降りると光で空間を照らした。柱は折れたままだ。そして二人は絶句する。確かにドラゴンの死骸はそこにあった。消えたはずのドラゴンは眠るように、でもその体に生命は無い。形骸化したプログラムだけが沈黙を守っている。
「これは王には」
「はい。ちゃんと映像として転送してあります」
「ああ。では、この死骸自体もバグとして扱います。プログラム術式で消してしまいますので。残っていて悪用されてはかなわない」
「無害ではないのですか?」
「無害だからこそです。死んでいますよ。命が終わっている。ですが、よからぬ者がまた命を吹き込む可能性もあります」
「よからぬもの?」
「ええ。ドラゴンが目覚めたのもそいつのせいなのです」
 松宮がドラゴンの死骸に術式を展開させていく。見えるようにわかりやすいように、透明な箱の中に入れて術式で縛り上げる。それを小さく折りたたむと両手のひらに乗るサイズとなった。
「これを隔離保管します」
「松宮殿はこのようなすごい使い手でいらっしゃるのにお弟子のままなのですか?」
 驚いている大佐の前で松宮はそれを永久凍結させた。
「ええ。俺はまだ先生の足元にも及びませんから。まだまだ習うこともたくさんあります。これも先生に教えてもらったのでちゃんとできて安心しているところです」
 榛名に手渡し、目の前の空間をスキャンしてデータが残っていないことを確かめる。
「これで安全に移動できるとは思いますが、何も居ないと動物やら盗賊たちが根城にする可能性もあります。極力封鎖して、使わないようにしてください」
 榛名に言われて了承をえる。この様子もすべて保存され、王に提出された。
「後片付けとはなんだったのか」
 ガウ大佐と別れ、市民や町の人々から惜しまれながら荷を積んで榛名のキャラバンは昼過ぎにベルラウを出発した。大街道を進みながら元に戻された執務室のソファーでぐったりとだらけながら松宮が言う。
「思わぬ弊害に私が一番びっくり」
「あと、先生、あの若い姿じゃないんだなって」
「そりゃあそうでしょう。いきなり若返ったらみんな怖がりますから。それにこの姿は大変気に入ってる。君もがんばってしばらく笑われなさい」
「ちゃんと話したらなんでコンが大爆笑するんだよ。しんじらんねえ」
「君だって私のことカミサマカッコカリワライって言ってたでしょう」
 それを言われてしまうともう反論できない。だらけていた体を起こし、執務室の自分の机に座っている榛名に向く。
「先生」
「ん」
「俺、神様一年生だし、まだ本当に先生みたいな神様になれないカミサマカッコカリだけど、どうかよろしくお願いします」
 深々と頭を下げる弟子に、目を細めて笑う。
「はい。よろしくお願いします。君には早く一人前になってもらうために厳しく行きましょうか」
「げぇ。それだけはかんべんしてください!」
 飛び上がって逃げていく弟子を笑いながら見送る。倒れている間にたまったメールを送りながら榛名は窓の外を眺めた。
 青空が広がり今日も一日暑くなりそうだ。のんびりとキャラバンは進んで行く。確実に少しずつ。それを良しとしながら榛名はメールの返事を書くためにキーボードに指を滑らせるのであった。

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